インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

豪準備銀の政策運営を迷わせる最低賃金大幅引き上げ策

~2会合連続の利上げに加えて追加利上げに含みも、実体経済に不透明要因も山積する困難に直面~

西濵 徹

要旨
  • 6日、豪州準備銀行は定例の金融政策委員会を開催し、政策金利を2会合連続で25bp引き上げて4.10%とする決定を行った。同行はインフレが頭打ちしたほか、利上げの累積効果による実体経済への悪影響を警戒して4月に利上げを休止させた。しかし、その後もインフレは高止まりしており、不動産市況が底打ちに転じたことで5月に再利上げに舵を切った。さらに、その後も需給ひっ迫を理由に不動産市況は底入れの動きを強めている上、インフレも高止まりしている。また、労使裁定機関が7月から最低賃金の大幅引き上げを実施する旨を公表して賃金インフレを招く可能性が高まっている。こうした事態を受けて、中銀はインフレ抑制を確実にすべく追加利上げに動くとともに、先行きの一段の利上げに含みを持たせる姿勢をみせている。他方、中国景気の息切れを受けて足下の商品市況は大きく調整しており、交易条件の悪化が実体経済の足を引っ張る懸念もくすぶる。今回の利上げ実施により豪ドルの対米ドル相場は押し上げられるが、実体経済を巡る不透明感を勘案すれば上値余地は限定的とみられる。他方、金融政策の方向性の違いから、豪ドルの対日本円相場については先行きについても底堅い展開が続く可能性は高いと予想される。

昨年来の豪州経済を巡っては、感染一服を受けた経済活動の正常化に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復を追い風に景気は底入れを果たしてきた。また、昨年来の商品高や国際金融市場における米ドル高を受けた通貨豪ドル安に伴う輸入インフレに加え、景気回復を受けた雇用環境の改善も追い風にインフレ率は大きく上振れした。中銀はコロナ禍対応を目的に、利下げや量的緩和、YCC(イールド・カーブ・コントロール)の導入など異例の金融緩和に動いたものの、コロナ禍を受けた生活様式の変化に伴い不動産市況が急騰したことに加え、上述のようなインフレ昂進の動きも影響して一昨年には一転して金融政策の正常化に舵を切った。さらに、昨年5月には約11年半ぶりの利上げ実施に動くとともに、その後も物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされるなど難しい対応を迫られた。結果、断続的な利上げ実施を受けて、急騰した不動産市況は昨年4月をピークに頭打ちに転じて調整の動きを強めたほか、昨年末にかけては国際金融市場における米ドル高の動きも一服するなど、輸入インフレの懸念も大きく後退している。同国の銀行セクターは住宅ローンに対する依存度が高く、家計部門が抱える債務比率も比較的高い上にその大宗を住宅ローンが占めるため、不動産市況の低迷は幅広い経済活動の足かせとなることが懸念される。また、昨年末にかけて昂進したインフレ率は年明け以降頭打ちに転じており、物価高と金利高の共存状態の長期化が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まったため、中銀は4月の定例会合において1年に及んだ利上げ局面の一時休止を決定するなど景気に配慮する姿勢をみせた(注1)。しかし、上述のように年明け以降にインフレ率は頭打ちに転じているものの、4月時点でも前年比+6.8%、コアインフレ率も同+6.8%とともに依然として中銀目標(2~3%)を大きく上回る推移が続いている。さらに、調整の動きが続いた不動産市況は国境再開に伴う移民流入を追い風に需要が旺盛に推移する一方で供給不足が顕在化しており、今年3月に1年ぶりに前月比で上昇に転じるとともに、3ヶ月連続で上昇してそのペースも加速するなど一転して底入れの動きを強めている。このように物価や不動産市況を巡る状況が再び変化していることを受けて、中銀は5月の定例会合で2会合ぶりの利上げ実施を決定するなど利上げ局面の再開に舵を切るなど難しい政策対応を迫られている(注2)。なお、同国経済は財輸出の約3割、コロナ禍前には外国人観光客の約2割を中国(含、香港・マカオ)が占めており、昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了を受けた経済活動の正常化の動きは景気の追い風となることが期待される。しかし、年明け直後こそ底入れが期待された中国経済は早くも息切れが意識されるなど景気の先行きに対する不透明感がくすぶる。そして、景気底入れの動きに歩を併せる形で改善してきた雇用環境に頭打ちの兆しがうかがえるなど、移民拡大に伴う労働力人口の拡大を受けて労働需給を取り巻く状況も変化する可能性も高まっている。他方、政府から独立した労使裁定機関であるFWC(フェア・ワーク・コミッション)は今月2日に昨年来の商品高による生活費高騰に対応して、7月から始まる新年度(2023-24年度)の最低賃金を5.75%引き上げるとともに、最低賃金の分類変更に伴い労働力全体の約0.7%に相当する最低賃金労働者が直面する賃上げ率は8.6%に上ることから新たな賃金インフレに繋がる可能性も予想される。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 新築住宅価格(前年比)の推移
図 2 新築住宅価格(前年比)の推移

