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2023.06.12
アジア経済
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トルコリラは新たな財務相と中銀総裁の下で輝きを取り戻せるか
~大幅利上げに動く可能性も、その後に人事面で軋轢が生じる懸念、リラ相場の行方は極めて不透明~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコでは先月の大統領選において現職のエルドアン氏が再選を果たし、政権は新たな5年を歩み始めている。過去20年に亘るエルドアン政権の下では、インフレにも拘らず利下げが実施される異端な経済政策が採られ、2019年以降に中銀総裁が3人更迭されるなど、中銀の信認低下が通貨リラ安を招いてきた。こうしたなか、エルドアン大統領は財務相に金融市場からの信認が厚いシムシェキ氏を、中銀総裁に米銀行の元共同CEOであったエルカン氏を任命するなど「正統的」な政策への転換を目指す兆しもみられる。金融市場には政策転換を期待する向きもあるが、仮に大幅利上げに動けば景気に悪影響が出ることは必至である。政権は来年3月の統一地方選挙を意識した政策運営に動く可能性もあり、人事面で軋轢が生じることも懸念される。経済のファンダメンタルズの脆弱さも重なり、リラ相場が輝きを取り戻すことは容易でない。
トルコでは、先月に実施された大統領選を経て現職のエルドアン氏が再選を果たした(注1)。この結果を受けて、2003年に当時の議院内閣制に基づく首相に就任し、2014年に大統領に転じた後に2017年の憲法改正を経て実権型大統領に移行したことで、過去20年に亘る長期政権を築いてきたエルドアン政権は新たな5年を歩み出している。他方、長期に亘るエルドアン政権の下では与党AKP(公正発展党)及び政府内にはエルドアン氏の『イエスマン』のみが残る格好となり、幅広い政策運営を巡ってエルドアン氏の意向が色濃く反映される展開が続いてきた。こうした動きを反映して、エルドアン氏が目指す『新オスマン主義』を内政、外交政策のみならず、経済政策にも援用して不労所得を禁じることを目的に高金利政策からの脱却が図られた。そうしたレトリックを元にエルドアン氏は『金利の敵』を自任するとともに、高インフレにも拘らず低金利政策を志向するという経済学の定石では考えられない政策運営が志向されてきた。結果、2019年以降に中銀総裁は金融政策の方向性の違いを理由に3代連続で更迭されたほか(チェティンカヤ氏、ウイサル氏、アーバル氏)、2021年に総裁に就任したカブジュオール氏の下ではインフレ昂進にも拘らず相次いで利下げが実施されたほか、副総裁や政策委員も更迭されるなど独立性が危ぶまれる動きが顕在化した。こうした中銀に対する信認低下も影響してここ数年で通貨リラの価値は大きく下落して輸入インフレ圧力を招くとともに、商品高も重なりインフレ率は昨年10月に+85.5%と大幅に加速する事態に見舞われた。しかし、インフレ率は昨年10月をピークに頭打ちに転じており、こうした動きを好感して中銀は断続利下げに舵を切る動きをみせたものの、足下のインフレ率は依然として中銀目標(5%)を大きく上回る推移が続くなどインフレ収束にほど遠い状況にある。他方、今年2月に同国南部で発生した大地震では甚大な被害が発生するとともに、足下では復興需要の動きを反映して財政収支や経常収支の赤字幅は拡大するなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は脆弱さを増す事態に直面している(注2)。金融市場においては、エルドアン氏が再選を果たしたことで中銀が一段の金融緩和を迫られるとの観測からリラ相場が調整の動きを強める一方、以前に財務相や経済担当副首相を務めるなど金融市場からの信認が厚いシムシェキ氏が財務相に就任するなど、金融市場が抱く懸念の払しょくに努める動きをみせている(注3)。さらに、エルドアン大統領は9日に米国のファースト・リパブリック・バンクの元共同CEO(最高経営責任者)を務めたハフィゼ・ガイ・エルカン氏を任命することを明らかにしており、同氏は米国で大学院(プリンストン大学、ハーバード・ビジネス・スクールとスタンフォード大学経営大学院)を卒業するとともに、その後はゴールドマン・サックス社でマネージングディレクターを務めた経歴を持つ。エルカン氏自身は米国の金融業界での経歴は豊富な一方で金融政策に携わった経験はなく、その政策方針については不透明ではあるものの、金融市場においては金融政策が『正統的』な方向に方針転換が図られるとの期待が高まっている。そうした方針の大転換が図られる可能性はある一方、仮に大幅利上げが実施されれば景気の足かせとなることは避けられない上、大地震からの復興の足を引っ張る可能性も考えられる。同国では来年3月に統一地方選挙の実施が予定されているが、2019年に行われた前回の統一地方選挙では最大都市イスタンブール、首都アンカラ、第3の都市イズミールの市長選でいずれも最大野党CHP(共和人民党)の候補が勝利し、なかでもイスタンブール市長は1993年にエルドアン氏が就任して以降AKPの独擅場となってきたものの、CHPにその座を明け渡すこととなるなど政権及び与党にとって厳しい結果となった。来年の統一地方選に向けては、政権及び与党は景気下支えを重視する可能性も予想されるなか、仮に新たな財務相と中銀総裁の下で一旦は正統的な金融政策に舵が切られるとしても、その後はエルドアン大統領の意向を受ける形で人事的な圧力が強まり、更迭される懸念もくすぶる。経済のファンダメンタルズも脆弱な構造を抱えるなか、リラ相場が輝きを取り戻すことは決して容易ではないと捉えられる。


注1 5月29日付レポート「トルコ大統領選、エルドアン氏が決選投票を制して幕を下ろす」
注2 6月1日付レポート「大地震もトルコはプラス成長を維持、市場は新内閣の行方に注目」
注3 6月5日付レポート「トルコ、新政権は市場に一定の配慮もリラ相場に明るい材料は乏しい」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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