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2021.11.15
アジア経済
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フィリピン経済
フィリピン副大統領選は「ドゥテルテ対ドゥテルテ」の父娘対決へ?
~「1位・2位連合」と国民人気の激戦は必至、その動向は南シナ海問題やASEANの行方にも影響~
西濵 徹
- 要旨
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- フィリピンでは来年5月に次期大統領選及び副大統領選が行われる。現行憲法では現職のドゥテルテ大統領は大統領選に出馬出来ず、一旦は副大統領選への出馬を模索した。しかし、国民の反発を受けて任期満了での政界引退を発表した。与党は別の大統領及び副大統領候補を決定し、国民からの人気が高いドゥテルテ氏の長女(サラ氏)は一旦ダバオ市長選への出馬を決定したが、候補者差し替えの可能性もくすぶった。
- こうしたなか、サラ氏はダバオ市長選の出馬取り止めに加え、副大統領候補として大統領候補のマルコス氏とタッグを組む「1位・2位連合」の結成を発表した。他方、与党PDPラバンも候補者を差し替えるとともに、ドゥテルテ大統領の腹心であるボン・ゴー氏が大統領候補に、現地報道では政界引退を発表したドゥテルテ氏が副大統領候補となる可能性も出ている。そうなれば副大統領選は一転「父娘対決」の激戦が予想される。
- フィリピンは地政学的に南シナ海問題の当事国ながら、中国の南シナ海進出を巡っては難しい対応を迫られてきた。昨年来の新型コロナ禍対応では中国にワクチンを依存してきた。足下の感染動向は改善している一方、ワクチン接種は遅れる状況が続く。次期政権の行方は南シナ海問題のみならず、ミャンマー問題を巡り存在意義が問われるASEANの行方にも影響を与えるため、その動向から目が離せない状況が続くと言える。
フィリピンでは、来年5月に次期大統領選及び副大統領選が予定されている。なお、フィリピンの大統領選と副大統領選は候補がタッグを組む形で選挙戦が繰り広げられるものの、それぞれ独立して投票が行われるために、最終的に大統領と副大統領がねじれることがある(現在のドゥテルテ大統領とロブレロ副大統領は『ねじれ状態』)。他方、現行憲法では現職のドゥテルテ大統領は次期大統領選に出馬出来ないなか、同氏が率いる与党PDPラバン(民衆の力によるフィリピン民主党)は8月にドゥテルテ氏を副大統領選の公認候補に推す『奇策』に動いた(注1)。その際、PDPラバンは大統領選の公認候補にドゥテルテ氏の腹心であるボン・ゴー上院議員(元大統領特別補佐官)を推す決定を行ったものの、ゴー氏自身はその後も大統領選の出馬に後ろ向きの姿勢をみせていた。副大統領は大統領が辞任ないし死亡して失職した場合に大統領に昇格することが可能であり、ドゥテルテ氏の副大統領選への出馬はこうした制度の『抜け穴』を図ったものとみられた一方、現行憲法においては「大統領任期のうち4年以上を務めた者は再び大統領選に立候補及び就任することは出来ない」と規定されており、学者や議員の間でドゥテルテ氏に対する批判が強まり、その後は国民の間にも反発が広がった(注2)。こうしたことから、ドゥテルテ大統領は先月、突如副大統領選への出馬を撤回するとともに、大統領の任期満了を以って政界を引退するなど予想外の形で奇策を翻すことを表明した(注3)。結果、PDPラバンは大統領選の公認候補に国家警察長官としてドゥテルテ政権が推進した『麻薬戦争』を指揮したロナルド・デラロサ上院議員を、副大統領選の公認候補にボン・ゴー氏を推す方針を決定した。他方、大統領選に関する世論調査ではドゥテルテ大統領の長女で同国南部ダバオ市長を務めるサラ・ドゥテルテ氏が一貫して1位となっており、国民の間にはサラ氏の次期大統領選への出馬が期待されていた。しかし、サラ氏は最後まで大統領選への出馬に関する態度を明確にしなかった上、先月8日の届け出の締め切り日を前に再選を目指してダバオ市長選に出馬する決定を行った。なお、大統領選及び副大統領選への届け出は先月8日に一旦締め切られたものの、今月15日までは立候補者の差し替えが可能ななか、最終版に向けて『どんでん返し』が起こる可能性も予想されてきた。