図 3 雇用環境の推移
図 3 雇用環境の推移

こうしたなか、中銀は6日に開催した定例会合において2会合連続で政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レート(OCR)を25bp引き上げる決定を行い、これに伴いOCRは4.10%と約11年ぶりの水準となる。会合後に公表した声明文では、足下の物価動向について「ピークを過ぎたが依然として高過ぎる上、目標域への回帰には時間を要する」との見方を示した上で、「高インフレの定着はその後の抑制にコストを要する上、足下ではサービス物価を中心に上方リスクが高まっていることを示唆している」とし、今回の利上げ実施について「合理的な期間内に目標域に回帰する確信を深めるための措置」との考えを示した。一方、同国経済について「景気が鈍化するなかで労働需給は幾分緩みつつあるが、依然として厳しい状況が続いている」とした上で、「労働需給のひっ迫と高インフレを受けて賃金の伸びは上振れしている」として、先行きについても「経済の余力が限られるなかでインフレ期待が物価と賃金の上昇を促すリスクを注視する必要がある」との認識を示している。その上で、「ソフトランディングの道筋は依然狭い」としつつ「金利上昇と物価高の共存は家計消費の重石となるなか、住宅価格の再上昇に伴い余裕が生じている世帯もあるが、家計消費を巡る不確実性が高まっている」ほか、「世界経済も今後数年は平均以下の成長率に留まるなど不透明な状況が予想される」との見方を示した。そして、先行きの政策運営について「合理的な期間内にインフレ率が目標域に収束することを確実にするにはさらなる金融引き締めが必要になるかもしれない」と追加利上げに含みを持たせつつ、「景気と物価動向に加え、世界経済や家計消費、労働市場の動向を注視する」とした上で「インフレを目標域に戻す決意は変わらず、そのために必要な対応を取る」との考えを改めて強調している。中銀としては底打ちする不動産市況や最低賃金の大幅上昇による影響に留意しつつ、物価抑制を重視する考えを強調したと捉えられる。その一方、今月初めに発表された商品市況は中国景気の息切れ懸念も影響して大きく下振れしており、直近では前年比ベースで2割程度下回る水準となるなど、交易条件の悪化を通じて景気の足を引っ張る可能性もくすぶる。今回の中銀による追加利上げ決定に加え、さらなる利上げ実施を示唆する動きをみせたことで短期的に豪ドルの対米ドル相場を押し上げることが見込まれるものの、実体経済を巡る不透明要因が山積するなかでは上値余地が限られることは避けられないと見込まれる。他方、金融政策の方向性の違いを理由に豪ドルは日本円に対しては強含みする展開が予想されるであろう。

図 4 商品市況の推移
図 4 商品市況の推移

図 5 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
図 5 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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