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2023.07.24
新興国経済
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ロシア中銀、戦争中にも拘らずインフレを警戒して大幅利上げを決断
~機能するテクノクラートが唯一の救いか、一方でウクライナ情勢は一段の長期化も念頭に置く必要~
西濵 徹
- 要旨
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ロシア経済は同国のウクライナ侵攻を受けた欧米などの制裁強化により深刻な景気悪化に直面した。その後は中国などが制裁の「抜け穴」となるなかで景気は底入れしているが、実質GDPが侵攻前の水準に回復するにはまだ1年近く掛かると見込まれる。一方、昨年大きく上振れしたインフレ率はその反動により低下しているが、インフレ鈍化や政府のバラ撒き政策が内需を下支えする一方、労働力不足やルーブル安がインフレ圧力を招く動きが顕在化している。こうしたなか、中銀は21日の定例会合で利上げ実施を決定し、戦争中にも拘らず金融引き締めに舵を切るとともに、追加利上げに含みを持たせるなどタカ派姿勢を示した。テクノクラートが機能していることは同国経済にとって唯一の救いである一方、ウクライナ情勢は見通しが立たない状況が続いており、事態が一段と長期化する可能性を念頭に置く必要性は高まっている。
ロシア経済を巡っては、同国によるウクライナ侵攻を理由に欧米などが経済制裁に動くとともに、その後も事態悪化を受けて制裁が強化されたことで深刻な悪影響が出ると予想された。事実、ロシアの一部銀行をSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除するとともに、欧米などの経済制裁強化を受けて主要国との貿易取引が縮小したほか、外資系企業が相次いで同国事業から撤退したことなども重なり、直後の同国景気は大幅なマイナス成長に陥った。さらに、通貨ルーブル相場を巡る混乱や経済制裁に伴う物資不足も重なりインフレ率が大きく上振れするなど、幅広く国民生活に悪影響が出る事態に発展した。しかし、その後は軍事費増大や様々なバラ撒き政策の動きが景気を下支えするとともに、欧米などの経済制裁強化にも拘らず世界的なエネルギー需要の堅調さを追い風に輸出は底堅く推移する一方、輸入の減少が景気下振れを喰い止めることに繋がった(注1)。また、中国やインドをはじめとする新興国がロシア産原油の輸入を拡大させたことで輸出が下支えされる一方、中国やトルコ、中央アジア、モルディブなどからの迂回輸入や並行輸入を拡大させるなど経済制裁の『抜け穴』となる動きも顕在化している。結果、昨年半ば以降は緩やかながらプラス成長で推移するなど、ウクライナ情勢の悪化を理由に大きく下振れした景気は一転底入れしており、こうした状況を勘案すれば景気を巡る最悪期は過ぎつつあると捉えることが出来る。ただし、足下の景気底入れの動きは緩慢なものに留まっており、先行きもこのペースでの景気底入れの動きが続いたと仮定した場合、実質GDPがウクライナ侵攻前の水準を回復するのは来年4-6月と試算される。よって、同国経済は欧米などの経済制裁強化にも拘らず、当初想定されたほどに下振れしなかったものの、その影響は長期に及んでいると捉えられる。他方、昨年上旬はルーブル相場の急落による輸入インフレに加え、商品市況の高騰を受けた生活必需品を中心とする物価上昇、欧米などからの輸入減少に伴う物資不足なども重なりインフレ率は一時20%近くまで加速したものの、その後は一転して頭打ちの動きを強めている。足下のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標(4%)を下回る推移が続いており、この動きだけをみればインフレは鎮静化していると捉えられる。しかし、この動きは昨年大きく加速した反動に拠るところが大きい。事実、足下では食料品やエネルギーなどの物価は落ち着きを取り戻す一方、戦争状態が長期化するなかで国民の間に膨らむ不満を抑えるべく政府は様々な給付金を実施するバラ撒き政策に動いたことに加え、インフレ鈍化に伴う実質購買力の押し上げの動きが家計消費を活発化させている。さらに、労働力不足の深刻化を受けて賃金上昇を通じたインフレ圧力に繋がる兆候も強まっている。そして、中国との経済関係が深化する背後で通貨ルーブル相場は人民元との連動性を高めているほか、そのことがルーブル安を通じた輸入インフレを招くなど新たな懸念要因となる動きもみられる(注2)。よって、中銀はインフレ鈍化にも拘らず慎重な政策運営を維持する姿勢をみせてきたなか、21日に開催した定例会合では主要政策金利を100bp引き上げて8.50%とする決定を行うなど、戦争中にも拘らず1年強ぶりとなる金融引き締めに動いた。会合後に公表した声明文では、足下の状況について「需要拡大の動きが労働力の制約などに伴う生産能力を上回っている」とした上で、「ルーブル安もインフレ促進リスクを著しく増幅させている」との認識を示している。また、年末時点におけるインフレ見通しを上方修正するとともに、次回会合における追加利上げの可能性を残しているとの説明を行うなど、タカ派姿勢を強めている様子がうかがえる。同国の財政運営を巡っては、軍事費増大が圧迫要因となるなかでソブリン・ウェルス・ファンドである国民福祉基金を取り崩して対応するなどの対応みられるが、金融政策についても慎重な対応が続いている様子がうかがえる。その意味では、テクノクラートがきちんと機能していることが同国経済にとっての唯一の救いと捉えることが出来る一方、ウクライナ情勢を巡っては依然見通しの立たない状況にある上、黒海の穀物回廊を巡る動きもきな臭さを増すなかで事態が一段と長期化することを念頭に、対応策を考える必要性は高いと判断出来る。



注1 2月24日付レポート「ロシア経済が当初の想定に比べて下振れしなかったのは何故か?」
注2 4月21日付レポート「ロシア経済は中国との結び付きを強めるなかで新たな問題も顕在化」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

