インド、次期総選挙の「前哨戦」となる州議会選は3州で与党BJP勝利

~次期総選挙に向けモディ政権、与党BJPに弾みが着く一方、野党連合(I.N.D.I.A.)は立て直しが急務~

西濵 徹

要旨
  • インドでは来年4~5月にかけて総選挙が実施される。モディ首相と最大与党BJPは政権3期目入りを目指す一方、最大野党の国民会議派など26党も政権奪取に向けて政党連合(I.N.D.I.A.)を構築するなど激戦必至とみられる。足下の景気は実態として足踏み状態と判断出来るなか、先月に5州で州議会選が実施され、次期総選挙の前哨戦として注目された。5州のうち3州でBJPが勝利したほか、BJPと連立を組む地域政党が1州で政権を維持した。一方、国民会議派は1州で政権奪還を果たすも、BJP自体は善戦を果たすなど改めてモディ政権とBJPの強さを示した格好である。州議会の結果は連邦議会上院の勢力図にも影響するなか、次期総選挙に向けて与野党双方による選挙戦は一段と激化することが予想される。

インドでは、来年4月から5月にかけて総選挙(連邦議会下院選挙)の実施が予定されるなど『政治の季節』が近付いており、モディ首相は総選挙を経た政権3期目入りを目指すとともに、与党BJP(インド人民党)も総選挙を意識した動きを強めている。なお、総選挙に向けては最大野党の国民会議派をはじめとする26政党がBJPやBJPを中心とする連立(国民民主同盟(NDA))に対抗すべく新連合(インド全国開発包括連合(I.N.D.I.A.))を結成しており、与野党間の競争が激化する動きがみられる。こうしたなか、政府は今年度(2023-24年度)予算において、景気下支えを目的とするインフラ投資の拡充に加え、選挙戦のカギを握る中間層などを対象にした実質減税を盛り込むなど、総選挙を強く意識する動きをみせてきた。さらに、昨年来の商品高によるインフレ懸念に対応して、伝統的に関係が深いロシアからの原油輸入を拡大させるなど、ウクライナ戦争を機に欧米などがロシアへの経済制裁を強化する動きに同調しない『独自外交』を展開している。また、今年の雨季(モンスーン)の雨量が低水準に留まるなど、異常気象の頻発が農業生産の低迷を通じて食料インフレの懸念が高まるなか、政府は高級品種のバスマティ米以外の白米の輸出を禁止するとともに、タマネギの輸出に高関税を課すなど実質的な輸出禁止に動くなど『実利優先』の姿勢をみせていることも(注1)、総選挙を強く意識した動きを捉えることが出来る。このように総選挙を見据えてなりふり構わぬ姿勢をみせているものの、7-9月の実質GDP成長率は前年同期比ベースで+7.6%と前期(同+7.8%)から鈍化するも依然として高い伸びが続いており、一見すると足下の景気は好調な推移が続いているようにみえる。しかし、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースではマイナス成長になったとみられるなど、実態としての景気動向は『足踏み状態』にあると捉えられる(注2)。また、足下の企業マインドを巡っては、製造業、サービス業ともに好不況の分かれ目となる水準を上回る推移が続いているものの、頭打ちの兆しがうかがえるなど足踏み状態が続いている可能性を示唆する動きをみせている。こうした状況は、総選挙に向けて与党BJPにとって追い風となるか逆風となるか見通しが立たない状況が続く一方、先月には総選挙の『前哨戦』となる州議会選挙が5州において実施された。5月に実施された南部カルナタカ州議会選においては、事前予想を覆す形でBJPが敗北を喫して国民会議派が政権奪取を果たすなど躓きが意識される内容となったため、次期総選挙が近付くなかで改めてその結果に注目が集まった。5州のうち2州(中部チャッティスガル州、西部ラジャスタン州)においては選挙前には国民会議派が与党を構成していたものの、いずれもBJPが議席を大きく積み増して政権奪取に成功している。また、中部マディヤプラデシュ州では前回の州議会選でBJPは敗北を喫するも、その後に政権交代を実現した経緯があるなか、今回の州議会選ではBJPが議席を積み増して与党の座を維持することに成功している。なお、東部ミゾラム州においては、地域政党のミゾ国民戦線が圧倒的多数の議席を確保して与党の座を維持するとともに、同党は中央政界において与党連立であるNDAの一員であることから変化はなかった。他方、南部テランガナ州では選挙前は地域政党でNDAの一員であるインド国民評議会(BRS)が与党の座にあったものの、国民会議派が政権の座を奪取することに成功するとともに、BJP自身も議席数を積み増すなど善戦した格好である。この結果、現時点においては次期総選挙に向けてモディ首相が率いるBJPが強さを発揮したものと捉えられる。また、州議会選の結果は連邦議会上院の議席数に影響を与えることから、現時点においてNDAは少数派に留まるものの、今後は上院内における勢力図が変化することも期待される。世論調査においてはNDAがI.N.D.I.A.に対して優勢となる展開が続いているなか、今回の前哨戦においてBJPの強さが改めて確認されたことを受けてI.N.D.I.A.にとっては立て直しが急務になっていることは間違いない。その意味では次期総選挙に向けて与野党双方による選挙戦は一段と激化することが予想される。

図表1
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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