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2023.07.04
アジア経済
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豪中銀は3会合ぶりに利上げ休止決定も、再々利上げに含みをみせる
~利上げ余地が限られるなか、豪ドルの対米ドル相場は上値の重い展開となることが見込まれる~
西濵 徹
- 要旨
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足下の豪州では物価高と金利高の共存に加え、商品市況の調整も重なり景気は頭打ちの様相を強める懸念が高まっている。他方、需給ひっ迫による不動産市況の底入れや労働需給のひっ迫が賃金インフレを招くなか、インフレ率は昨年末を境に頭打ちに転じるも、依然高止まりしている。中銀は4月に1年に及んだ利上げ局面を休止したが、5月以降2回連続で利上げするなど物価抑制に苦慮する状況が続く。4日の定例会合では3会合ぶりに金利を据え置き、利上げ局面の再休止に動いたが、インフレリスクを警戒して再々利上げに動く可能性に含みを持たせている。ただし、インフレリスク同様に景気に対するリスクも山積するなか、追加利上げ余地は限られると見込まれ、当面の豪ドルの対米ドル相場は上値が抑えられやすい一方、金融政策の方向性の違いを勘案すれば日本円に対しては下値が支えられる展開が続くと見込まれる。
豪州では、感染一服による経済活動の正常化や国境再開に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復も追い風に、コロナ禍で疲弊した経済の底入れが内・外需双方で進む展開が続いてきた。他方、昨年以降は商品高による生活必需品を中心とする物価上昇、国際金融市場における米ドル高を受けた豪ドル安による輸入インフレ、景気回復による賃金インフレが重なり、インフレ率は大きく上振れした。同国においてはコロナ禍対応を目的に中銀が異例の金融緩和に舵を切ったものの、その後の景気回復やコロナ禍を受けた生活様式の変化を受けて不動産市況が急騰するなどバブルが顕在化したほか、インフレも昂進したため、昨年5月以降は一転利上げに動くとともに、その後は物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされた。中銀の断続利上げにより不動産市況は昨年4月を境に調整局面に転じたことに加え、昨年末以降は商品高の動きに一服感が出るとともに、米ドル高も一巡して豪ドル相場も底入れに転じるなどインフレ圧力の後退に繋がることが期待された。さらに、物価高と金利高の共存状態が長期化するなかで景気に冷や水を浴びせる懸念が高まったため、中銀は今年4月に1年に及んだ利上げ局面の休止に舵を切った(注1)。しかし、その後も堅調な雇用環境を追い風にインフレ圧力がくすぶる状況が続いている上、調整局面に転じた不動産市況は国境再開による需要拡大が進む一方で大幅利上げによる供給不足を理由に今年3月に上昇に転じており、新たなインフレ要因となる懸念が高まった。よって、中銀は5月の定例会合で2会合ぶりの利上げに動いたほか(注2)、その後も不動産市況は底入れの動きを強めている上、労使裁定機関のFWC(フェア・ワーク・コミッション)が今月始まる新年度の最低賃金を5.75%引き上げる決定を行うなど賃金インフレ圧力が強まる懸念が強まったため、先月の定例会合においても2会合連続の利上げを決定した(注3)。なお、足下の景気は引き続きプラス成長で推移するなど底入れの動きが続いているものの、物価高と金利高の共存状態が長期化するなかで頭打ちの様相を強めているほか(注4)、世界経済の減速懸念による商品市況の調整の動きを反映して交易条件指数は大きく下振れするなど、国民所得への下押し圧力が強まる懸念が高まっている。一方、直近5月のインフレ率は前年比+5.6%と13ヶ月、コアインフレ率も同+6.1%と11ヶ月ぶりの水準に鈍化しており、一見インフレ圧力が後退している様子がうかがえるものの、物価変動の大きい生鮮食料品とエネルギー、旅行を除いたインフレ率は同+6.4%と依然高止まりするなどインフレ鎮静化にはほど遠い状況にあると判断出来る(注5)。中銀の政策判断に注目が集まるなか、4日の定例会合では3会合ぶりに政策金利(オフィシャル・キャッシュ・レート)を4.10%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「昨年来の利上げの影響と経済見通しを評価するため」とした上で、足下の物価動向について「ピークを過ぎたものの依然高過ぎる上、こうした状況がしばらく続く」との見方を示しつつ「優先事項は妥当な期間内にインフレ率を目標に戻すことにある」として早期のインフレ抑制を目指す考えを示している。その上で、実体経済について「成長が鈍化し、労働需給も緩和しているが依然として非常にタイトな状況にある」として、「労働需給のひっ迫と物価高に伴い賃金の上昇圧力が強まっている」との認識を示しつつ、「インフレ期待が物価と賃金のより大幅な上昇に寄与するリスクに引き続き注意を払う」との考えを示した。そして、政策運営について「インフレが目標に収束するに伴い景気は底入れすると見込まれるが、その実現への道筋は狭い」との認識を示しつつ「家計消費の見通しは最も不確実性が高い」とした上で、「妥当な期間内にインフレ率を目標に確実に戻すには幾分追加的な引き締めが必要になるかもしれない」としつつ「その行方は景気と物価動向に掛かっている」との見方を示している。さらに、「世界経済や家計消費の動向、物価と労働市場の行方を注視しつつ、インフレを目標に戻す断固とした決意は変わらず、その実現に向けて必要なことを行う」とするなど、再利上げに含みを持たせた格好である。なお、今回の声明文は利上げ休止を決定した今年4月のものとトーンが似ていること、上述のようにインフレ要因が山積するなかでは同行が再々利上げに動く可能性は充分にあると捉えられる。ただし、インフレ要因同様に景気の不透明要因も山積するなかでは追加利上げ余地は極めて限定的なものに留まることは避けられず、当面の豪ドルの対米ドル相場については上値が抑えられやすい一方、日本円に対しては金融政策の方向性の違いが下値を支える展開が続くと予想される。




注1 4月4日付レポート「豪中銀、過去1年に亘る利上げ局面休止を決定も、再利上げも排除せず」
注2 5月2日付レポート「豪州準備銀、インフレ期待の鎮静化に向けて2会合ぶりの再利上げに舵」
注3 6月6日付レポート「豪準備銀の政策運営を迷わせる最低賃金大幅引き上げ策」
注4 6月7日付レポート「豪州経済はいよいよスタグフレーションに突き進みつつある」
注5 6月28日付レポート「オーストラリア、インフレ鈍化を確認も「インフレ鎮静化」と判断するのは些か早計」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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