こうしたなか、サラ氏は今月9日に突如自身のSNSにダバオ市長選への出馬を取り消す旨を表明した(注4)。サラ氏は弁護士出身であり、ドゥテルテ氏(父)がダバオ市長であった2007年に同市の副市長選に就任するとともに、2010年に市長選に当選する一方(副市長にドゥテルテ氏(父))、2013年にはドゥテルテ氏(父)と市長と副市長の立場を交換し、2016年の市長選で市長に返り咲いた経歴を有する。サラ氏は2018年に地域政党である「改革党」を立ち上げるとともに、2019年に実施された中間選挙における『ドゥテルテ派』の圧勝に貢献した(注5)。このように親子関係を巡っては、政治行動の面においては良好とされる一方、ドゥテルテ氏(父)の性格的な問題を理由に両者の関係は良好とは言いがたいとの評もくすぶるなか、サラ氏が如何なる対応をみせるかに注目が集まった。なお、サラ氏は12日に自身のSNSにアロヨ元政権下の与党であったラカスCMD(キリスト教イスラム教民主党)に合流することを明らかにしたほか、翌13日には同党の副大統領候補として立候補者が差し替えられるとともに、大統領選に出馬しているフェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)元上院議員(PFP:フィリピン連邦党)とタッグを組むことを明らかにした。マルコス氏は同国で長期独裁政権を敷いた故マルコス元大統領の長男であり、ドゥテルテ家と関係が近いとされる上、2016年の前回副大統領選でロブレロ氏に惜敗を喫したことから、次期大統領選での捲土重来を期してきた。直近の世論調査においては、マルコス氏は大統領候補としてサラ氏に次ぐ2位に付けており、今回のタッグは『1位・2位連合』として大統領選及び副大統領選に大きなうねりをもたらすことになりそうである。他方、こうした動きを受けて、13日に与党PDPラバンの大統領選公認候補であったロナルド・デラロサ氏は出馬そのものを取り消す決定を行ったほか、副大統領選の公認候補であったボン・ゴー氏はドゥテルテ氏が掲げる汚職撲滅及び麻薬撲滅などを旗印に2018年に結党された事実上の「衛星政党」であるPDDSの大統領選公認候補となることを明らかにした。さらに、現地報道ではドゥテルテ大統領の側近の話として、先月に大統領任期満了を以って政界引退を発表したドゥテルテ氏が副大統領選に出馬するとの話も出ており、仮にそうなれば副大統領選は『父娘対決』となる。次期大統領選はマルコス氏をはじめ8人の候補者が出馬する乱戦模様となっているが、上述のように『1位・2位連合』が優勢な戦いを演じるか、それとも現職大統領としての実績や国民からの根強い人気を背景にドゥテルテ氏(父)が一気に巻き返しを演じるか、目が離せない戦いになりそうである。
他方、フィリピンは地政学面で「南シナ海問題」の当事国であるものの、近年の中国による南シナ海進出を巡ってアキノ前政権が国際仲裁裁判所に提訴し、同裁判所はフィリピンの主張を全面的に認める仲裁裁定を下したものの、ドゥテルテ政権は裁定を『棚上げ』して中国からの経済的利益を確保する一方で、政権内では中国に対する攻撃的な発言がみられるとともに、その度に中国はフィリピンに対して『嫌がらせ』を通じた圧力をかけるなど難しい立場に立たされてきた。昨年以降の新型コロナ禍に際しては、フィリピンにおいても度々感染が拡大する事態に見舞われたほか、ワクチン確保を巡って中国による『ワクチン外交』に依存せざるを得ないことも、対中姿勢を難しくさせる一因になっている。同国では9月半ばにかけて新規陽性者数が拡大傾向を強める『第3波』が顕在化してきたものの、その後の新規陽性者数は一転鈍化しており、足下における人口100万人当たりの新規陽性者数は20人とピーク(9月15日時点の196人)の10分の1程度となっている。他方、ワクチン接種を巡っては、今月12日時点における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は33.68%に留まり、ドゥテルテ大統領はワクチン接種の加速に向けて『超法規的措置』も辞さない考えを示したほか(注6)、米国や日本からのワクチン供与のほか、8月にはロシア製ワクチンの緊急使用承認などの取り組みが進んでいるものの、ASEAN(東南アジア諸国連合)主要6ヶ国のなかではインドネシアに次ぐ低水準となっている。感染動向の行方は次期大統領選及び副大統領選に影響を与える一方、次期政権の行方は南シナ海問題のみならず、足下ではミャンマー問題を巡って存在意義が改めて問われているASEANの行方にも少なからず影響を与えることが予想される。そうした意味でも選挙戦から目が離せないと言える。


注1 8月25日付レポート「フィリピン、ドゥテルテ大統領の権力維持への「奇策」が大きく前進」
注2 10月1日付レポート「フィリピン、ドゥテルテ大統領の権力維持に向けた目算にズレ」
注3 10月4日付レポート「フィリピン・ドゥテルテ大統領、一転して任期満了後の政界引退を表明」
注4 11月11日付レポート「フィリピン、サラ氏がダバオ市長選撤退、大統領選への「ウルトラC」か」
注5 2019年5月15日付レポート「フィリピン中間選挙、「ドゥテルテ色」が一段と強まる」
注6 6月22日付レポート「ドゥテルテ大統領、新型コロナ禍対応も「強権」で乗り切る構え」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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阿原 健一郎

