インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

豪州経済はいよいよスタグフレーションに突き進みつつある

~中銀はタカ派姿勢を強めるもインフレ要因は山積、景気の不透明さが豪ドル相場を揺さぶる展開~

西濵 徹

要旨
  • 昨年来の豪州経済は、感染一服による経済活動の正常化や国境再開に加え、世界経済の回復も追い風にコロナ禍からの景気回復が促された。しかし、物価高と金利高の共存に加え、金利上昇に伴う不動産価格の低迷が家計消費など内需の足を引っ張る懸念が高まっている。他方、中国のゼロコロナ終了は景気の追い風になることが期待されるが、足下では息切れが示唆されるなど景気の足を引っ張る動きもみられる。
  • こうした状況を反映して1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+0.94%とプラス成長が続くも頭打ちの動きを強めている。中国景気の底入れの動きは外需を押し上げる一方、内需は公的需要が押し上げる動きがみられるほか、物価高と金利高が共存していることを受けて民間需要も財政支援に下支えされている。足下の景気は公的部門への依存度を強めるなど、その自律性や持続性が乏しくなっていると捉えられる。
  • インフレの高止まりを受けて中銀は4月に休止した利上げ局面を再開させたほか、追加利上げに含みを持たせるなどタカ派姿勢を強める。ただし、利上げによる供給減が需給ひっ迫を通じて住宅価格を押し上げており、7月には最低賃金が大幅に引き上げられるなどインフレ要因は山積する。一方、中国景気の息切れ懸念が商品市況を下押しして景気の足を引っ張るなど、スタグフレーションに陥る懸念も高まる。中銀の利上げ決定は豪ドルの対米ドル相場を押し上げるが、実体経済を勘案すれば息の長いものとはなりにくい。他方、金融政策の方向性の違いが影響して、豪ドルは日本円に対しては底堅い推移が続くと予想される。

昨年来の豪州経済を巡っては、感染一服による経済活動の正常化や国境再開に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復の動きも追い風に、内・外需双方でコロナ禍からの景気回復が促される展開が続いてきた。しかし、商品高に伴う生活必需品を中心とする物価上昇や、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨豪ドル安に伴う輸入インフレに加え、景気回復も追い風に幅広くインフレ圧力が強まる事態に直面した。また、中銀(豪州準備銀行)はコロナ禍からの景気回復を促すべく、利下げや量的緩和に加え、YCC(イールド・カーブ・コントロール)の導入など異例の金融緩和に舵を切ったものの、上述のようにインフレが顕在化するとともに、景気回復の動きやコロナ禍による生活様式の変化を受けた住宅需要の活発化を反映して不動産市況が急騰する事態を招いた。よって、中銀は一昨年から金融政策の正常化に動くとともに、昨年5月に約11年半ぶりの利上げに舵を切ったほか、その後は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅な利上げを余儀なくされた。こうした対応にも拘らず、インフレ率は昨年末を境に頭打ちに転じるも、依然として中銀目標を大きく上回る推移が続くなど物価高と金利高が共存して実質購買力を下押しするとともに、断続利上げを受けて急騰した不動産市況は一転頭打ちの動きを強めるなど逆資産効果が家計消費の足かせとなる懸念が高まった。さらに、同国の銀行セクターは資産の3分の2を住宅ローンが占めるため、不動産市況の低迷は貸出態度の悪化を通じて幅広い経済活動に悪影響を与えるほか、金利上昇も投資活動の重石となることが懸念される。他方、同国経済は財輸出の約3割、コロナ禍前には外国人観光客の約2割を中国(含、香港・マカオ)が占めるなど中国経済への依存度が高いため、昨年末以降の中国がゼロコロナの終了に舵を切るなど経済活動の正常化が進むことは景気の追い風になることが期待された。なお、中国景気は年明け直後こそ底入れの動きを強めたものの、足下においては早くも『息切れ』が示唆される動きが確認されており、足下の豪州経済を巡っては好悪双方の材料が混在するも、悪材料の方が勝る展開が続いていると捉えられる。

