ロシア中銀、4会合連続の利上げの一方で一部指標の「機密化」を検討

~財政膨張が利上げ後押しの一方、経済の「ブラックボックス化」で中国との「一体性」が進む可能性も~

西濵 徹

要旨
  • 27日、ロシア中銀はインフレとルーブル安に対応すべく、戦争中ながら4会合連続の利上げに加え、利上げ幅を200bpに引き上げて政策金利を15.00%とする決定を行った。足下の原油相場は底入れするも、同国経済は中国との連動性を高めており、ルーブル安圧力が掛かりやすい状況が続く。他方、「特別軍事作戦」やバラ撒き政策に伴う歳出増に加え、労働力不足や輸入インフレも重なりインフレ圧力が強まる動きもみられる。政府は来年度予算でも「大盤振る舞い」に動く姿勢をみせるなか、中銀は一段の金融引き締めに動いた。中銀はタカ派姿勢を強調するとともに、一部の経済指標を「機密扱い」する可能性に言及した。そうした動きは同国への不信感を増幅させる上、中国経済への「一体性」が一段と加速化する可能性もある。

27日、ロシア連邦中央銀行は定例の金融政策委員会を開催し、主要政策金利を4会合連続で引き上げるとともに、利上げ幅を200bpと前回会合(100bp)から拡大させて15.00%とする決定を行った。ロシアを巡っては、昨年2月のウクライナ侵攻をきっかけに1年8ヶ月に亘る戦争状態にある上、現時点においては依然として終局が見通せない状況にある。こうした状況ながら、中銀は今年7月にインフレや通貨ルーブル相場の安定を目的に利上げに舵を切るとともに(注1)、翌8月には緊急大幅利上げ(注2)、先月も追加利上げに動いてきた(注3)。今回の利上げ実施に伴い、戦時中にも拘らず中銀は累計750bpもの大幅利上げに動いていることになる。なお、ウクライナ戦争前のルーブルは『産油国通貨』の代表格とされており、国際原油価格の動向に連動する動きがみられた。足下の原油価格は同国とサウジという主要産油国による自主減産の延長に加え、足下では中東情勢を巡る不透明感の高まりを理由に原油価格は底入れしており、ロシア産原油価格も欧米などが設定した上限(1バレル=60ドル)を上回る推移が続いている。こうした状況ながら、欧米などによる経済制裁に伴いグローバルな金融機関などは取引を停止させたことでそうした連動性は薄れている。さらに、欧米などの経済制裁の一環でロシアの金融機関がSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されたことを受けて、中国人民銀行によるCIPS(人民元建国債銀行間決済システム)への接続の動きが広がるとともに、同国経済は迂回貿易や並行貿易を通じて中国との関係が深化している。また、迂回貿易や並行貿易の拡大に加え、中国以外の国々との間の貿易決済でも人民元が用いられる動きがみられ、実需面でルーブル相場は人民元との連動性が強まるとともに、戦争状態が長期化する背後でルーブルに対する需要が弱まり「人民元>ルーブル」といった構図が生まれやすくなっているとみられる。こうした状況に加え、このところの国際金融市場では商品市況の底入れに伴い米FRB(連邦準備制度理事会)による金融引き締めの長期化が意識されやすくなるなか、中国経済を巡る不透明感も重なり「米ドル>人民元」といった動きが進み、結果として「米ドル>人民元>ルーブル」という力関係が生じてルーブル安圧力が強まった。他方、プーチン政権はウクライナ侵攻に伴う『特別軍事作戦』が軍事費の増大を招いている上、戦争状態が長期化するなかで政府は国民の不満を抑えるべくバラ撒き政策に動いており、様々な面で歳出拡大圧力が掛かる展開が続いている。そして、戦争状態の長期化に伴い労働力不足が深刻化して賃金上昇圧力が掛かりやすい状況が続いており、昨年大きく上振れしたインフレは年明け以降一転頭打ちの動きを強めてきたものの、足下ではルーブル安による輸入インフレも相俟って再び底入れして中銀目標を上回る水準となっている。こうしたなか、政府は来年度予算において来年3月に実施予定の次期大統領選を見据えて大幅な歳出拡大を見込むなど『大盤振る舞い』に動く姿勢をみせており(注4)、インフレ圧力を一段と増幅させることが懸念された。中銀は会合後に公表した声明文において、物価動向について「足下のインフレ圧力は中銀予想を上回る水準で高まっている」との見方を示すとともに、先行きの政策運営について「引き締め姿勢が長期間維持される」との見方を示すなど改めてタカ派姿勢を強調した格好である。会合後に記者会見に臨んだ同行のナビウリナ総裁は政策運営について「インフレが減速しなければ追加利上げに動く用意はある」とした上で、「今回金利据え置きの選択肢はなかった」、「100bp、150bp、200bpの利上げを検討した」と述べるとともに、「年末までは据え置きか利上げになる」との見通しを示した。その上で、ルーブル相場を巡って「資本規制は短期的な効果しか期待出来ない」、「輸出業者が通貨の売り圧力を招いている」との見方を示すとともに、「現時点においてルーブル相場の安定に向けた追加的な方策は検討していない」とした。また、物価動向について「インフレ圧力は想定以上であり、財政出動が押し上げ要因になっている」ものの、「来春にはインフレ率はピークアウトする」との見方を示す一方、「幾つかの経済指標について『データルーム』の設置を通じて『機密扱い』とすることを検討している」と述べるなど、昨年のウクライナ侵攻直後に貿易統計や国際収支統計、外貨準備高の公表を取り止めたのと同様の動きに出る可能性を示唆している。上述のように原油価格は底入れの動きを強めているものの、足下の外貨準備高は減少するなど戦争状態の長期化や戦費拡大が足かせとなっていることは間違いないと捉えられる。当面のインフレ率は昨年の同時期に頭打ちした反動で加速しやすい環境にある上、景気の堅調さも相俟って幅広くインフレ圧力が強まる動きがみられるなか、中銀は一段の金融引き締めを迫られる可能性はくすぶる。他方、経済指標を機密扱いすることにより同国経済の『ブラックボックス化』が進めば同国に対する不信感が一段と高まり、結果的に中国経済との『一体性』が加速することも予想される。その意味では、同国経済は様々な観点から岐路に立たされていることとは間違いない。

図1 ロシア産原油価格の推移
図1 ロシア産原油価格の推移

図2 ルーブル相場(対ドル、人民元)の推移
図2 ルーブル相場(対ドル、人民元)の推移

図3 インフレ率の推移
図3 インフレ率の推移

図4 対外準備資産の推移
図4 対外準備資産の推移

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