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2023.10.05
アジア経済
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トルコ、「シン・経済チーム」の奮闘もリラ相場が一向に改善しないのは
~評価は着実に改善も投資妙味は乏しく、国民も資金逃避、エルドアン氏による逆ギレにも警戒~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコでは5月の大統領選を経て、財務相にシムシェキ氏、中銀総裁にエルカン氏が就任し、金融市場の信認向上に向けた取り組みが進められている。この動きを受けて、主要格付機関が相次いで格付見通しを引き上げるなど評価は向上している。しかし、足下のリラ相場は最安値を更新するなど弱含む展開が続き、米ドル高の再燃に加え、大幅利上げにも拘らず実質金利は大幅マイナスが続くなど投資妙味の低さも影響している。商品高の再燃も影響して足下のインフレは再加速しており、先行きの景気に下押し圧力が掛かることも懸念される。同国では来年3月に統一地方選が予定されるなか、エルドアン氏が景気減速を甘受するとは見通しにくく、政局の不透明感が再燃するリスクはくすぶる。同国経済の命運は当局の辛抱強さに掛かっているとみられるものの、現時点においては非常に見通しの立ちにくい状況にあると捉えることが出来る。
トルコでは、5月の大統領選後の内閣改造を経て、財務相にシムシェキ氏、中銀総裁にエルカン氏が就任するなど、長年に亘る経済学の定石では考えられない政策運営により失墜した国際金融市場からの信認回復を目指す人事配置がなされた(注1)。その後、中銀は物価と為替の安定を目的に大幅利上げに舵を切る決定を行っているほか、政府も保護預金制度(リラ建定期預金を対象に、リラ相場が想定利回りを上回る水準に調整した場合に当該損失をすべて政府が補填する制度)の解除を進めており、一転して『正統的』な政策運営に大きく舵を切る動きをみせている。国際金融市場はエルドアン大統領の『本心』を図りあぐねる展開が続いているものの、先月初めに財政政策の中期計画公表に際しては、緊縮的な金融政策によりインフレ率を一けた台に抑えると述べて従来の考え(高金利が高インフレを招く)から180度転換する姿勢をみせるとともに、保護預金制度の解除も後押しする考えをみせるなど『変心』をうかがわせる動きをみせている(注2)。こうした動きも追い風に、中銀は先月の定例会合でも4会合連続の利上げ実施を決定し、累計で2150bpもの大幅利上げに動くとともに、先行きの政策運営を巡ってもさらなる利上げ実施の用意がある考えをみせるなど、その『本気度』の高さを示している(注3)。このように金融、財政の両面で大幅な政策転換が図られるとの期待が高まるなか、先月初めに米英系格付機関のフィッチ・レーティングスが格付見通しを「ネガティブ」から「安定的」に引き上げており(格付はBで維持)、その理由に「経済政策の転換に伴い短期的なマクロ金融を巡る不安定性が後退している」ことを挙げている。また、先月末には米系格付機関のS&Pグローバルも格付け見通しを「ネガティブ」から「安定的」に引き上げ(格付はBで維持)、その理由に「金融と財政の安定性を損なうことなく、過熱した経済を落ち着かせつつ為替安定を図る施策を展開している」と評価した上で、先行きについて「政局を巡る不透明感が再燃しなければ、2026年までに対外債務に依存した体質からよりバランスの取れた対外収支、財政収支、インフレへのリバランスが可能になる」との見方を示している。このように、エルドアン氏が目論んだ失墜した国際金融市場からの評価向上という所期の目的は着実に進展していると捉えられるものの、足下のリラ相場を巡っては依然として上値の重い展開をみせるとともに、最安値を更新するなど一向に好転しない状況が続いている。この背景には、足下で米国の長期金利が高止まりするなかで米国の実質金利(政策金利-インフレ率)のプラス幅が拡大する展開が続くなど投資妙味が向上して米ドル高圧力が強まる一方、トルコについては中銀による大幅利上げにも拘らず実質金利は大幅マイナスが続くなど投資妙味が極めて低いことがある。さらに、保護預金制度の廃止の動きも相俟って足下では外貨預金が拡大するなどリラに対する実需が低下していることもリラ相場の足かせになっている可能性が考えられる。また、リラ安に歯止めが掛からないなかで輸入インフレ圧力が掛かりやすい状況が続いている上、足下では主要産油国による自主減産延長のほか、異常気象の頻発に伴う生産低迷を受けた農産品の禁輸、輸出制限の動きが広がるなかで商品市況は底入れの動きを強めており、こうした状況を反映してインフレ率は再び加速するなど鎮静化の目途が立たない状況に直面している。この背景には、大統領選を前に政府が最低賃金の大幅引き上げや年金受給年齢の引き下げなどに動いたことも影響しており、コアインフレ率はインフレ率を上回る伸びで推移して昨年のピーク近傍に達する事態となっている。他方、足下の同国経済を巡っては、大地震からの復興進展の動きも追い風に景気は底入れの動きをみせるも(注4)、先行きについては国内・外双方に不透明要因が山積しているほか、企業マインドも好不況の分かれ目となる水準を下回る推移が続いており、先行きはインフレ再燃による悪影響が景気の重石となることも予想される。同国では来年3月に統一地方選挙が予定されており、政権を支える与党AKP(公正発展党)は2019年に実施された前回の統一地方選において野党が軒並み勝利した大都市部の市長の奪還を目指していることを勘案すれば、エルドアン氏が景気減速を甘受するとは見通しにくい。そうなれば、上述したS&Pグローバルが格付見通しの引き上げ決定の前提とした『政局を巡る不透明感』が高まることで政策運営に対する不透明感が一転して高まることも予想される。足下のリラ相場が上値の重い展開をみせている背景も、こうした見方が影響していると考えられるなか、同国経済の命運は当局の辛抱強さがどれだけ続くかに掛かっているが、現状においては極めて見通しが立ちにくい状況にあると判断出来る。
注1 6月12日付レポート「トルコリラは新たな財務相と中銀総裁の下で輝きを取り戻せるか」
注2 9月7日付レポート「エルドアン大統領の「変心」は本物か、リラ相場はどうなる?」
注3 9月22日付レポート「トルコの金融政策をみてあらためて思う「信用の大切さ」」
注4 9月1日付レポート「トルコ景気に国内・外双方で不透明要因山積、リラ相場の行方は」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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