インド:金融政策(24年4月)

~市場予想通りの据え置き、インド総選挙前に堅調な経済成長見通しと食料インフレ懸念が共存~

阿原 健一郎

要旨
  • 4月5日、RBIは政策金利の据え置き(6.50%)を決定。据え置きは市場予想通り。
    23年2月会合で利上げ(+25bps、6.25%→6.50%)をして以降、7会合連続の据え置き。

  • 据え置きの背景は、「インフレ率が持続的に4%の目標に達するまでディスインフレを維持する必要がある」として、インフレ目標達成のために金融引き締めを継続する姿勢を示した。
    先行きは、「緩和策の撤回に引き続き注力する」として、タカ派寄りの姿勢を示した。

  • 市場予想通りの据え置きであったことから、為替への影響は限定的。

4月5日、インド準備銀行(RBI)は政策金利(レポレート)の据え置き(6.50%)を決定した。据え置きは市場予想通り(据え置き:56/56人、ロイター調査)。23年2月の会合で利上げ(+25bps、6.25%→6.50%)をして以降、据え置きは7会合連続。金融政策委員会の政策判断の内訳は、前回会合に続き、5名が据え置きに投票、1名が▲25bpsの利下げに投票していた。

据え置きの背景について、RBIは声明文で、「インフレ率が持続的に4%の目標に達するまでディスインフレを維持する必要がある」として、インフレ目標達成のために、引き続き金融引き締めを継続する姿勢を示した。直近2月の消費者物価指数は、コアCPIが前年比+3.3%とインフレ目標を下回り減速しているものの、総合CPIは同+5.1%と依然としてインフレ目標からは高い水準にある(図表1)。総合CPIのウエイトの約45%を占める「食品・飲料」の価格が上昇しているため、総合CPIがコアCPIほど低下してこない。具体的には、足もと穀物や野菜、豆類、スパイス等の価格が上昇し、インフレ率の上昇に寄与している。この点、RBIも「特定の豆類の需給の逼迫、主要な野菜の価格を注意深く監視する必要がある」とし、食料インフレへの警戒を滲ませている。

また、RBIは物価の安定という目標を達成するにあたり、「経済成長への配慮」を意識する必要があるが(注1)、声明文では、足もとの経済活動は力強い投資需要と消費マインドに支えられ、引き続き底堅く推移すると評価している。直近23年10~12月期の実質GDPが前年比+8.4%だったのに対し、24年1~3月期は同+6.0%前後と、幾分減速すると見ているものの、国内経済のモメンタムは力強く、内需が好調であることを背景として、事前推計では23~24年度に前年度比+7.6%のプラス成長で着地する、という見通しを示した。

先行きについては、声明文で、「成長を支援しながらインフレ率が確実に目標に一致するよう、緩和策の撤回に引き続き注力する」として、タカ派寄りの姿勢を示した。RBIのインフレ見通しでは、通常のモンスーンを前提として、総合CPIがインフレ目標の4%を捉えるのは24年7~9月期としていることから、利下げを開始するとしても年後半になると考えられる(図表2)。もっとも、インフレ見通しの不確実性は高い。声明文では、南部の州の貯水池の水位が低いことや、4~6月の気温が平年より高くなる懸念があることに言及し、気候要因による食料価格の上振れリスクが大きいとしている。インフレ率がRBIの見通しを上振れて推移し、利下げの開始が後ずれする可能性は十分にあるといえる。

なお、今回の据え置きの政策決定は、市場予想通りであったこともあり、為替への影響は限定的。ただ、足もとでは、対米ドルで幾分増価している。政策決定後に発表された消費者コンフィデンスが高水準となったこと等からインド市場の底堅さが好感され、株価が引き続き上昇、インドルピーが買われたとみられる(図表3)。


(注1)インド準備銀行法の前文で、RBIの機能の一つとして「複雑化する経済という課題に対応するため、近代的な金融政策の枠組みを持ち、経済成長という目的を念頭に置きながら物価の安定を維持すること」と明記されている。

阿原 健一郎


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阿原 健一郎

あはら けんいちろう

経済調査部 主任エコノミスト
担当: アジアパシフィック経済、世界経済

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