ブラジル中銀、利上げサイクルを継続も次回は「同程度かそれ以下」で

~レアル相場、ボベスパ指数は外部環境に左右される状況が続くことは避けられそうにない~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は先進国を中心にコロナ禍からの回復が続く一方、ウクライナ情勢の悪化も理由に国際商品市況は上振れするなど世界的なインフレが懸念される。米FRBなど主要国中銀がタカ派傾斜を強めるなか、経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国を巡る状況は厳しさを増している。ブラジルは商品高にも拘らず交易条件が悪化しており、経常赤字と財政赤字の双子の赤字に加え、昨年来はインフレが昂進するなどファンダメンタルズは極めて脆弱である。企業マインドは改善が続く一方、物価高と金利高に直面している。
  • 足下のインフレ率は高止まりするなか、中銀は15日の定例会合で11会合連続の利上げを決定するも、利上げ幅を50bpに縮小した。先行きのインフレ見通しを上方修正しており、次回会合では「同程度かそれ以下の調節」を行うとし、利上げサイクルを継続させる一方でペースを後退させる姿勢を示した。足下のレアル相場は米FRBなどのタカ派傾斜が重石となり、主要株価指数も商品市況の頭打ちが調整圧力となるなか、先行きについても外部環境に左右される展開が続くことは避けられそうにない。

足下の世界経済を巡っては、欧米など主要国を中心にワクチン接種を前提に経済活動の正常化を図る『ウィズ・コロナ』戦略も追い風に景気回復の動きが続く一方、中国では当局の『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が足かせとなる動きが顕在化しており、中国経済への依存度が高い新興国景気は下振れするなど対照的な動きがみられる。ただし、全体としての世界経済は先進国を中心にコロナ禍からの回復が続く一方、ウクライナ情勢の悪化を受けた欧米などの対ロ経済制裁の強化も影響して幅広く国際商品市況は上振れするなど、全世界的にインフレ圧力が強まっている。米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀を中心にタカ派傾斜を強めており、国際金融市場においてはコロナ禍を経た全世界的な金融緩和を追い風とする『カネ余り』が意識された状況は急激な変化を余儀なくされている。新興国においては、世界的なカネ余りに加え、主要国における金利低下も追い風に一部のマネーがより高い収益を求めて回帰する動きがみられたものの、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に状況が一変することが意識されている。ブラジルは慢性的な経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』を抱える上、インフレも常態化するなど経済のファンダメンタルズが脆弱であり、2013年に当時の米FRBのバーナンキ元議長による量的緩和政策の縮小を示唆する発言を契機とする国際金融市場の動揺(テーパー・タントラム)に際して資金流出が集中した5ヶ国(フラジャイル・ファイブ)の一角に挙げられた。足下のブラジルはコロナ禍対応を理由に財政状況は悪化している上、昨年以降は歴史的大干ばつという特殊事情も影響してエネルギー価格が押し上げられるなか、コロナ禍からの景気回復も重なりインフレ率は加速の度合いを強めている。よって、中銀は昨年3月以降断続的に利上げ実施に動くとともに、インフレ昂進を受けて引き締め度合いを強めており、物価高と金利高が共存する展開が続いている。他方、ブラジルは南米有数の資源国であり、国際商品市況の上振れは交易条件の改善を促すことが期待されるものの、現実には昨年後半以降は通貨レアル安による輸入物価の押し上げも重なり交易条件指数は頭打ちの動きを強めている。このように景気を取り巻く状況には厳しさが増す要因が山積しているものの、年明け以降のブラジル景気は世界経済の回復が外需を押し上げるとともに、財政出動を通じた家計支援も追い風に家計消費も底堅く推移するなど、全体として底入れの動きが続いている(注1)。さらに、足下の企業マインドを巡っては政府による財政支援に加え、コロナ禍からの景気回復による雇用回復も追い風にサービス業を中心に改善の動きを強めており、足下の景気は一段と底入れの動きを強めていると捉えられる。ただし、その背後ではインフレ率は高止まりして中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続いており、伝統的に『タカ派』的な政策運営を行う傾向がある中銀にとり難しい対応が迫られる展開が続いてきた。

図 1 交易条件指数の推移
図 1 交易条件指数の推移

図 2 製造業・サービス業 PMI の推移
図 2 製造業・サービス業 PMI の推移

なお、中銀は先月の定例会合において10会合連続の利上げを決定するとともに、利上げ幅も100bpとするなどタカ派姿勢を堅持したものの(11.75%→12.75%)、先行きについては利上げサイクルを継続する一方で利上げ幅を小幅に調整するなど景気に配慮する動きをみせていた(注2)。さらに、先行きの物価見通しについて一段の上振れに繋がるリスクが後退していることを示すなど、景気見通しに対して慎重な見方を強めている様子がうかがわれた。直近5月のインフレ動向を巡っては、コアインフレ率は引き続き加速感を強める一方、インフレ率はわずかに鈍化するなど頭打ちの兆候が出ている。こうしたことから、中銀は15日に開催した定例の金融政策委員会において政策金利を11会合連続で引き上げる一方、利上げ幅を50bpに縮小するなど引き締めペースを一段と後退させる姿勢をみせた(12.75%→13.25%)。会合後に公表された声明文では、今回の決定も「全会一致でなされる」とともに、世界経済について「一段と下振れしている」との見方を示す一方、同国経済については「想定を上回る動きをみせている一方、物価動向についてはネガティブ・サプライズが続いている」との見解を示した。その上で、先行きの物価見通しについて「今年は+8.8%、来年は+4.0%、再来年は+2.7%になる」と5月時点(今年は+7.9%)から一段と上方修正している。他方、先行きの政策運営を巡っては「次回会合に向けて同程度かそれ以下の新たな調整を行うことを見込んでいる」として、利上げサイクルを継続する一方でそのペースを一段と鈍化させる可能性を示唆している。足下の国際金融市場においては、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜が米ドル高圧力を招いていることを受けてレアル相場に調整圧力が掛かっているほか、中国における『ゼロ・コロナ』戦略が重石となる形で商品市況に下押し圧力が掛かるなかで主要株価指数(ボベスパ指数)も調整するなど厳しい状況に直面している。中銀がタカ派姿勢を維持していることはレアル相場の下支えに繋がる可能性はあるものの、先行きについても同国金融市場は外部環境に揺さぶられやすい展開が続くことは避けられそうにない。

図 3 インフレ率の推移
図 3 インフレ率の推移

図 4 レアル相場(対ドル)と主要株価指数の推移
図 4 レアル相場(対ドル)と主要株価指数の推移

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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