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2021.10.22
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ロシア、「民信なくば立たず」を地で行くなか、強制措置に訴えざるを得ず
~信頼の低さがワクチン接種を抑えるなか、政府は及び腰だった行動制限の再強化に動かざるを得ず~
西濵 徹
- 要旨
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- ロシアは、昨年来の新型コロナウイルスのパンデミックに際して、世界初のワクチン生産及び接種に動いた。しかし、ロシア国内ではロシア製ワクチンに限定される一方、国民の不信の根深さも影響して接種率は低水準に留まる。先月の総選挙ではなりふり構わぬ選挙対策が奏功してプーチン政権を支える与党は基盤を強化させたが、政府への信認低下は政府による積極化策にも拘らずワクチン接種が広がらない一因となっている。結果、ワクチン接種の低さも影響して足下においては感染動向が急速に悪化する事態となっている。
- ロシアでは昨年、感染対策を目的に大都市部を中心に外出禁止令など強力な対策が採られたが、実体経済に急ブレーキが掛かった。結果、その後は感染再拡大にも拘らず行動制限には及び腰の対応が続いたが、足下の感染動向が急激に悪化するなか、プーチン大統領は「非労働日」を設定する大統領令を発表した。他方、足下では感染力の強い新たな変異株が発見される一方、リゾート地への人の移動が活発化する動きもみられる。金融市場では原油高や金融引き締めを追い風にルーブル相場や株価は堅調に推移するなど活況を呈する動きがみられるが、実体経済への悪影響が懸念されるなかで環境一変の可能性はくすぶる。
ロシアにおいては、昨年以降の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミック(世界的大流行)に際して、世界初となる新型コロナウイルス向けワクチン(スプートニクV)が生産、承認されるとともに、接種が始まったことで感染動向が大きく改善することが期待された。欧米や中国など主要国においてはワクチン接種の進展が経済活動の正常化を後押しする動きがみられ、一部の新興国においてはロシア製ワクチンの接種を追い風に経済活動の再開に舵が切られたこともあり、同様の動きが広がるとみられた。しかし、ロシア国内において接種可能なワクチンは同ワクチンに限られるなか、未だにWHO(世界保健機関)は緊急使用を承認しないなど有効性に対する疑念がくすぶっていることもあり、ロシア国民の間にも接種を躊躇する動きがくすぶる。事実、今月20日時点における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は32.49%、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)も35.61%に留まるなど、ともに世界平均(それぞれ36.61%、47.83%)を下回るなど、ワクチン生産国にしては大きく遅れている。よって、プーチン大統領やミシュスチン首相をはじめとする政治家が広く国民に対してワクチン接種を呼び掛けているほか、飲食業をはじめとするサービス業の従事者を対象とする事実上の強制接種、飲食店をはじめとする店舗や公共交通機関などの利用をワクチン接種済の人に限定するなどの取り組みに加え、自動車や住宅など景品提供による誘導などを図っている。こうした取り組みにも拘らずワクチン接種が進まない背景には、ワクチンそのものの信頼性の低さに加え、新型コロナ禍対応を巡って後手を踏む対応が続くプーチン政権への支持率が低下するなど、政府に対する信認低下も影響しているとみられる(注1)。プーチン政権を支える与党・統一ロシアは先月実施された総選挙において改選前から議席を減らすも、絶対安定多数を維持するなど政権安定を図ることに成功したものの、その背後では野党指導者の身柄拘束のほか、野党政治家に対する立候補禁止措置に加え、バラ撒き政策による『票集め』などなりふり構わぬ選挙対策が奏功したと捉えられる(注2)。ただし、表面的には政権基盤は強化されているものの、ワクチン接種率の低さはその底流で政権に対する国民の離反が進んでいることを意味していると捉えられる。他方、ワクチン接種の遅れも影響して年明け以降は頭打ちの動きをみせた新規感染者数は再び拡大の動きを強めており、足下では過去最高水準を上回っているほか、感染者数の急増に伴う医療インフラへの圧力の高まりを反映して死亡者数も急拡大している。結果、累計の感染者数は800万人弱、死亡者数も22万人強とともに世界で5番目に多い水準となっているほか、足下では人口100万人当たりの新規感染者数(7日間移動平均)が200人を上回る水準となり感染爆発が懸念されるなど、急速に感染動向が悪化している様子がうかがえる。


