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豪州準備銀、インフレ期待の鎮静化に向けて2会合ぶりの再利上げに舵

~市場の利上げ打ち止め期待に冷や水、追加利上げも示唆するなどタカ派姿勢は豪ドル相場を下支え~

西濵 徹

要旨
  • 2日、豪州準備銀行は2会合ぶりに政策金利を25bp引き上げ3.85%とする決定を行った。足下の同国経済はコロナ禍の影響を克服するも、物価高と金利高の共存状態が長期化して景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。中銀の断続利上げを受けてインフレは昨年末を境に頭打ちに転じているが、雇用環境の堅調さがコアインフレの高止まりを招いている。さらに、断続利上げに伴い調整した不動産価格は足下で底入れするなど変化の兆しも出ている。こうしたなか、中銀は4月に1年に亘った利上げ局面の休止に動いたものの、再利上げに舵を切った。先行きも追加利上げに含みを持たせており、先月公表された改革案が政府内の現執行部への不満を反映したとの見方もあるなかで先手を取った格好である。豪ドルの対米ドル相場は利上げ打ち止め期待を反映して頭打ちしてきたが、中銀のタカ派姿勢を受けて当面は下値が支えられるほか、日本円に対しては金融政策の方向性の違いを反映して底堅い展開が続くと予想される。

豪州経済を巡っては、感染収束を受けた経済活動の正常化に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復を追い風に景気は底入れしており、コロナ禍による景気減速の影響を克服する展開が続いてきた。さらに、昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了の動きは、財輸出の約3割、コロナ禍前には外国人観光客の約2割を中国(含、香港・マカオ)が占めるなど、外需に占める中国依存度が比較的高い同国経済の追い風となると期待される。他方、昨年来の商品高は食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招き、国際金融市場における米ドル高は通貨豪ドル安を通じて輸入インフレに繋がるなか、景気回復による雇用改善の動きは賃金上昇を通じてインフレ圧力を招く動きもみられる。中銀はコロナ禍対応を目的に、利下げや量的緩和に加え、YCC(イールド・カーブ・コントロール)を導入する異例の金融緩和に舵を切ったが、インフレの顕在化に加え、コロナ禍を受けた生活様式の変化を受けた不動産市況の急騰を受け、一昨年には金融政策の段階的正常化に動いたほか、昨年5月には約11年半ぶりとなる利上げ実施に動いた。さらに、その後もインフレ昂進を受けて中銀は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされてきた。急騰した不動産市況は中銀による断続利上げを受けて昨年4月をピークに頭打ちに転じており、その後の利上げにより調整局面が続くなど、同国銀行セクターは住宅ローンへの依存度が高いなかで貸出態度に悪影響が出ることで幅広い経済活動の足かせとなることが懸念される状況にある。また、物価高と金利高の共存が長期化していることも景気に冷や水を浴びせる懸念が高まる中、昨年末にかけては約33年ぶりの高水準となったインフレ率は年明け以降に頭打ちに転じているほか、国際金融市場における米ドル高の動きも一服して豪ドル安圧力が後退していることも重なり、中銀は先月の定例会合において1年に及んだ利上げ局面の休止を決定するなどタカ派姿勢を後退させている(注1)。そして、1-3月のインフレ率は前年比+6.0%、コアインフレ率も同+6.6%とともに伸びが鈍化しており、依然として中銀目標(2~3%)を大きく上回る推移が続いているものの、インフレが頭打ちに転じる動きが確認されている。ただし、3月単月のインフレ率は前年比+6.3%と昨年12月をピークに頭打ちの動きを強めているものの、コアインフレ率(除、物価変動の大きい財)は同+6.9%と前月から横這いで推移するとともにインフレ率を上回る伸びが続いており、鎮静化の見通しが立たない状況が続いている。さらに、中銀による断続利上げを受けて頭打ちの動きを強めてきた不動産市況だが、今年3月には1年ぶりに前月比で上昇に転じるとともに、4月も2ヶ月連続で上昇するなど底入れの兆しが出ている(注2)。こうしたなか、中銀は2日に開催した定例会合において政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レート(OCR)を2会合ぶりに25bp引き上げて3.85%とするなど、利上げ局面の再開に舵を切る動きをみせている。会合後に公表した声明文では、足下の物価動向について「ピークを過ぎたが依然として高過ぎる上、目標域に収束するには一定の時間を要する」との見方を示した上で、「さらなる利上げが正当化される」との考えを示した。その上で、インフレ見通しについて「目標域への収束に2~3年(a couple of years)掛かるとの見通しは変わっていない」とした上で、労働市場について「非常にタイトな状況が続いている」として「賃金の伸びが回復するなかで高インフレが続くとの期待が物価と賃金の連鎖的な上昇を招くリスクを警戒している」との見方を示す。よって、政策運営に当たっては「インフレを目標域に収束させることを優先している」とした上で、「インフレ期待が定着すれば抑えるのに非常にコストを要する上、金利上昇により失業率が急上昇することが懸念される」として「今回の利上げは理に適う」との見解を示している。なお、「ソフトランディングへの道筋は依然狭い」としつつ、「経済が潜在成長率を下回るペースでの拡大を続けることで失業率は上昇が見込まれる」ほか「家計消費には大きな不確実性がある上、世界経済にも不透明感がくすぶる」ものの、先行きの政策運営について「一段の金融引き締め(some further tightening)が必要になるかもしれない」と追加利上げに含みを持たせている。ただし、その決定に当たっては「経済と物価動向が左右する」とした上で、「世界経済や家計消費、物価、労働市場の見通しを注視する」としつつ「インフレを目標域に戻す決意は変わらず、そのために必要な対応を取る」と強調した。中銀が改めて『タカ派』姿勢を強調した背景には、先月公表された同行の改革案において、理事会を専門家による『専門家理事会』への衣替えによる専門性向上に加え、市場との対話を巡って議論の過程や政策決定全体の透明性向上を求める内容が示されたことも影響している(注3)。というのも、政府内には昨年来のインフレ昂進に際してロウ総裁をはじめとする現執行部に対する不満が少なくないことを反映しているとの見方もあり、現執行部としてはインフレ期待の鎮静化に向けて一段の手を打つ必要に迫られたと判断出来る。他方、国際金融市場においては利上げ打ち止め期待を反映して豪ドルの対米ドル相場は上値の重い展開が続いてきたが、中銀がタカ派姿勢を改めて示したことで当面は下値が支えられる展開が予想されるほか、日本円に対しては金融政策の方向性の違いが改めて認識される形で底堅い展開が続くであろう。

図表1
図表1
図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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