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2023.05.08
アジア経済
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為替
マレーシア中銀、インフレリスクを警戒して3会合ぶりに利上げ局面再開
~先行きの政策運営の方向性に関する明言は避けるも、外部環境に左右される展開は避けられない~
西濵 徹
- 要旨
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- 3日、中銀は定例会合で政策金利を3会合ぶりに25bp引き上げて3.00%とするなど、年明け以降休止してきた利上げ局面を再開する決定を行った。昨年の同国経済は内・外需の底入れを追い風に22年ぶりの高成長を記録したが、年末にかけては物価高と金利高の共存に加え、世界経済の減速懸念も重なり頭打ちした。インフレ率は昨年8月をピークに頭打ちに転じたほか、ルピア安基調の一服も重なり、中銀は今年1月に半年強に及んだ利上げ局面の休止に動き、3月も政策金利を据え置いた。しかし、堅調な内需を反映してコアインフレは高止まりし、ルピア安懸念も再燃するなか、中銀はインフレリスクを警戒して再利上げに追い込まれた。先行きの政策の方向性について中銀は明言を避けたが、金融不均衡を巡るリスクを警戒しており、コロナ禍後の家計債務拡大など潜在的なリスクはくすぶるなかで、外部環境に左右される展開が続こう。
昨年のマレーシア経済を巡っては、感染一服による経済活動の正常化に加え、国境再開も追い風に国内外で人の移動が活発化するなか、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復も追い風に、通年の経済成長率は+8.7%と22年ぶりの高い伸びを記録した。しかし、年前半にはペントアップ・ディマンドの発現を受けた家計消費の押し上げが景気の底入れを促す一方、商品高による生活必需品を中心とするインフレに加え、国際金融市場における米ドル高を反映した通貨リンギ安が輸入インフレを招くとともに、家計消費の回復の動きもインフレの上振れに繋がった。こうした事態を受けて、中銀は物価抑制を目的に昨年5月に利上げに動き、その後も物価と為替の安定を目的に断続利上げを余儀なくされており、政策金利はコロナ禍前を上回る水準となるなど、物価高と金利高が共存する事態となっている。結果、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率▲10.05%と5四半期ぶりのマイナス成長に転じており、ペントアップ・ディマンドの一巡に加え、物価高と金利高の共存が家計消費を下押ししたほか、世界経済の減速が外需の足かせになるとともに、企業部門による設備投資の足を引っ張ることで景気は頭打ちの様相を強めた(注1)。なお、同国経済は財輸出の約2割、コロナ禍前には外国人観光客の1割強を中国(含、香港・マカオ)が占めるなど中国経済への依存度が比較的高く、昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了の動きは景気の追い風になることが期待される。また、昨年加速の動きを強めたインフレ率は昨年8月をピークに頭打ちに転じているほか、昨年末にかけては国際金融市場における米ドル高の動きに一服感が出たことを反映してルピア相場も一転底入れの動きを強めており、商品市況の上振れの動きも落ち着きを取り戻すなどインフレ収束に向かう兆しがうかがわれた。よって、中銀は今年1月の定例会合において5会合ぶりに政策金利を据え置くなど半年強に及んだ利上げ局面の休止を決定したほか、3月の定例会合においても2会合連続で政策金利を据え置くなど利上げ局面の休止を維持した(注2)。しかし、足下においては欧米など主要国を中心に世界経済の減速懸念が引き続き外需の足かせとなるなか、年明け直後を境に製造業を中心とする企業マインドは底打ちする動きをみせているものの、依然好不況の分かれ目となる水準を下回る推移が続いている。他方、上述のようにインフレ率は頭打ちの様相を強めているものの、経済活動の正常化の動きを追い風にサービス物価に押し上げ圧力が掛かる展開が続いているほか、足下においては再びリンギ相場が調整の動きを強めるなど輸入インフレ圧力が強まっており、コアインフレ率はインフレ率を上回る推移が続いている。こうしたなか、中銀は3日に開催した定例会合において政策金利を3会合ぶりに25bp引き上げて3.00%とするなど、利上げ局面を再開する決定を行っている。会合後に公表した声明文では、世界経済について「予想以上の中国景気の回復がけん引役となる一方、コアインフレは高止まりする展開が続くなかで金融政策は引き締め状態が続いている」とした上で、「地政学リスクや想定以上のインフレ、銀行セクターを巡るストレスなどによる下振れリスクに晒されている」との認識を示している。一方、同国経済については「力強い内需をけん引役に堅調な推移が続いている」とした上で、先行きは「観光関連や財政出動が上振れ要因となる一方、世界経済の減速と国際金融市場を巡る不透明感は下振れ要因となり得る」との見方を示した。なお、物価動向については「想定通り低下しているが、堅調な需要を反映してコアインフレは高止まりすると見込まれる」とした上で、「リスクバランスは上振れ方向に傾いており、補助金や統制価格を巡る政策動向、金融市場環境、商品市況に左右される」との見通しを示している。その上で、「景気の堅調さを勘案して一段の金融政策の正常化に動くことが適切である」として「コロナ禍対応を目的とする金融緩和策は終了する」とした上で、先行きの政策運営について「将来的な金融不均衡に基づくリスクを抑制すべく適切に調整する必要があると認識している」との考えを示している。なお、現在の政策スタンスについては「やや緩和的で依然として景気を下支えしている」として「物価と景気の見通しと整合的であることを引き続き確認する」とするなど、先行きの政策運営について明確な姿勢は示していない。ただし、同国においてはコロナ禍対応を目的とする金融緩和を追い風に家計部門を中心に債務が拡大する動きを強めており、足下においては新興国の平均を上回る水準で推移するなど世界的に利上げ局面が長期化していることに伴う脆弱性が高まる懸念もくすぶる。コアインフレの上振れに繋がる材料も山積するなか、中銀にとっては先行きも外部環境を睨みながら一段の金融引き締めを迫られる可能性に留意する必要があろう。




注1 2月10日付レポート「マレーシア・アンワル政権は「安全運転」を維持することが出来るか」
注2 3月9日付レポート「マレーシア中銀、リンギ安が再燃するも利上げ局面の休止を維持」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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