インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米トランプ政権による南アへの「強硬姿勢」の裏側にあるもの

~土地政策とイスラエル批判が影響か、グローバルサウスへの「脅し」の一方で世界秩序への悪影響も~

西濵 徹

要旨
  • 米国と南アの関係は足下で急速に冷え込んでいる。きっかけは米トランプ大統領が先月に南アの土地政策を批判したことにあり、その背景には同国をルーツとするマスク氏が第2次政権に参画していることも影響している可能性がある。直後にトランプ氏は同国への資金援助を凍結する大統領令に署名し、その理由に土地政策と同国がガザ問題を巡ってイスラエルをICJに提訴したことを挙げた。さらに、南アのラスール駐米大使がトランプ氏を批判する発言を行ったことを理由に、ルビオ米国務長官が同氏を「ペルソナ・ノン・グラータ」と見做すとし、国務省も今月21日までの同氏の国外退去を求めるなど態度を硬化させている。
  • 米トランプ政権が南アへの強硬姿勢をみせる背景には大きく2つ考えられる。大統領令の根拠となった土地政策に加え、トランプ政権がイスラエル支持を強めるなか、南アはガザ問題を巡るイスラエル批判の急先鋒であることがある。さらに、世界的に分断の動きが広がるなかで同国は歴史的経緯も影響して親ロ姿勢が強く、ウクライナ戦争に明確な姿勢を示さないことも影響している可能性がある。そして、欧米などと中ロは新興国への影響力拡大を目指すなか、トランプ氏は関税などを通じて脅しを掛ける動きをみせており、一連の動きもそうした行動に重なる。しかし、自国第一主義に基づく行動への懸念に加え、その背後で中国が支援を差し伸べる動きもみられるなか、新興国の間で中ロ接近や米国への反発が強まる可能性もあろう。

米国と南アフリカの関係を巡っては、トランプ米大統領が自身のSNSに南アの土地政策に対する疑念を呈するとともに、米国から同国に対する資金援助をすべて停止する考えを示したことをきっかけに急速に冷え込む事態となっている(注1)。なお、トランプ氏自身は第1次政権を担っていた2018年にも同国の土地政策に対して疑念を呈した上で、国務省に実態調査を指示した経緯があり、そのこと自体については特段の驚きはないと捉えられる。他方、第2次政権においては、トランプ氏の盟友である実業家のイーロン・マスク氏が政府効率化省(DOGE)委員長として参画していることが事態を大きく左右している可能性がある。マスク氏は南アをルーツしている上、ここ数年の同国において民族主義的な動きが強まる背後で白人排斥に繋がり得る言質が公然となされることに反発する動きをみせており、そうしたこともトランプ氏の動きを後押しした可能性が考えられる。

その後にトランプ氏は南アへの資金援助を凍結する旨の大統領令に署名し、その理由に同国の土地政策に加え、同国が国際司法裁判所(ICJ)に対してイスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃についてジェノサイド(民族大量虐殺)条約違反を理由に提訴したことを挙げている。米国による動きに対して南ア政府は反発を強めるとともに、事態打開に向けた協議を模索する動きをみせてきた。他方、米国駐箚の南ア大使であるエブラヒム・ラスール氏がトランプ氏について「白人至上主義を主導している」とする批判を行うとともに、同様にマスク氏にも批判の矢を向けたことを理由に、ルビオ米国務長官が自身のSNSに同氏を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」と見做すとの投稿を行うなど両国関係が一段と緊迫化する懸念が高まっている。

なお、ラスール氏自身はズマ政権下の2010~15年に駐米大使を務めた経緯があり、ラマポーザ政権は米トランプ政権の発足を念頭に今年1月に2度目となる駐米大使に就任したばかりであったものの、2ヶ月弱で国外追放される格好となった。この決定を受けて、南ア大統領府と国際関係・協力省は遺憾を表明する一方、外交ルートを通じて両国の互恵的関係の構築に引き続き取り組む旨の声明を行っている。しかし、米国務省はその後もラスール氏の発言について容認できない旨の考えをあらためて示すとともに、今月17日付で同氏の大使としての特権は失効しており、21日までに米国から退去する必要があるとの見方を示すなど、態度を硬化させている様子がうかがえる。

米トランプ政権が南アに対して強硬姿勢をみせている背景には、上述した大統領令に示された理由が大きい。南アの土地政策を巡っては、上述したように第1次政権の下でも関心を示してきた経緯がある上、第2次政権ではこの問題のみならず、同国において近年高まりつつある白人排斥姿勢に反発するマスク氏が参画したことに鑑みれば、この問題に干渉することは想定されたものと考えられる。他方、米トランプ政権は一貫してイスラエルを支持する姿勢を示すなか、ガザを巡る問題では南アが長年に亘るアパルトヘイト(人種隔離政策)に苦しんできた経緯も影響してパレスチナを支持する姿勢を示しており、そうした姿勢に対して米国では政界を中心に同国に対する不信感や批判が高まってきた。さらに、ウクライナ戦争などを巡って世界では欧米などと中ロとの分断の動きが広がるなか、同国は歴史的にロシアと近しい関係にあり、結果として同国はウクライナ戦争に対して明確な態度を示してこなかった経緯もある。こうしたなか、ガザ問題ではイスラエル批判の急先鋒となってきたことも米トランプ政権が反発を強める一因になってきたと捉えられる。

さらに、足下では世界的に分断の動きが広がりをみせるなか、欧米なども中ロもいわゆる「グローバルサウス」と称される新興国の取り込みを積極化させており、中ロを中心とする枠組であるBRICSは昨年に加盟国を拡大させたほか、今年1月にはインドネシアが東南アジア地域で初めての加盟国となるなど存在感を高める動きをみせている(注2)。BRICSを巡っては、米ドルを中心とする既存の決済システムに代わる新たなシステムの構築や共通通貨構想を目指す姿勢を隠さず(注3)、こうした動きに対してトランプ氏は公然とけん制する姿勢をみせてきた。ただし、現実には上述したようにインドネシアがBRICSへの正式加盟を決定するなど『求心力』を高めるなか、米トランプ政権は関税政策のみならず様々な『実弾』を通じて『脅し』を掛ける動きをみせており、今回の動きもそうした一貫と捉えることが出来る。

とはいえ、これまでの米国による強硬姿勢を巡っては、いわゆる自由や民主主義、法の支配、基本的人権の尊重といった普遍的価値に基づく形で行使されることが基本的な流れであったとみられる。しかし、トランプ政権は「自国第一主義」を背景に関税賦課をはじめとする脅しを濫用しており、こうした動きは短期的に経済的な悪影響を与える懸念から効力が期待される一方、その間隙を突く形で中国は支援を強化させるなど悪影響の軽減に向けた手を差し伸べる動きをみせている。その意味では、新興国の間でこれまで以上に中ロへの接近姿勢を強めることに繋がるほか、米国に対する不信感を増幅させる可能性もあるなど、世界秩序に与える影響は小さくないと捉える必要がある。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