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2025.02.04
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「トランプ2.0」でも南アフリカの土地政策にふたたび関心か
~今回は「マスク氏」の存在が政策に影響の可能性も、ランド相場の新たなリスク要因となるか~
西濵 徹
- 要旨
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- 米トランプ大統領は「関税男」を自称し、外交政策を巡って関税賦課を材料に取引を持ち掛ける動きをみせる。こうしたなか、突如SNSで南アフリカの土地政策を巡る懸念を理由にすべての資金援助を停止する考えを明らかにした。なお、トランプ氏が同国の土地政策に関心を抱くのは2度目であり、第1次政権の際にも調査を指示した経緯がある。ただし、今回は同国にルーツを持つマスク氏が政権内に居るため、何らかの政策に具現化する可能性も考えられる。南ア政府は米政府に理解を求める考えを示す一方、近年は中国と接近する動きをみせるなかで米中摩擦の動きが「飛び火」する可能性もくすぶる。また、米トランプ政権の関税政策をきっかけに金融市場に不透明感が強まるなか、両国関係が悪化すればランド相場が調整の動きを強めるなど、金融政策の手足を縛る懸念もある。当面は具体的な動きに注意を払う必要があろう。
米トランプ大統領は、自身を「タリフマン(関税男)」と称するとともに、先月の第2次政権発足直後から公約の実現に向けて外交政策を巡って関税賦課を材料にしつつ、相手国との間で『ディール(取引)』を持ち掛けるなどけん制を掛ける動きを強めている。こうしたなか、今月2日に自身のSNSで南アフリカについて「南アフリカが土地を没収して特定の階層の人々に対して非常に酷い扱いをしている」と主張した上で、同国に対する資金援助を調査が完了するまですべて停止することを表明した。この背景には、同国のラマポーザ大統領が先月、公正かつ公平な公共の利益を目的とする形で、政府が補償なしに土地の収用を可能とする内容の法案に署名、成立したことに端を発する。同法を巡って同政府は、1994年のアパルトヘイト撤廃から30年以上が経過しているにも拘らず、農地の大半を少数派の白人が占めるなど土地所有に関する人種間格差が存在しており、格差是正を目的としたものとしている。しかし、昨年の総選挙で政権を支える最大与党で黒人系政党のANC(アフリカ民族会議)は大きく議席を減らして単独過半数を失い、政権維持に向けて連立を組んだ白人系政党のDA(民主同盟)は同法に異議を唱える動きをみせるなど、同法を巡って政権内は一枚岩ではない様子がうかがえる。こうした状況にも拘らず、ラマポーザ政権は法案成立を押し切った格好であるが、そこに米トランプ政権が外野から『嚙みついた』格好である。ただし、トランプ氏による同国の政策への介入は今回に始まった話ではなく、第1次政権時の2018年、ラマポーザ氏が無補償での土地収用を進めるべく憲法改正を行う方針に言及したことをきっかけに、トランプ氏がポンペオ国務長官(当時)に対して実態調査を行うよう指示したことを明らかにした(注1)。なお、トランプ氏がこうした動きをみせたきっかけは、同氏が好んで視聴しているとされるFOXニュースが、同国において土地収用を巡って白人農民の大規模殺害や暴力的な土地の買収が行われていると報道したことが影響したとされ、今回も同様にFOXニュースがこの問題を取り上げていることに鑑みれば、外交戦略に影響を与えるツールのひとつになっていると捉えることが出来る。他方、当時のトランプ政権がこの問題を巡って調査を行ったかについては不明であるが、今回については別の事情が影響する可能性に留意する必要がある。それは、トランプ氏の盟友として第2次政権では政府効率化省(DOGE)の委員長となっているイーロン・マスク氏は南アフリカ生まれであることによる。マスク氏は以前、黒人系の急進左派政党であるEFF(経済的開放の闘志)が反アパルトヘイトの闘争歌(キル・ザ・ボーア)を昨年の総選挙に向けての政党集会において唱和を先導する動きをみせたことを受けて、自身のSNSにおいて反発するとともに、ラマポーザ氏に対して何らかの対応を求める考えを示したことがある。この歌の歌詞を巡っては、その過激な内容を理由にしばしば物議を醸す動きがみられたものの、憲法裁判所はヘイト・スピーチや扇動には当たらないとの判断を下すとともに、言論の自由の範疇にあるとして保護する考えをみせている。とはいえ、マスク氏の懸念に加え、トランプ氏も同様に懸念を示す事態となれば、両国関係の在り様に影響を与える可能性に留意する必要がある。南ア政府(国際関係・協力省)はトランプ氏の反応に対して「調査を通じて立憲民主主義の枠組みのなかで政策が十分に理解されることを信じている」との考えを示すとともに、法律についても「多くの国に同様の法律があるなど例外的なものではない」との見方を示している。他方、折しも同国は近年中国との間で関係深化の動きをみせるなか、同国政府が事実上の台湾大使館を3月末までに首都のプレトリアから移転するよう求める動きをみせているとされ、台湾外交部がその背後で中国本土からの『圧力』が影響しているとの見方を示している。よって、関税政策をきっかけに激化が予想される米中摩擦が新たな形で同国に『飛び火』する可能性にも注意する必要がある。さらに、同国では先週に中銀(SARB)が景気下支えを目的とする利下げに動く一方、米トランプ政権の関税政策をきっかけとする貿易戦争が実体経済やランド相場に悪影響を与える可能性に警戒する考えをみせた(注2)。こうしたなか、足下の国際金融市場では米トランプ政権がカナダ、メキシコ、中国に追加関税を課す大統領令の発令に動いたことをきっかけに不透明感が強まり、米ドル高圧力が強まるなどランド相場を取り巻く環境が変化する懸念が高まっており、SARBは政策の手足を縛られることも考えられる。仮に米トランプ政権が資金援助の停止に動くとともに、両国関係が悪化する事態に発展すれば同国市場を取り巻く状況が一段と悪化するとともに、ランド相場が調整の動きを強めることも考えられる。当面はトランプ氏やマスク氏の『次の動き』に注意を払う必要性が高まっている。

注1 2018年8月24日付レポート「米トランプ大統領、次の「標的」は南ア!?」
注2 1月31日付レポート「南ア準備銀は3会合連続の利下げも「貿易戦争」の影響を警戒」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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