- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- OPECプラス、中東混乱による原油価格底入れを受けて現状維持
- World Trends
-
2024.02.02
新興国経済
原油
ブラジル経済
ロシア経済
産油国経済
その他新興国経済
OPECプラス、中東混乱による原油価格底入れを受けて現状維持
~需給双方に不透明要因がくすぶるなかで当面の原油価格は動意の乏しい展開が続くであろう~
西濵 徹
- 要旨
-
- 主要産油国の枠組であるOPECプラスは協調減産の枠組を維持する一方、今年1月から3月まで8ヶ国の有志国が自主減産に動いている。しかし、全体としての供給を取り巻く状況はそれ以前と変わらないと捉えられるが、昨年末以降は中東情勢、とりわけ紅海航路を巡る混乱を理由に国際原油価格は底入れしている。こうしたなか、1日に開催されたOPECプラスの合同閣僚監視委員会は現状維持を確認する一方、3月に有志国による自主減産の延長の可否を検討する方針を決定した模様である。国際原油価格の底入れを受けてロシア産原油は欧米などの制裁価格を上回る推移が続くなど、追加減産への切迫感は乏しい。需給双方に不透明要因がくすぶることを勘案すれば、当面の原油価格は動意の乏しい展開が続くであろう。
主要産油国の枠組であるOPECプラスを巡っては、国際原油価格が頭打ちの動きを強める展開をみせたことを受けて、昨年11月に開催した閣僚級会合において全体としての協調減産の枠組を維持する一方で枠内の生産目標を調整するとともに、今年1月から3月までを対象に8ヶ国の『有志国』が日量220万バレルの自主減産に動くことで価格下支えを図ることで合意した(注1)。しかし、枠内において減産余力があるサウジアラビアとロシアによる自主減産は元々昨年末まで実施されたものの延長に過ぎず、その他の有志国による自主減産についても枠自体が大幅に拡大されたものではなく、供給を取り巻く状況は大きく変化しない展開が続いている。なお、昨年の国際原油価格を巡っては、中東情勢の悪化を理由とする供給懸念が意識される形で上振れする動きがみられたものの、中東情勢は不透明な状況が続くも供給不安の動きが顕在化する事態には至らず一部の産油国が供給を拡大させる動きがみられる一方、世界経済の減速が意識されたことで頭打ちの動きを強めた。こうした事情が上述の決定を後押ししたとみられる一方、OPECに加盟するとみられたブラジルはあくまでオブザーバー参加に留めるなど協調減産に加わらない考えを示すとともに、昨年末には自主減産に反発する形でアンゴラがOPECから脱退するなど結束に綻びがみられた。他方、昨年末以降は中東情勢を巡ってパレスチナのイスラム原理主義組織であるハマスに同調する形で、イエメンを拠点とする反政府武装組織のフーシ派が紅海を航行する船舶に対する攻撃を繰り返し実施するなど地域の物流が混乱しており、結果的に国際原油価格が底入れの動きを強めるなど、協調減産とは別の理由により原油価格が揺さぶられる展開が続いている。こうした事態を受けて、1日にオンラインで開催されたOPECプラスの合同閣僚監視委員会(JMMC)においては現行の協調減産を維持することを確認する一方、3月までを対象とする有志国による自主減産について新たな取り決めなどは示されなかった。なお、JMMCは通常2ヶ月ごとに開催しており、次回は4月3日に開催が予定されるものの、報道によれば有志国による自主減産は3月末までであり、3月にも自主減産を延長するか否かについて検討する方針の模様である。また、JMMCの後にロシアのノバク副首相はOPECプラスを巡って、常に石油市場を支える体制は整っているとの見解を示した旨が報道されているものの、年明け以降の国際原油価格の底入れの動きに歩調を併せるようにロシア産原油価格も底入れの動きを強めており、欧米などが経済制裁を通じて設定した上限(1バレル=60ドル)を上回る水準を回復するなど、さらなる自主減産に動く切迫感は乏しいと捉えられる。こうしたなか、先月のOPECによる産油量は有志国による自主減産に加え、政情不安を理由にリビアの産油量が大きく下振れしたほか、生産割当枠が免除されているイランの産油量も減少する一方、イラクやナイジェリア、ガボンが目標を上回る生産を続けたことで全体として目標を上回るなど供給が上振れする展開が続いている。他方、足下の世界経済は中国の減速懸念に加え、コロナ禍からの世界経済の回復をけん引した欧米など主要国景気も頭打ちが意識されるなど需要鈍化が意識されやすい状況にある。こうした状況を勘案すれば、当面の国際原油価格は上値、下値ともに固くなりやすいなど動意の乏しい展開が続くと見込まれる。
注1 2023年12月1日付レポート「OPECプラスは協議難航の後、有志国が3ヶ月間の自主減産で合意」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最新レポート
-
ニュージーランドは10ヶ月ぶりの貿易黒字に(Asia Weekly(4/22~4/26)) ~台湾の3月統計は前年比でプラスだが、前月比はマイナスであるなど内容に注意~
アジア経済
西濵 徹
-
トルコ中銀、物価下落まで引き締め継続の意思も、市場の反応は ~中銀や政府は正統的な政策への意思を強調も、エルドアン大統領の「胸の内」への警戒はくすぶる~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国景気、2024年は良好なスタートダッシュも先行きは不透明感山積 ~今年の成長率は昨年から加速する余地は多いが、内・外需ともに不透明要因は山積している~
アジア経済
西濵 徹
-
インドネシア中銀は「安定」を重視して6会合ぶりの利上げを決定 ~ルピア安定へ政策協調の強化を示唆も、外部環境如何で一段と厳しい状況に晒される懸念はある~
アジア経済
西濵 徹
-
オーストラリアのインフレが加速、インフレの粘着度の高さを確認 ~金融市場での利下げ期待の後退不可避、当面の豪ドル相場は堅調な推移をみせる可能性~
アジア経済
西濵 徹
関連レポート
-
「最強通貨」メキシコペソでも「米ドル一強」の流れには勝てないか ~中東情勢の不安定化に加え、外貨準備高も金融市場の動揺への耐性に乏しいことに要注意~
新興国経済
西濵 徹
-
「米ドル一強」のなかで新興国経済はどうなるか? ~生活必需品のインフレに加えて輸入インフレの懸念、為替介入による「時間稼ぎ」にも限界はある~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀がルラ政権下で初の為替介入、レアル相場の潮目は変わったか ~先行きの金融政策は景気に不透明感がくすぶるなかで利下げペースの縮小を迫られる可能性~
新興国経済
西濵 徹
-
ペルー・ボルアルテ大統領、不正蓄財疑惑で当局の捜査を受ける ~政治不信が極まるなかで政局の混乱がソル相場に影響を与える可能性に注意を払う必要性は高い~
新興国経済
西濵 徹
-
ロシア大統領選はプーチン氏が「圧勝」、ウクライナ情勢は一層長期化が不可避 ~「永世大統領」に向けて一歩前進、特異性が強まる展開は不可逆的に進んでいくであろう~
新興国経済
西濵 徹