ロシアでは昨年、国内での新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、感染拡大の中心地となった首都モスクワをはじめとする主要都市を対象に外出禁止措置を発動したほか、その後も罰則導入などを通じて厳しい行動制限を課す動きに舵を切った。ただし、こうした対応によって実体経済に深刻な悪影響が出たため、総選挙が予定されるなど『政治の季節』が近付く一方、景気減速により政権支持率が過去最低を更新するなど厳しい状況にあったこともあり、昨年後半以降は感染収束にほど遠い状況にも拘らず経済再開に舵を切った。加えて軍事パレードの実施や憲法改正に向けた国民投票の実施など『国威発揚』に繋がるイベントを目白押しにする形で政権浮揚を図る姿勢をみせてきた(注3)。こうした事情も影響して、その後も度々感染が再拡大する事態に見舞われてきたにも拘らず、政府は行動制限の再強化に対して及び腰の姿勢をみせる一方、国民に対して積極的なワクチン接種を呼び掛けるも上述のように『笛吹けど踊らず』の状況が続くなかで感染動向の急速な悪化を招いたと捉えられる。ただし、足下の感染動向は過去の『山』を大きく上回る事態となっていることを受けて、プーチン大統領は全土で今月30日から来月7日までの9日間を『非労働日』とし、企業に対して臨時休業を求めるとともに、感染動向が酷い地域ではさらなる強力な措置を講じることが出来るなど、事実上の行動制限を課す大統領令を発表した。同国では昨年も3月から5月にかけて全土を対象とする非労働日が設定され、上述のように深刻な景気減速を招く事態に発展したものの、感染動向の急激な悪化を受けて『背に腹はかえられない』事態に陥っていると判断出来る。また、感染拡大の中心地となっている首都モスクワでは今月28日から部分的な都市封鎖(ロックダウン)の再導入を決定しており、大都市部においては同様の動きが広がることも予想される。なお、ロシア政府の発表に拠ればロシア国内において複数の新型コロナウイルスの変異株が発見されており、足下で世界的に猛威を振るう変異株(デルタ株)を上回る感染力を有する可能性が指摘されるなど、新たな脅威が懸念される動きもみられる。一方、全土を対象とする非労働日の実施を受けて、同国南部のリゾート地であるソチなどではホテルの予約が活況を呈するなど人の移動の活発化に繋がる動きがみられる。ロシア国内における人の移動を巡っては、首都モスクワや第2の都市サンクトペテルブルクなど大都市部を中心に弱含む展開をみせる一方、ソチをはじめとするリゾート地では比較的堅調に推移するなど対照的な状況が続いてきたが、今後もそうした色合いが強まると予想される。他方、足下の国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)による量的緩和政策の縮小が意識されるなど、新興国にとっては世界的な『カネ余り』を背景とするマネーフローの変化が懸念されているものの、ロシアについては欧米による経済制裁の影響で外国人投資家の取引が細っており、外部環境との連動性が低下している。こうしたなか、足下では国際原油価格の上昇や中銀による金融引き締めの動きも追い風に通貨ルーブル相場は堅調に推移しており、主要株式指数も10年強ぶりの高水準となるなど、金融市場は活況を呈する動きをみせている。ただし、国民からの信頼が乏しいなかで政府は都市封鎖といった強硬策に動かざるを得なくなるなど、実体経済への悪影響が市場環境を一変させる可能性には注意が必要と言える。


注1 10月13日付レポート「ロシア、新型コロナ禍対策で改めて問われる「国民からの信用」」
注2 9月21日付レポート「ロシア、なりふり構わぬ形で政権基盤を維持も、景気の雲行きに怪しさ」
注3 2020年6月3日付レポート「ロシア 国威発揚へ経済活動再開・軍事パレード・国民投票と畳みかけ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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