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2024.06.19
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チリ中銀は8連続利下げも利下げ幅縮小、ペソ相場の行方はどうなる
~政治・経済ともに不透明、銅価格の調整も重石に、投資妙味の低下も見通しを難しくする~
西濵 徹
- 要旨
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- 南米チリ経済は銅の国際価格の動向に連動する傾向がある。ここ数年は中国景気に対する懸念が銅価格、ひいては同国経済の足かせとなってきたが、年明け直後にようやく底入れしている。他方、一昨年に発足した急進左派のボリッチ政権は政策運営のこう着状態により事実上の死に体となるなど、政治、経済ともに不透明感がくすぶる。また、インフレの頭打ちを受けて中銀は断続利下げに動いてきたが、足下では生活必需品を中心に物価上昇圧力が強まり、インフレも底打ちに転じている。こうしたなか、中銀は18日の定例会合で8会合連続の利下げに動くも、利下げ幅を25bpに縮小して政策金利を5.75%とする決定を行った。中銀は一段の利下げを見込んでいるが、異常気象による食料インフレ懸念のほか、銅価格の頭打ちを受けてペソ相場も調整するなどインフレ要因は山積する。リチウム産業の魅力は高い一方、ボリッチ政権の国有化方針など不透明要因も多いなか、当面のペソ相場は見通しの立ちにくい展開が続く可能性が高い。
南米のチリ経済は、財輸出の半分近くを銅が占めるなど銅の国際価格の動向が景気を左右する傾向がある。こうしたなか、ここ数年はコロナ禍をきっかけとする中国経済を巡る不透明感が銅価格の重石となってきたことに加え、物価高と金利高の共存状態が長期化するなかで主要産業である銅鉱山でストライキが頻発するなど経済活動の足かせとなってきた。よって、実質GDPの水準は過去2年に亘って勢いを欠く推移が続くとともに、昨年の経済成長率は+0.2%とわずかなプラス成長に留まるなど他の新興国と比較しても勢いを欠く展開をみせてきた。なお、同国では長らく新自由主義に基づき経済政策が志向されることで高い経済成長を実現する一方、OECD(経済協力開発機構)加盟国のなかで最も社会経済格差が大きいという課題を抱える。こうしたなか、2022年に急進左派のボリッチ政権が誕生したものの、議会上下院ではボリッチ政権を支える急進左派は少数派に留まるなど『ねじれ状態』となり、政権と議会の対立を理由に政策運営が滞る状況が続いている。ボリッチ政権は今年3月に4年の任期の折り返しを迎えたものの、政権運営を巡っては事実上の『死に体』状態となっており、経済のみならず、政治面でも同国を取り巻く環境は厳しさを増していると捉えられる。他方、年明け以降は中国の景気底入れを受けた銅をはじめとする商品市況が上昇の動きを強めており、1-3月の実質GDP成長率も前期比年率+7.83%、中期的な基調を示す前年同期比ベースでも+2.3%と7四半期ぶりの高い伸びとなるなど低迷が続いた景気を巡る状況に変化の兆しが出ている。ここ数年の同国では商品高や国際金融市場での米ドル高を受けた通貨ペソ安も重なりインフレが大きく上振れしたものの、一昨年後半を境に頭打ちに転じたことを受けて中銀も昨年7月以降に利下げに動いており、景気の足かせとなってきた物価高と金利高の共存状態の解消が進んでいることが影響している。昨年来の中南米諸国ではインフレ鈍化を理由に利下げに動く流れが広がるなど『利下げドミノ』とも呼べる動きがみられたが、チリ中銀は昨年7月から今年5月までに計7回、累計525bpもの大幅利下げに動くなどそうした流れに乗ってきたと捉えられる。ただし、インフレは一昨年後半以降を境に頭打ちの動きを強めてきたものの、年明け以降は底打ちに転じるとともに足下では緩やかに加速する動きが確認されている。これは昨年後半以降の中東情勢の悪化を受けた国際原油価格の底入れを反映してエネルギー価格に押し上げ圧力が掛かるとともに、ここ数年のエルニーニョ現象をはじめとする異常気象を理由とする生育不良により食料品価格も上昇するなど、生活必需品を中心に物価上昇圧力が掛かっていることが影響している。こうしたなか、中銀は18日の定例会合で8会合連続の利下げを行うも、利下げ幅を25bpに縮小して政策金利を5.75%とするなど金融緩和のペースを減速させる決定を行っている。会合後に公表した声明文では、5人の政策委員が利下げを主張するも「4(25bp)対1(50bp)」と利下げペースを巡って意見が割れたことを明らかにしている。その上で、世界経済について「見通しは変わらない」との認識を示す一方、同国経済について「年初の底入れの動きは一過性のものであったが、潜在成長率並みの成長が続いている」とした上で、「マクロ経済を巡る状況が想定通りであれば年前半に利下げを集中させられた」としつつ「今後も一段の利下げが行えると見込まれる」との見方を示している。なお、足下ではエルニーニョ現象が終了したものの、今後はラニーニャ現象の発生が予想されるなど食料インフレ圧力が高まる懸念はくすぶる。さらに、年明け以降に底入れした銅の国際価格は足下では中国経済を巡る不透明感がくすぶるなかで再び頭打ちしており、こうした動きに呼応してペソ相場は調整の動きを強めるなど輸入インフレの再燃が意識されやすい動きをみせる。こうした状況を勘案すれば、中銀は先行きの利下げを見込む姿勢をみせているものの、利下げペースの縮小を余儀なくされる可能性は高まると予想される。他方、上述したように同国経済は銅価格の影響を受けやすいなか、これまでの中銀の大幅利下げを受けて実質金利のプラス幅は縮小するなど投資妙味が低下していることも重なり、ペソ相場も上値の重い展開が続く可能性が見込まれる。同国はオーストラリアに次ぐリチウム産業の規模を有するなど世界から注目を集める一方、ボリッチ政権は関連産業の国有化を目論むなど資源ナショナリズム色を強めるなか(注1)、上述のように死に体化するなかで今後のボリッチ政権の出方に留意する必要があり、そうした見方もペソ相場の足かせとなる可能性もくすぶるであろう。



注1 2023年4月24日付レポート「チリ・ボリッチ大統領がリチウム産業の国有化発表、「資源ナショナリズム」に舵」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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