南ア中銀は3会合連続で金利据え置き、経済の懸念要因は依然山積

~中期財政計画は具体策に乏しく、来年の総選挙に向けた動きにも注意を払う必要性は高い~

西濵 徹

要旨
  • 南アフリカ経済を巡っては、慢性的な電力不足が足かせとなる状況が続く。さらに、インフレ加速を受けて中銀は断続利上げを余儀なくされたが、昨年末以降の商品高や米ドル高の一巡で年明け以降のインフレ率は頭打ちの動きを強めた。中銀は7月に1年半強に及んだ利上げ局面を休止させたが、足下ではインフレが再加速に転じる動きが確認されている。よって、中銀は23日の定例会合でも3会合連続の金利据え置きを決定するなど慎重姿勢を維持した。政府は今月初めに公表した中期財政計画において、財政健全化に取り組む姿勢をみせるも、具体的な方策など言及はなかった。他方、来年は総選挙が予定されるなど歳出圧力が強まりやすいなか、実体経済もランド相場も劇的な改善は見通しにくい展開が続くと予想される。

ここ数年の南アフリカ経済を巡っては、慢性的な電力不足を理由に全土において度々計画停電が実施されるなど幅広い経済活動の足かせとなる状況が続いている。他方、コロナ禍からの世界経済の回復やウクライナ戦争をきっかけとする商品高に加え、国際金融市場における米ドル高の動きが通貨ランド安を招いて輸入インフレ圧力が強まり、インフレ率は一時13年ぶりの高水準に加速する事態に直面した。よって、中銀は一昨年末以降、物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされるなど難しい対応を迫られたものの、その後もインフレが高止まりして物価高と金利高の共存が長期化したため、電力不足の影響も重なりスタグフレーションに陥った。なお、昨年末以降は商品高や米ドル高の動きに一服感が出るなどインフレ要因が後退したほか、前年にインフレが大きく上振れした反動も重なり年明け以降のインフレ率は頭打ちが進んで中銀目標に収まる動きが確認された。こうした事態を受けて、中銀は今年7月に1年半強に及んだ利上げ局面の休止に動くなど景気下支えに配慮する姿勢をみせる一方、先行きのインフレ見通しを巡って慎重姿勢を崩さない対応をみせた(注1)。さらに、その後もインフレは一段と低下する動きがみられたにも拘らず、中銀は9月の定例会合で政策金利を据え置く決定を行っており、その理由に商品市況の底入れを受けたインフレ再燃の懸念に加え、財政悪化懸念を反映して長期金利が高止まりするなど新たなリスク要因となることを警戒していることを挙げた(注2)。事実、足下のインフレ率は商品市況の底入れを受けた食料品など生活必需品を中心とするインフレ再燃の動きを反映して底入れの動きを強めており、昨年末にかけて頭打ちの動きを強めた反動も重なり中銀目標の上限近傍付近に加速している。よって、中銀は23日の定例会合においても3会合連続で政策金利を据え置く決定を行うとともに、会合後に公表した声明文では景気動向について「電力不足を巡る懸念は後退するも短期的な景気は力強さを欠いており、電力や物流を巡る制約要因が経済活動の足かせになるとともに、一般的なコスト上昇圧力を招いている」とする一方、「中長期的には電力供給の改善を追い風に緩やかな底入れが見込まれる」との見方を示している。なお、足下のインフレ率はこれまでの想定を上回るペースで加速する動きがみられるなか、「インフレ動向は外的ショックによる影響を受けやすく、インフレを巡るリスクは依然として上向き方向と評価している」との認識を示した。他方、同行のハニャホ総裁は会合後の記者会見において、インフレ動向を巡って「ランド安は輸入インフレに影響を与える」「食料価格は引き続き脆弱な動きをみせている」とした上で「インフレの加速は歓迎しない」との考えをみせる一方、「需要インフレ圧力が高まるとはみていない」との見通しを示しつつ、2025年までにインフレ率が中銀目標域に留まるとの従来見通しを変えない考えをみせた。足下のランド相場を巡っては、米ドル高に一服感が出ていることを反映して底打ちする動きをみせているものの、外部環境に晒される状況は変わっていない。同国政府が今月初めに公表した中期財政計画では、商品市況の低迷に伴う歳入減により財政状況が圧迫されていることを受けて、税制改革による歳入増を進める一方、歳出削減や公的部門の統廃合による効率化により財政赤字の圧縮に取り組む方針を明らかにしている。公的部門を巡っては、国営電力公社(ESKOM)やインフラ公社(トランスネット)が幅広く経済活動の足かせとなるとともに財政の圧迫要因となるとともに、これらの経営効率化や金融支援が急務となっているものの、中期財政計画では具体的な方策などは示されていない。他方、同国では来年総選挙の実施が予定されており、景気下支えに向けた歳出増が意図されやすい環境にあるなか、今後は中期財政計画で示した方向性を具体的な方策に落とし込むことが求められるものの、そのハードルが高まることも予想される。その意味では、実体経済を巡る動きや通貨ランド相場を取り巻く環境を巡っても当面は劇的に状況が好転していく事態は想定しにくいものと見込まれる。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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