インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

「ロシアによる」BRICS首脳会議は同床異夢の様相を強める

~ロシアは「孤立していない」との舞台を演出も、各国の思惑はバラバラの様相を強めるであろう~

西濵 徹

要旨
  • BRICSはロシア中部のカザンで首脳会議を開催した。今回の会議は昨年の加盟国拡大後初、且つロシアが議長国ということで注目された。世界経済は欧米などと中ロを軸にした分断が広がるなか、中ロは新興国への影響力拡大を目指しており、新興国の間にも実利を求めてBRICS参加を目指す動きもみられる。よって、今回の会議はロシアが「世界的に孤立していない」状況を演出する舞台に使われた。結果、今回の会議には35ヶ国と6機関が参加した模様であり、一定の存在感を示すことに成功したことは間違いない。
  • BRICSが新興国の間で求心力を高める背景には、国際金融市場を取り巻く環境も影響している。BRICSは米ドルを中心とする既存の決済システムに代替するシステムや共通通貨の構築を目指す姿勢をみせている。欧米などの対ロ制裁は中国やインドなどが「抜け穴」となる動きがみられる一方、飛び火リスクもあるなかでカザン宣言では欧米などの制裁を批判した。一方で貿易決済を巡って自国通貨を歓迎すると述べるに留めるなど、共通通貨のハードルの高さがうかがえる。他方、穀物取引所の開設を提案したとしており、将来的には取引対象が穀物から原油や天然ガスのほか、鉱物資源に拡大していく可能性が考えられる。
  • 加盟国拡大を巡っては原加盟国の間でもスタンスに差がある。中ロは「反欧米」での結束強化を目指しているとみられる一方、インドやブラジルなどは異なる姿勢をみせており、配慮する動きもみられた。他方、13ヶ国がパートナー国となった模様であり、将来的な枠組拡大への道筋が拓かれている。ただし、BRICS9のなかでは中国の存在感が圧倒的な上、仮にパートナー国すべてが加盟しても半分以上を中国が占めるなか、中国との関係を巡って各国の求心力に差が生じるなど「同床異夢」感の強い組織となると見込まれる。

主要な新興国で構成されるBRICSは、ロシア中部のカザンにおいて22日から24日までの日程で首脳会議を開催した。今回のBRICS首脳会議を巡っては、昨年の同会議において枠組の拡大が決定された後で初めての開催となる上(注1)、ウクライナ戦争の当事国であるロシアが議長国であることも影響して注目を集めた。なお、昨年の首脳会議では枠組に6ヶ国が加わることで合意したものの、その後にアルゼンチンは政権交代を経て加盟を拒否する決定を行ったほか、サウジアラビアも加盟を留保する姿勢をみせており、現状のBRICSは9ヶ国による枠組となっている。なお、近年の新興国を中心とする高い経済成長を追い風に、世界経済においては新興国が存在感を増す動きが確認されている。事実、世界経済に占める主要7ヶ国・地域の割合はすでに半分を下回る推移が続く一方、BRICS9カ国の割合は世界の4分の1を上回る水準となるなど無視し得ない状況となっている。他方、ここ数年の世界経済を巡っては、米中摩擦のほか、コロナ禍やウクライナ戦争などを経て、世界経済は「欧米など」と「中ロ」を軸とした形で分断する動きが広がりをみせている。こうしたなか、中ロはいわゆる「グローバルサウス」と呼ばれる新興国への影響力拡大を目指す姿勢を鮮明にしており、欧米による干渉を嫌う国々にとっては『内政不干渉』を前提とする枠組は極めて居心地の良い環境に映っていると捉えられる。こうした状況に加え、議長国であるロシアにとっては欧米などの経済制裁にも拘らず『世界的に孤立していない』状況を演出する舞台として今回のBRICS首脳会議が選ばれたと捉えることができる。結果、プーチン大統領によれば今回の首脳会議にはBRICSの9ヶ国に加え、35ヶ国と国連をはじめとする6機関が拡大会合に参加したと指摘するとともに、記者会見において「BRICSは価値観を共有するすべての国・機関に開かれている」と述べるなど、一定の存在感を示したことは間違いないであろう。

