インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

マレーシア中銀、周辺国に再利上げの動きも3会合連続の金利据え置き

~物価と景気に対する楽観的な見通しを維持も、先行きは政策運営の修正を迫られる可能性~

西濵 徹

要旨
  • 先月末にかけてのマレーシアでは、通貨リンギ相場が一時アジア通貨危機直後以来の安値を付ける事態に直面した。なお、中銀は昨年来のインフレ昂進を受けて断続利上げに動いたほか、年明け以降もリンギ安圧力に対応すべく再利上げに動くなど難しい対応を迫られてきた。足下のインフレ率は落ち着いた推移が続く一方、商品市況の底入れや米ドル高によるインフレ再燃が懸念されるなか、アジアでは再利上げの動きが広がりをみせる。景気の堅調さに加え、リンギ安によるインフレ再燃が懸念される状況ながら、中銀は2日の定例会合で政策金利を3会合連続で3.00%に据え置く決定を行った。中銀はリンギ安が景気に与える影響は小さいとの見方を示すとともに、物価や景気に対する比較的楽観的な見通しを維持している模様である。ただし、ファンダメンタルズの脆弱さがリンギ安を招く一因となる上、インフレの上振れに繋がるリスクが山積している状況を勘案すれば、先行きは政策運営の見直しを余儀なくされる可能性はくすぶろう。

先月末にかけてのマレーシアの通貨リンギ相場を巡っては、同国の外貨準備高が国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準としてIMF(国際通貨基金)が示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を下回る推移が続くなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱であることに加え、中東情勢を巡る不透明感の高まりが意識されたことも重なり、1997~98年に発生したアジア通貨危機後以来となる安値を更新する事態に見舞われた(注1)。なお、同国においては昨年以降、コロナ禍の一巡による経済活動の正常化の進展に加え、商品高や国際金融市場における米ドル高に伴う通貨リンギ安による輸入インフレ圧力の高まりも重なり、インフレが大きく上振れした。こうした事態を受けて、中銀は昨年5月に物価と為替の安定を目的に利上げに舵を切るとともに(注2)、その後も断続利上げに動くなど難しい対応を迫られた。なお、昨年末以降は商品高と米ドル高の動きが一巡するなどインフレ要因が後退したほか、上振れしたインフレ率も一転頭打ちの動きを強めたため、中銀は今年1月に半年に及んだ利上げ局面を一旦休止させた。しかし、その後のインフレ率は高止まりする展開が続いたほか、米ドル高の再燃に伴うリンギ安圧力の高まりが輸入インフレを増幅させる懸念が高まったことを受けて、中銀は5月に再利上げに踏み切る動きをみせた(注3)。中銀を巡っては、7月1日付で新総裁にアブドゥル・ラシード副総裁が昇格して新体制が発足したものの、新体制の下では7月、9月と2会合連続で金利を据え置くとともに、インフレが一段と鈍化していることを受けて『ハト派』姿勢を強める様子がうかがえた(注4)。しかし、足下においては主要産油国による自主減産延長に加え、異常気象の頻発による農作物の生育不良を理由に輸出禁止や制限に動く国が広がりをみせるなか、原油や農作物をはじめとする商品市況は底入れの動きを強めており、なかでもアジアでは世界最大のコメ輸出国であるインドのコメ禁輸を受けて食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレが再燃する動きがみられる。さらに、商品市況の底入れの動きは世界的なインフレ圧力を招くとの見方を反映して、米FRB(連邦準備制度理事会)による金融引き締めの長期化が意識されて米ドル高の動きが再燃しており、上述した中東情勢を巡る不透明感の高まりも米ドル高圧力を増幅させることに繋がっている。こうした事態を受けて、アジアでは先月以降にインドネシア中銀(注5)、フィリピン中銀(注6)が相次いで利上げに動くなど『再利上げの波』の兆しが出ている。足下のマレーシアのインフレ率は比較的落ち着いた推移が続いている一方、今後は昨年の反動により加速しやすい環境にある上、足下では生活必需品を中心にインフレ圧力が強まる動きがみられる。また、同国政府が先月末に公表した7-9月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比+3.29%と前期(同+2.85%)から伸びが加速しており、前期比年率ベースでは+10.56%と3四半期連続のプラス成長になるとともに前期(同+6.32%)から伸びが加速するなど、足下の景気は底入れの動きを強めている様子が確認されている。上述のようにリンギ相場は調整の動きを強めるなど輸入インフレに繋がる動きがみられるものの、中銀は2日に開催した定例会合において政策金利を3会合連続で3.00%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、世界経済について「想定以上のインフレ上昇や地政学リスク、金融市場の急変動など下振れリスクに晒されている」との認識を示す一方、同国経済について「足下では内需をけん引役に改善が続いており、先行きは来年度予算による下支えも景気に弾みを付ける」としつつ「景気見通しに上下双方に振れるリスクがある」との見方を示している。その上で、物価動向について「足下では緩やかな推移が続いており、先行きも小幅な上昇に留まる」とする一方、「補助金や統制価格を巡る政策変更や、商品市況や金融市場を取り巻く状況に左右される状況は変わらず、なかでも補助金や統制価格の見直しの動きは大きな影響を与える」との見方を示す。また、足下のリンギ相場について「米国の金利高止まりの長期化観測や地政学リスクの高まりが影響している」としつつ、「こうした動きが景気見通しに悪影響を与えることはなく、外為市場の秩序維持や流動性供給を含めたリスク管理を継続する」との考えを示している。その上で、「足下の金利水準は景気を下支えしつつ、物価と景気見通しとも整合的であり、足下の動向を警戒しつつ物価安定と持続可能な経済成長を目指す」との考えを改めて強調している。こうした状況は、先月末にかけてリンギ安圧力が強まったものの、中銀は景気と物価見通しに対して依然として楽観的な見方を維持していることを示唆しており、当面は様子見姿勢を続ける可能性は高いと判断出来る。ただし、上述のようにファンダメンタルズが堅牢とは言いがたい上、物価を巡る上振れリスクに繋がる材料が山積することを勘案すれば、政策運営の見直しを余儀なくされる可能性はくすぶるであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