図表1
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こうした状況を反映して、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+0.94%と6四半期連続のプラス成長で推移しているものの、前期(同+2.33%)からペースは鈍化するとともに、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+2.3%と前期(同+2.6%)から伸びは鈍化するなど頭打ちの動きを強めている。欧米など主要国の景気は頭打ちの様相を強める一方、上述のように昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了の動きも追い風に財輸出は底入れの動きを強めているほか、外国人来訪者数も同様に底入れの動きを強めており、財・サービスの両面で輸出が押し上げられている。さらに、防衛費増額の影響やインフラ関連を中心とする公共投資の進捗も追い風に公的部門を中心に固定資本投資が押し上げられているほか、中銀の大幅利上げを受けて住宅需要に下押し圧力が掛かる動きがみられる一方、中国の景気底入れ期待を反映して企業部門の設備投資の動きに底打ち感が出ており、民間部門による固定資本投資も押し上げられている。また、物価高と金利高が共存しているものの、今年度予算にもりこまれた低所得者層を対象とする生活費軽減策のほか、失業手当や所得支援策の拡充を受けて家計消費は下支えされているほか、政府消費も押し上げられる展開が続いている。結果、内需の堅調さを反映して輸入は輸出を上回るペースで拡大しており、純輸出の成長率寄与度は前期比年率ベースで2四半期ぶりのマイナスに転じたことも成長率を下押ししている。ただし、足下の景気を巡っては公的需要への依存度を高めている上、民間需要も公的部門による下支え策に依存する傾向が強まる様子がうかがえるなど、その自律性や持続性が乏しくなっていると捉えられる。分野ごとの生産動向を巡っても、外需の堅調さを反映して製造業の生産が底打ちに転じているほか、公共投資の進捗を受けて建設業の生産にも底堅さがみられるものの、異常気象の頻発などが足かせとなる形で農林漁業や鉱業部門の生産に下押し圧力が掛かっているほか、不動産需要の低迷や金融取引の縮小などが足を引っ張る形でサービス業の生産活動にも調整圧力が掛かる動きもみられる。

図表2
図表2

図表3
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上述のように足下の景気は頭打ちの様相を強めているものの、国境再開による移民流入を追い風に住宅需要は堅調な推移をみせる一方、中銀による断続利上げによる累積効果の影響で住宅供給は先細りの様相を強めている。不動産価格は需給のひっ迫感が再び強まっていることを反映して今年3月を底に上昇に転じており、足下では上昇ペースを強める動きが確認されている。さらに、上述のように足下のインフレ率は中銀目標を大きく上回る推移が続くなか、労使裁定機関であるFWC(フェア・ワーク・コミッション)は昨年来の商品高に伴う生活費高騰に対応して、7月からの新年度(2023-24年度)の最低賃金を一律で5.75%引き上げるとともに、分類変更に伴い労働力全体の0.7%に相当する最低賃金労働者が直面する賃上げ率は8.6%に上るなど、新たな賃金インフレに繋がる可能性も高まっている。景気減速懸念の高まりを受け、中銀は今年4月に1年に及んだ利上げ局面の休止に動いたものの(注1)、その後もインフレが高止まりするなかで翌5月に再利上げに動いたほか(注2)、昨日(6日)も2会合連続の利上げを決定するとともに、さらなる利上げに含みを持たせるなど難しい対応を迫られている(注3)。ただし、最低賃金の大幅引き上げに伴い幅広く賃金上昇圧力が強まりインフレ率が押し上げられる可能性がある一方、一段の利上げによる住宅供給の減少が需給ひっ迫を招いて住宅価格を押し上げるなど新たなインフレ圧力に繋がることも懸念される。他方、足下では中国景気に息切れ感が出ていることを反映して商品価格に大きく下押し圧力が掛かる動きが確認されており、交易条件の悪化が国民所得を下押しすることが予想されるなか、先行きについては物価高と金利高の共存による悪影響が一段と深刻化することも考えられる。よって、先行きは景気に一段と下押し圧力が掛かる懸念が高まっているにも拘らず、物価高の長期化によりスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。国際金融市場においては中銀による利上げ決定やそのタカ派姿勢を反映して豪ドルの対米ドル相場が押し上げられているものの、実体経済を巡る不透明さを勘案すれば息の長い動きとなる可能性は低いと見込まれる。その一方、金融政策の方向性の違いを受けて豪ドルは日本円に対しては底堅い展開が続くであろう。

図表4
図表4

図表5
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以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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