図表
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今回の首脳会議に多くの新興国が参加した背景には、このところの国際金融市場を取り巻く環境変化も影響していることに留意する必要がある。近年の国際金融市場では全世界的な金融緩和を追い風に『カネ余り』の様相を強めたほか、低金利環境も重なり相対的に金利水準が高い新興国への資金流入が活発化して経済成長を押し上げてきた。しかし、このところは世界的なインフレを受けた金利上昇を追い風に米ドル高圧力が強まり、米ドルなどハードカレンシーでの資金調達を活発化した新興国では、米ドル高に伴う自国通貨安が債務負担を増大させるとともに外貨不足が顕在化するなど苦境に直面した。こうしたなか、新興国の間には米ドルに代替する資金調達のほか、決済手段を求める動きがみられ、BRICSの開発金融機関である新開発銀行(BRICS銀行)は被支援国通貨建で融資を実施する方針を示すとともに、BRICSとしての共通通貨構想を打ち上げていることも重なり、新興国の間でBRICSに対する求心力が高まっていると考えられる。さらに、ウクライナ戦争を機に欧米などはロシアへの経済制裁を強化させ、なかでもSWIFT(国際銀行間通信協会)からの締め出しを受けてロシアは代替手段の構築を模索する動きをみせてきた。また、欧州がロシア産原油の輸入を絞るなか、ロシアは中国やインドをはじめとする新興国への原油や天然ガスの輸出を大幅に拡大させ、結果的に欧米などの経済制裁の影響を克服するとともに、ウクライナ戦争を巡る戦費調達も支えられる展開となっている。なお、米国はロシアに対する経済制裁の迂回に繋がる動きに加担する第三国の金融機関を対象とする経済制裁を模索しており、仮にこうした動きが顕在化すればCIPS(人民元国際決済システム)に多数のロシア系銀行が参加するなかで中国に『火の粉』が及ぶことが懸念される。こうしたことも影響して、首脳会合で採択された「カザン宣言」においてはロシアやイランなど一部の加盟国に課されている経済制裁を念頭に「違法な制裁を含む一方的な強制措置の破壊的な影響を懸念する」と記すなど、欧米などに対する批判を強めた。また、米ドルに代わる決済手段に関連して、既存のシステムを回避して相互に貿易が可能となる共通の越境決済システムの構築を支持したとしつつ、共通通貨や検討を模索してきた暗号通貨については言及を避ける一方、「BRICS諸国と貿易相手国との取引で自国通貨の使用を歓迎する」との考えを示した。そして、欧米などのロシアへの経済制裁強化を機に穀物の供給懸念が高まり、ロシアからの輸入に依存する中東やアフリカなどの新興国に深刻な悪影響が出たことを念頭に、BRICS穀物取引所の開設を提案したとしている。現状は取引対象を穀物としているものの、先行きは原油や天然ガスのほか、鉱物資源などに広がる可能性も考えられる。

図表
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なお、上述のように昨年の首脳会合では加盟国拡大が承認されたものの、その選定に当たっては各国の思惑が大きく影響した面は否めない。そして、さらなる加盟国拡大を巡っては、原加盟国である4ヶ国(ブラジル、ロシア、インド、中国)と南アフリカを併せた5ヶ国の間に微妙にスタンスが異なることに留意する必要がある。欧米などとの対立を先鋭化させている中国とロシアは、欧米などに反発している新興国などをBRICSに取り込むことにより枠組そのものの『反欧米』の色合いを強めることにより、けん制を掛けることを狙っている可能性が考えられる。他方、『全方位外交』を国是とするインドは中ロとは異なるスタンスでBRICSに加盟しているほか、ブラジルもルラ現政権は反米左派色が強いものの欧州との関係は悪くない上、中国がイランの加盟を進めてきたことを警戒、抵抗するなどの動きをみせてきた。さらに、昨年の加盟国拡大に際して猛プッシュしたアルゼンチンを巡って政権交代を経て脱退したこともあり、加盟国拡大への前のめり度合いが後退している可能性も考えられる。こうした加盟国拡大を巡る姿勢の違いを反映して「バランスを維持するとともに、加盟国拡大により組織の効率性を落とすべきではない」との考えが共有されており、インドなどを念頭に枠内における原加盟国の影響力低下を警戒する向きに配慮したと捉えられる。その一方、このところは新興国の間でBRICSへの加盟意欲を示す国が相次いでいることを受けて、将来的な加盟に向けた「パートナー国」の資格を新設するとともに、将来的な加盟国拡大への道筋を開く動きをみせている。パートナー国は13ヶ国とされる一方で具体的な言及はなされなかったものの、一部報道ではトルコ、カザフスタン、ウズベキスタン、アルジェリア、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、インドネシア、マレーシア、ナイジェリア、タイ、ウガンダ、ベトナムとされている。これらの国々うち、ベラルーシとキューバについては明らかに中ロが反欧米の結束を強めるべく招き入れた可能性が高いと見込まれる一方、トルコはNATO(北大西洋条約機構)加盟国である上、実利重視によるバランス外交を模索するASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の存在も中ロの暴走に対する『歯止め役』となる可能性はある。とはいえ、BRICSを巡っては枠内における中国の存在感が圧倒的であり、仮にパートナー国13ヶ国がすべて加盟したとしてもすべての国のGDPの合計の半分以上を中国が占めることを勘案すれば、中国の動向に左右される組織であることは間違いない。さらに、これらの国々のなかには中国に対する反発、警戒感が少なくないことも影響して求心力を維持することの困難も予想されるなか、先行きのBRICSはいよいよ『同床異夢』感を強める組織となっていくことは避けられないであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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