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2021.12.23
新興国経済
新型コロナ(経済)
南アフリカ経済
南アフリカ、オミクロン株の流行は早くもピークアウトか?
~同国の「特殊性」に留意が必要な一方、ランド相場は今後も国際金融市場の動向の影響を受けよう~
西濵 徹
要旨
- 南アフリカを含むアフリカ地域は世界的にみてワクチン接種が遅れる展開が続くなか、先月末に同国で新型コロナウイルスの新たな変異株(オミクロン株)が確認された。その後は世界的に感染拡大の動きが広がるとともに、同国でも感染拡大の動きがオミクロン株に置き換わることで感染動向が急速に悪化する事態に見舞われた。足下では依然として感染爆発が懸念される状況が続いているが、新規陽性者数や陽性率は頭打ちしているほか、重症化率も低いなど早くもピークアウトが意識されつつある。感染動向の悪化や米FRBの「タカ派」傾斜を受けて通貨ランド相場は調整したが、感染動向のピークアウトは明るい材料となり得る一方で懸念材料は山積する。当面のランド相場は引き続き国際金融市場の動向に揺さぶられる点に要注意である
南アフリカを巡っては、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)向けワクチンの供給不足に加え、地方部を中心に医療インフラの脆弱さを理由にワクチンに対するアクセスの機会が乏しいほか、過去の欧州諸国による植民地支配の影響で部族社会を中心に西洋医学に対する拒否感が根強く残ることもあり、主要新興国のなかでもワクチン接種が遅れる展開が続いている。事実、今月21日時点における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は26.30%、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)は31.49%に留まるなど、国民の3割程度しかワクチンにアクセス出来ていない状況にある。なお、アフリカ全体でみれば完全接種率は1割にも満たない上、部分接種率も1割強程度に留まるなど『ワクチン格差』とも呼べる状況にあるなかでは、南アフリカは比較的ワクチン接種が進んでいると捉えられる。しかし、南アフリカはアフリカ諸国との間でヒト及びモノの行き来が活発ななか、同国をはじめとするアフリカ地域における感染動向は昨年8月上旬を境に頭打ちするなど落ち着きを取り戻す動きがみられたものの、ワクチン接種の遅れは感染再拡大リスクに加え、それに伴う変異株が登場するリスクに晒されてきた。こうしたなか、先月末に南アフリカの国立伝染病研究所などが共同で新たな変異株(オミクロン株)を確認したほか、その後はオミクロン株の感染拡大の動きが世界的に広がりをみせるなど、世界経済の新たなリスク要因となっている(注1)。さらに、南アフリカ国内においても感染が再拡大する動きが広がるとともに、その大宗をオミクロン株が占めるなど置き換わりが進む動きがみられた。オミクロン株を巡っては、重症化率などの性質については依然として不明なところが多い一方、ワクチン接種済の人も感染するブレークスルー感染のほか、感染力がこれまでの変異株に比べて高いとの見方が示されている。こうしたなか、南アフリカ国内の新規陽性者数は先月末以降に急拡大するなど『第4波』が顕在化したほか、その水準は過去の波を上回るなど感染動向は急速に悪化している。新規陽性者数の急拡大を受けて地方を中心に医療インフラが再びひっ迫化する懸念が高まっているものの、死亡者数の拡大ペースは緩やかなものに留まっている。なお、人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は先月上旬には5人程度で推移していたが、今月17日時点で393人に急拡大するなど1ヶ月半ほどの間で状況は一変した。一方、今月21日時点では同基準で305人と早くも頭打ちする兆候が出ているものの、依然として感染爆発状態であることは変わらない。ただし、国立伝染病研究所は1日当たりの新規陽性者数の減少や陽性率が低下していることを受けて、ピークアウトしつつあるとの認識を示しているほか、重症化リスクが限定的な可能性があるとの見方を示す一方、同国においては新型コロナウイルスに感染した人が多いなど免疫力が高いことを指摘する向きもあるなどその『特殊性』が影響している可能性もある。他方、先月末以降の感染動向の急激な悪化は政府内でも「前例のない急増」との認識が示されたほか、今月12日にはラマポーザ大統領が感染していることも確認されたが(自主隔離を実施した後、20日に公務復帰)、大宗の感染者の症状が軽度であることを理由に実体経済への悪影響を回避すべくロックダウン(都市封鎖)など厳格な対策には動いていない。結果、感染動向の悪化にも拘らず人の移動は底入れの動きを強めており、こうしたことも感染動向の悪化に拍車を掛ける一因になったとみられる。他方、オミクロン株に関する様々な研究結果が部分的ながら公表されるなか、各国の実情に照らした対応を図ることがこれまで以上に重要になると考えられる。南アフリカの通貨ランド相場を巡っては、オミクロン株を巡る不透明感に加え、米FRB(連邦準備制度理事会)による『タカ派』傾斜を受けた米ドル高圧力の強まりも追い風に調整する動きがみられる。こうしたなか、今後は頭打ちの兆候がみられる感染動向の行方が下支えすると期待される一方、世界的な感染動向は国際商品市況を通じてランド相場に影響を与えることは避けられないほか、外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が想定する国際金融市場の動揺に対する耐性は不充分とされる水準に留まるなど国際金融市場が動揺する度に資金流出圧力に晒されやすいなど、調整圧力に繋がる材料は山積している。よって、感染動向にピークアウトの兆しが出ていることを以って過度に楽観に振れることには注意が必要であり、引き続き国際金融市場を取り巻く環境に揺さぶられやすい展開が続く可能性に留意することが肝要と言えよう。




注1 11月29日付レポート「ワクチンの偏在が招く「変異株」の発生と世界経済の新たなリスク」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘等を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針等と常に整合的であるとは限りません。


- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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