OPECプラス、中東混乱による原油価格底入れを受けて現状維持

~需給双方に不透明要因がくすぶるなかで当面の原油価格は動意の乏しい展開が続くであろう~

西濵 徹

要旨
  • 主要産油国の枠組であるOPECプラスは協調減産の枠組を維持する一方、今年1月から3月まで8ヶ国の有志国が自主減産に動いている。しかし、全体としての供給を取り巻く状況はそれ以前と変わらないと捉えられるが、昨年末以降は中東情勢、とりわけ紅海航路を巡る混乱を理由に国際原油価格は底入れしている。こうしたなか、1日に開催されたOPECプラスの合同閣僚監視委員会は現状維持を確認する一方、3月に有志国による自主減産の延長の可否を検討する方針を決定した模様である。国際原油価格の底入れを受けてロシア産原油は欧米などの制裁価格を上回る推移が続くなど、追加減産への切迫感は乏しい。需給双方に不透明要因がくすぶることを勘案すれば、当面の原油価格は動意の乏しい展開が続くであろう。

主要産油国の枠組であるOPECプラスを巡っては、国際原油価格が頭打ちの動きを強める展開をみせたことを受けて、昨年11月に開催した閣僚級会合において全体としての協調減産の枠組を維持する一方で枠内の生産目標を調整するとともに、今年1月から3月までを対象に8ヶ国の『有志国』が日量220万バレルの自主減産に動くことで価格下支えを図ることで合意した(注1)。しかし、枠内において減産余力があるサウジアラビアとロシアによる自主減産は元々昨年末まで実施されたものの延長に過ぎず、その他の有志国による自主減産についても枠自体が大幅に拡大されたものではなく、供給を取り巻く状況は大きく変化しない展開が続いている。なお、昨年の国際原油価格を巡っては、中東情勢の悪化を理由とする供給懸念が意識される形で上振れする動きがみられたものの、中東情勢は不透明な状況が続くも供給不安の動きが顕在化する事態には至らず一部の産油国が供給を拡大させる動きがみられる一方、世界経済の減速が意識されたことで頭打ちの動きを強めた。こうした事情が上述の決定を後押ししたとみられる一方、OPECに加盟するとみられたブラジルはあくまでオブザーバー参加に留めるなど協調減産に加わらない考えを示すとともに、昨年末には自主減産に反発する形でアンゴラがOPECから脱退するなど結束に綻びがみられた。他方、昨年末以降は中東情勢を巡ってパレスチナのイスラム原理主義組織であるハマスに同調する形で、イエメンを拠点とする反政府武装組織のフーシ派が紅海を航行する船舶に対する攻撃を繰り返し実施するなど地域の物流が混乱しており、結果的に国際原油価格が底入れの動きを強めるなど、協調減産とは別の理由により原油価格が揺さぶられる展開が続いている。こうした事態を受けて、1日にオンラインで開催されたOPECプラスの合同閣僚監視委員会(JMMC)においては現行の協調減産を維持することを確認する一方、3月までを対象とする有志国による自主減産について新たな取り決めなどは示されなかった。なお、JMMCは通常2ヶ月ごとに開催しており、次回は4月3日に開催が予定されるものの、報道によれば有志国による自主減産は3月末までであり、3月にも自主減産を延長するか否かについて検討する方針の模様である。また、JMMCの後にロシアのノバク副首相はOPECプラスを巡って、常に石油市場を支える体制は整っているとの見解を示した旨が報道されているものの、年明け以降の国際原油価格の底入れの動きに歩調を併せるようにロシア産原油価格も底入れの動きを強めており、欧米などが経済制裁を通じて設定した上限(1バレル=60ドル)を上回る水準を回復するなど、さらなる自主減産に動く切迫感は乏しいと捉えられる。こうしたなか、先月のOPECによる産油量は有志国による自主減産に加え、政情不安を理由にリビアの産油量が大きく下振れしたほか、生産割当枠が免除されているイランの産油量も減少する一方、イラクやナイジェリア、ガボンが目標を上回る生産を続けたことで全体として目標を上回るなど供給が上振れする展開が続いている。他方、足下の世界経済は中国の減速懸念に加え、コロナ禍からの世界経済の回復をけん引した欧米など主要国景気も頭打ちが意識されるなど需要鈍化が意識されやすい状況にある。こうした状況を勘案すれば、当面の国際原油価格は上値、下値ともに固くなりやすいなど動意の乏しい展開が続くと見込まれる。

図 1 国際原油価格の推移
図 1 国際原油価格の推移

図 2 ロシア産原油価格の推移
図 2 ロシア産原油価格の推移

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