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2021.11.11
アジア経済
フィリピン経済
フィリピン、サラ氏がダバオ市長選撤退、大統領選への「ウルトラC」か
~大統領選、副大統領選いずれに出馬しても「台風の目」に、駆け引きが強まることは避けられない~
西濵 徹
- 要旨
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- フィリピンでは来年5月に次期大統領選及び副大統領選が実施される。現行憲法で大統領選に立候補出来ないドゥテルテ氏は副大統領選への出馬を計画するも、国民からの反発を受けて任期満了後の政界引退を表明した。他方、世論調査で一貫して1位だったドゥテルテ氏の長女サラ氏はダバオ市長選に立候補した。なお、大統領選には計9人が出馬する乱戦模様が続いてきた。ただし、今月15日までは立候補者の差し替えが可能ななか、サラ氏は9日に突如ダバオ市長選の出馬撤回を表明した。サラ氏の動向は大統領選の行方を大きく左右するなか、残すところ数日に迫る差し替え期限に向けた駆け引きが強まることが予想される。
フィリピンでは、来年5月に次期大統領選及び副大統領の実施が予定されている。現行憲法においては、現職のドゥテルテ氏は次期大統領選への出馬が不可能ななか、同氏が率いる与党PDPラバン(民衆の力によるフィリピン民主党)は8月、副大統領選の公認候補にドゥテルテ氏を推すという『奇策』を通じて事実上の権力維持を図る方針を一旦決定した(注1)。同国の大統領選と副大統領選はそれぞれ独立して実施されるものの、党公認候補はタッグを組む形で選挙戦を戦うことから、同党は大統領候補にドゥテルテ氏の腹心であるボン・ゴー上院議員(元大統領特別補佐官)を推した。これは、ゴー次期政権の下でドゥテルテ氏が事実上の『院政』を敷くとともに、仮に大統領が辞任ないし死亡により失職した場合に副大統領が大統領に昇格可能とする憲法の『抜け穴』を目論むとの見方が広がった。しかし、ゴー氏自身は大統領選への出馬に後ろ向きの姿勢をみせたことに加え、学者や議員の間から現行憲法上の規定(大統領任期のうち4年以上を務めたものは再び大統領選に立候補及び就任することは出来ない)に抵触するとの指摘が相次ぎ、国民の間に反発が広がる動きもみられた(注2)。こうした事態を受けて、ドゥテルテ大統領は副大統領選への出馬を撤回するとともに、大統領任期を以って政界を引退する考えを明らかにするなど、奇策を翻す予想外の動きをみせた(注3)。一方、世論調査(現時点において選挙が実施された場合に誰に投票するかを尋ねたもの)において一貫して1位となるなど、次期大統領選への出馬が期待されてきたドゥテルテ大統領の長女であるサラ・ドゥテルテ氏は最後の最後まで態度を明確にせず、先月8日の出馬締め切りを前に南部ダバオ市長選への立候補する決定を行った。なお、与党PDPラバンは元国家警察長官としてドゥテルテ政権が実施した『麻薬戦争』を指揮したロナルド・デラロサ上院議員を推薦候補とする一方、党内の『反ドゥテルテ派』が後押しする形で元ボクシングチャンピオンのマニー・パッキャオ上院議員が新党PROMDIの推薦候補として出馬している。
これら以外にも、2016年の前回副大統領選に出馬するも敗北したフェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)元上院議員(PFP:フィリピン連邦党)、俳優出身で清廉な印象で評価が高い首都マニラ市長のイスコ・モレノ(フランシスコ・ドマゴソ)氏(民主行動党)、元国家警察長官のパンフィロ・ラクソン上院議員(民主党)、そして、現副大統領のレニ・ロブレロ氏(自由党)など計9人が出馬する乱戦模様となった。ただし、上述のように一貫して世論調査で1位となってきたサラ氏が不在となったことで候補者間の駆け引き合戦の様相を呈するなど、選挙戦の行方は混とんとする展開が続いてきた。他方、大統領選の候補者を巡っては今月15日まで差し替えが可能であり、与党PDPラバン内では何らかの『ウルトラC』を狙う可能性が指摘されてきたが、今月9日にダバオ市長選に立候補していたサラ氏が突如自身のSNSに同選挙への出馬を取り止めることを表明した。世論調査において一貫して1位となってきたサラ氏が大統領選に出馬すれば『台風の目』となる可能性が予想される一方、現地報道ではドゥテルテ大統領と関係が近いとされるボンボン・マルコス氏とタッグを組む形で副大統領選に出馬するとの見方も出ており、大統領選及び副大統領選を巡る状況は一転して風雲急を告げる様相を強めている。残すところ数日に迫る大統領選及び副大統領選の出馬候補の差し替え期限まで、いろいろな駆け引きが強まることが予想される。
注1 8月25日付レポート「フィリピン、ドゥテルテ大統領の権力維持への「奇策」が大きく前進」
注2 10月1日付レポート「フィリピン、ドゥテルテ大統領の権力維持に向けた目算にズレ」
注3 10月4日付レポート「フィリピン・ドゥテルテ大統領、一転して任期満了後の政界引退を表明」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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