インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

豪中銀、過去1年に亘る利上げ局面休止を決定も、再利上げも排除せず

~米ドル高一服で豪ドル相場は底打ちも、当面は上下ともに方向感の乏しい展開が続くであろう~

西濵 徹

要旨
  • 豪州経済はコロナ禍の克服が進む一方、商品高や景気回復、豪ドル安による輸入インフレが物価上昇を招き、不動産市況が高騰してきた。よって、中銀は昨年以降、物価・為替の安定を目的に断続的な利上げ実施に動いた。ただし、足下では物価高と金利高が共存する上、不動産市況は頭打ちの動きを強めるなど景気に冷や水を浴びせる懸念が高まる。他方、足下のインフレ率は依然として中銀目標を大きく上回る推移が続く。
  • こうした状況ながら、中銀は4日の定例会合で政策金利を据え置き、1年に亘った利上げ局面の休止を決定した。今回の決定はこれまでの利上げの効果検証のためとする一方、先行きの政策運営に当たっては物価と賃金の連鎖的上昇を警戒する姿勢を強めている。その上で、インフレを目標域に戻すべく再利上げに動く可能性に含みを持たせるなど、今回の決定が「休止」であることを強調した。他方、米ドル高一服など足下の豪ドル相場は底打ちしているが、景気の不透明感を勘案すれば当面は方向感の乏しい展開が続くであろう。

足下の豪州経済については、感染収束による経済活動の正常化に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復も追い風に、内・外需双方で景気の底入れが進んでおり、コロナ禍の影響を完全に克服していると捉えられる。他方、昨年来の商品高による生活必需品を中心とするインフレのほか、景気回復による雇用改善の動きに加え、国際金融市場での米ドル高を受けた豪ドル安は輸入インフレを招いており、インフレ率、コアインフレ率ともに中銀(豪州準備銀行)の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続いている。さらに、中銀はコロナ禍対応を目的に利下げや量的緩和に加え、YCC(イールド・カーブ・コントロール)を導入するなど異例の金融緩和を実施したものの、コロナ禍を受けた生活様式の変化や景気回復の動きも追い風に、その後の不動産市況は急騰してバブル化する懸念も高まった。よって、中銀は一昨年以降に段階的に金融政策の正常化の動くとともに、昨年5月には約11年半ぶりの利上げに舵を切ったほか、その後も物価と為替の安定を目的に断続的な利上げ実施を余儀なくされてきた。結果、足下においては物価高と金利高の共存が実質購買力を下押しするとともに、金利負担の上昇が家計消費や住宅需要の足かせとなることが懸念される状況に直面している。また、金利上昇が不動産需要の足かせとなるなかで急騰した市況は一転して頭打ちの動きを強めるなど逆資産効果となることが懸念されるほか、資産の約3分の2を住宅ローンが占める銀行セクターの貸出態度の悪化が幅広い経済活動の重石となる懸念も高まっている。なお、直近2月のインフレ率は前年比+6.8%、コアインフレ率も同+6.9%とともに昨年12月をピークに頭打ちに転じる動きが確認されているものの、依然としてともに中銀目標(2~3%)を大きく上回る推移が続いている。さらに、足下においては引き続き食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレ圧力がくすぶるとともに、引き続き大都市部を中心に雇用改善の動きが広がっていることを反映してサービス物価に押し上げ圧力が掛かっている上、国際金融市場における豪ドル安基調が続いていることを反映して輸入インフレ圧力もくすぶるなど、全体としてインフレ鎮静化にはほど遠い状況が続いている。

図表1
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こうした状況ではあるものの、中銀は4日の定例会合において政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レート(OCR)を3.60%に据え置く決定を行った。上述のように同行は昨年5年に約11年ぶりの利上げに舵を切って以降、その後は断続的な利上げに動いてきたものの、利上げ局面が丸1年で終了した格好である。なお、同行は先月の前回会合において利上げ局面の休止を示唆する姿勢を示しており(注1)、上述のように足下のインフレ率が頭打ちの動きを強めていることがそうした判断を後押ししたと考えられる。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「昨年5月以降の累計350bpもの利上げによる政策効果の発現にはタイムラグがあるなか、これまでの利上げとそれによる実体経済への影響を検証する時間確保のため」との考えを示している。他方、足下の国際金融市場においては、米国での銀行破たんをきっかけに不透明感が高まる動きがみられるなか、同国金融セクターについて「システムは強固で資本は充分であり、経済が必要とする信用供与を充分行うことは可能」との見方を示している。また、足下で高止まりが続く物価動向について「ピークに達したと示唆される」との認識を示した上で、先行きについて「世界経済の動向や国内の需要動向を反映して緩やかな鈍化が見込まれる」としつつ、「家賃や光熱費の上昇が続いており、再来年半ばにかけて3%程度に収束すると予想される」との見方を示している。また、同国経済については「金利上昇や物価高、住宅価格の下落が重なる形で足下において頭打ちの動きが強まっている」とした上で、「今後数年間は潜在成長率を下回る水準で推移する」との見通しを示している。一方、雇用環境については「依然として非常にタイトな状況が続いている」としつつ「景気が頭打ちの動きを強めるとともに失業率は上昇が見込まれる」とする一方、賃金動向について「労働需給のひっ迫と物価上昇に伴い継続的な上昇が続いている」なかで「物価と賃金の連鎖的な上昇によるリスクを引き続き警戒している」として、前回会合においてはそのリスクは低いと評価していた状況から警戒感を強めている様子がうかがえる。先行きの政策運営については「優先事項はインフレ率を目標域に戻すこと」とした上で「経済の安定を維持しつつインフレ率を目標域に戻すことを目指すが、ソフトランディングの実現は依然として隘路である」との認識を改めて示しつつ、「目標実現を確実にするにはさらなる引き締めが必要となる可能性が充分になると予想する」と再利上げに含みを持たせる考えをみせている。ただし、その判断に当たっては「不確実性が高いなかで、そのタイミングや程度、利上げの有無の必要性を判断するに当たっては世界経済の動向や家計消費の動向、物価、雇用環境に細心の注意を払いつつ、インフレ率を目標域に戻すべく必要な対応を行う」とするなど、今回の決定が利上げ局面の『休止』であることを強調している。足下の国際金融市場においては、米ドル高に一服感が出ている上、主要産油国の枠組であるOPECプラスによる追加減産決定を受けた国際原油価格の上振れの動きも追い風に、豪ドル相場は底打ちする動きがみられる。しかし、中銀が利上げ局面の休止に動いたことに加え、国内外で景気に対する不透明感が高まっている状況を勘案すれば、当面は方向感に乏しい展開が続く可能性が高まっていると判断出来る。

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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