南アフリカ経済は需給双方で下振れして再びマイナス成長に陥る

~電力不足問題は最悪期を過ぎる兆しも、自律的な景気回復の材料に乏しい状況は変わらない~

西濵 徹

要旨
  • 南アフリカでは電力不足と物流インフラの機能不全が幅広い経済活動の足かせとなる状況が続く。昨年はインフレが上振れして中銀は利上げを余儀なくされたが、インフレが頭打ちしたため中銀は様子見姿勢に転じている。ただし、需給双方で景気の足かせとなる材料が山積するなか、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.99%とマイナス成長に転じるなど景気は頭打ちしている。内需は幅広く弱含んでいる上、ほぼすべての分野で生産も下振れするなど厳しい状況が続く。政府は先月公表した中期財政計画で財政健全化に取り組む方針を示すが、国営電力公社やインフラ公社を巡って財政負担が増す懸念のほか、来年の総選挙を前に歳出拡大圧力が増す可能性はくすぶる。足下のランド相場は米ドル高圧力の後退を反映して底打ちしているが、実体経済や市場環境に追い風が吹きにくいなかで自律的な動きは見通しにくい。

ここ数年の南アフリカ経済は、慢性的な電力不足を理由に全土で度々計画停電が実施される展開が続いており、幅広く経済活動が制約される展開が続いている。他方、昨年はコロナ禍一巡による経済活動の正常化が進むなか、商品高や国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ランド安に伴う輸入インフレが重なり、インフレ率は一時13年ぶりの水準に昂進する事態に直面した。よって、中銀は一昨年末から物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げに動いたものの、その後もインフレが高止まりしたことで物価高と金利高が共存し、電力不足の影響も相俟ってスタグフレーションに陥った。なお、昨年末以降は商品高と米ドル高の動きが一巡しており、年明け以降のインフレ率は頭打ちの動きを強めたため、中銀は今年7月に1年半強に及んだ利上げ局面を休止させている。ただし、年明け以降は頭打ちしたインフレは足下で底入れに転じるなどインフレが再燃する動きがみられるなか、中銀は先月の定例会合でも3会合連続で金利を据え置くなど様子見姿勢を維持せざるを得ない状況にある(注1)。このように、足下の同国経済は電力不足やインフラ公社(トランスネット)を巡る問題を理由とする鉄道輸送・港湾サービスの低迷といった供給制約が足かせとなる状況が続いている上、物価高と金利高の共存や世界経済の減速も重なり内・外需双方に不透明感がくすぶるなど需要面でも下振れが懸念される状況にある。事実、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.99%と前期(同+1.84%)から3四半期ぶりのマイナス成長となるとともに、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も▲0.7%と2年半ぶりのマイナス成長に転じるなど頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。需要項目別では、世界経済の減速懸念にも拘らず鉱物資源関連を中心に輸出は底堅い動きが続く一方、物価高と金利高の共存に加え、雇用環境の悪化も重なり家計消費は低調な推移が続くとともに、企業部門による設備投資意欲も低迷するなど幅広く内需は下振れしている。なお、在庫投資による成長率寄与度は前期比年率ベースで▲9.16ptと大幅マイナスとなるなど在庫調整が進む動きが確認される一方、内需低迷を受けた輸入の大幅減少を反映して純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は同+11.56ptと在庫調整の影響を相殺しており、足下の景気の厳しさを示唆している。分野別の生産動向も、電力不足や輸送インフラを巡る混乱を理由にほぼすべての分野で生産は下振れする動きが確認されるなど、極めて厳しい状況は続いている。しかし、国営電力公社(ESKOM)による計画停電が長期化するなかで民間部門による再生可能エネルギー関連投資が活発化する動きがみられるなか、足下では電力生産に底打ちの兆しがみられるなど最悪期を過ぎつつある様子はうかがえる。他方、足下の企業マインドを巡っては、引き続き計画停電と物流インフラの機能不全状態の長期化が足かせとなる展開が続いている上、短期的に事態収束の見通しが立たないことを勘案すれば、力強さを欠く動きが続くことは避けられないであろう。なお、政府が先月公表した中期財政計画においては、税制改革による歳入増を図る一方で歳出削減や公的部門の統廃合による効率化を通じて財政赤字の圧縮を図る方針が示されているものの、来年は議会下院(国民議会)の総選挙が予定されるなど景気下支えが急務になるなかで歳出増が意図されやすい環境にある。中期財政計画においては、国営電力公社やインフラ公社の財務健全化による事業活動の円滑化を図る方針が示されたものの、具体的な方策に乏しいなかで財政悪化を招くとともに金利上昇要因となる懸念もくすぶる。足下のランド相場は国際金融市場における米ドル高圧力の後退を受けて底堅く推移しているものの、実体経済や市場環境に追い風となる材料が乏しいなかでは引き続き自律的な値動きを期待することは難しいであろう。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 実質 GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移
図 2 実質 GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移

図 3 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移
図 3 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移

図 4 ランド相場(対ドル)の推移
図 4 ランド相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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