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2021.11.29
新興国経済
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新興国経済全般
ワクチンの偏在が招く「変異株」の発生と世界経済の新たなリスク
~世界的な連帯をただの「きれいごと」に終わらせぬよう、取り組みを継続する重要性は高まろう~
西濵 徹
- 要旨
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- 昨年来の世界経済では新型コロナウイルスのパンデミックが最大のリスク要因となってきた。なお、足下では主要国などでのワクチン接種の進展や新興国においても感染拡大が一服し、世界的にヒト及びモノの移動が底入れしてきた。他方、世界的なワクチン獲得競争などの余波でワクチンは偏在するなか、アフリカなど一部の新興国の接種率は低水準に留まる。こうしたなか、南アフリカで新たな変異株が発見されており、ワクチン接種の低さによる感染リスクが変異株の発生を招いたと言える。今回の変異株の発生は世界的な連帯の乏しさが世界経済に新たなリスクを招く一端を示しており、取り組みの重要性を再認識する必要性は高い。
昨年来の世界経済を巡っては、一昨年末に中国で発見された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミック(世界的大流行)の動きが最大のリスク要因となってきた。なお、欧米や中国など主要国を中心にワクチン接種の進展が経済活動の再開を後押ししてきたほか、その他の新興国においてもワクチン接種の動きが進むとともに、感染拡大の動きが一服することで経済活動が促される動きが広がってきた。こうしたことから、世界的な行動制限や国境封鎖などを理由にヒトやモノの動きが滞ることにより、世界経済は過去に例をみないペースで下押し圧力が掛かる事態に見舞われたものの、昨年半ば以降は一転して底入れの動きを強めてきた。さらに、行動制限の解除の動きが広がりをみせていることを受けて、世界経済は回復の度合いを強めるなど、徐々に新型コロナ禍の影響を克服する動きが前進することが期待された。しかし、新型コロナウイルス向けワクチンを巡っては、先進国や一部の新興国において接種が大きく進んでいる一方、全世界的なワクチン獲得競争の動きが活発化したことに加え、囲い込みの動きがみられたことで偏在する状況が続いてきた。事実、ワクチンの完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は欧米など先進国においては7割近くに達している一方、南米諸国でも6割近く、アジア新興国においても5割を上回る程度に留まるとともに、アフリカにおいては1割を下回るなどワクチンの偏在が一目瞭然の状況となっている。こうした背景には、世界有数のワクチン生産国であるインドが自国における感染拡大を受けてワクチンの事実上の輸出禁止に動いたことがあり、その後インドの感染動向は落ち着いているものの禁輸措置が続いたことで世界的なワクチン供給スキーム(COVAX)が機能不全状態に陥ったことが影響している(注1)。その一方、ワクチン生産国である中国やロシアは影響力を行使すべくいわゆる『ワクチン外交』の動きを強めているほか、欧米や日本など主要国も『対抗措置』としてワクチン供給の動きをみせているものの、こうした動きがワクチンの偏在を一層招く一因になっているとみられる。なお、インドは今月26日からCOVAXへのワクチン供給を再開する動きをみせており、今後は世界的なワクチン供給を巡る懸念が後退することが期待されるものの、ワクチンへのアクセス機会が著しく乏しい状況が続いている上、医療インフラが極めて脆弱なアフリカにおいて接種環境の整備が進むかは依然として見通しが立たない状況にある。こうしたなか、ワクチン接種が極めて遅れているアフリカのなかでは比較的接種が進んでいる南アフリカにおいて、新たな変異株(オミクロン株)の発生が確認されている(注2)。オミクロン株を巡ってはその特徴が不透明である一方、すでに英国をはじめとする欧州諸国や豪州などが南アフリカをはじめとするアフリカ諸国からの渡航禁止に動いているほか、同様の動きが広がりをみせつつある。仮にオミクロン株の感染力がこれまでの変異株に対して各段に高いほか、ワクチンに対する耐性が高いことが判明すれば、感染が確認された国・地域において行動制限が再強化される事態が広がるとともに、国境封鎖などを通じてヒト及びモノの移動に再び悪影響が出る可能性も予想される。なお、変異株の発生を巡っては感染拡大の動きが前提となっている上、今回のオミクロン株のようにワクチン接種率の低いアフリカにおいて発生が確認されたことは、ワクチンの偏在がその一因になっていると捉えることが出来る。ここ数年の世界経済は連帯の重要性が叫ばれて久しい上、昨年来の新型コロナ禍を経てその重要性が改めて認識されてきたものの、実態としては主要国を中心とする各国の『エゴ』によって振り回されている状況は変わっていない。ただし、そうしたしわ寄せは新興国を中心とする弱小国に色濃く現われる一方、近年のグローバル化の進展を背景に様々な面で直接的及び間接的な繋がりが深まってきたことを勘案すれば、変異株の登場などを通じて世界経済全体に影響が広がるなど主要国にとっても無視し得ない状況にある。世界の現状を勘案すれば、世界的な連帯とは『きれいごと』に過ぎないことは一見事実である一方、只のきれいごとに終わらせないよう様々なレベルで交渉のテーブルを途切れさせない努力がこれまで以上に求められる。
注1 5月21日付レポート「感染爆発が続くインドの行方が世界経済に与える影響とは」
注2 11月26日付レポート「南アフリカ、ワクチン接種が遅れるなかで「新たな」変異株が登場」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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