インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコリラは「行くも地獄、戻るも地獄」の様相を呈する可能性

~決選投票でいずれの候補が勝利した場合も、リラ相場にとっての好材料は見出しにくいのが実情~

西濵 徹

要旨
  • トルコでは今週末(28日)に大統領選の決選投票が予定されるなど、選挙戦は佳境を迎えている。エルドアン氏が決選投票に持ち込まれたのは初めてだが、苦戦を強いられた背景にはインフレにより国民生活に深刻な悪影響が出ていることが挙げられる。昨年大きく上振れしたインフレ率は頭打ちに転じているが、依然としてインフレ収束にほど遠い状況が続いている。中銀は25日の定例会合で政策金利を据え置くなど様子見姿勢を維持したが、現状認識は実態と大きく乖離する状況が続く。一部報道では与党AKP内で経済政策の路線転換を模索する動きがみられる模様だが、エルドアン氏が再選した後にそうした動きが具現化するかは不透明である。他方、野党候補が勝利しても議会との「ねじれ」が政策運営の足かせとなるなど不透明要因は山積する。今後のリラ相場は「行くも地獄、戻るも地獄」の様相を呈する可能性が高まっている。

トルコでは、今週末(28日)に実施される大統領選(決選投票)に向けた選挙戦が佳境を迎えている。今月14日に実施された第1回投票では、現職のエルドアン氏が最多得票となるも単独で半数を上回る票を獲得することが出来ず、事実上の野党統一候補であるクルチダルオール氏との決選投票に持ち込まれた(注1)。決選投票に向けては、第1回投票で第3位に着けたオアン氏がエルドアン氏を支持する方針を決定する一方(注2)、反移民を掲げる一部政党がクルチダルオール氏を支持する方針を明らかにするなど、最終盤にかけて『綱引き』合戦の様相を呈している。他方、エルドアン氏が過去の大統領選と比較して苦戦を強いられた背景には、昨年来の商品高による生活必需品を中心とする物価上昇して昨年のインフレ率が一時80%を上回るなど、国民生活に深刻な悪影響が出ていることがある。さらに、インフレ昂進の背景には、ここ数年の国際金融市場における通貨リラ安に伴う輸入インフレも影響しており、なかでも『金利の敵』を自任するエルドアン氏の下で中銀はインフレにも拘らず利下げを余儀なくされるといった経済学の定石では考えられない政策運営を迫られ、結果的にリラ安に歯止めが掛からない状況が続いていることも影響している。なお、足下のインフレ率は商品高の動きが一巡するとともに、世界経済の減速懸念を受けた調整を受けて頭打ちしているものの、直近4月時点においても前年比+43.68%と中銀目標(5%)を遥かに上回る推移が続いている。昨年来の全世界的なインフレに際しては多くの中銀が物価抑制を目的に、断続的、且つ大幅な利上げ実施を余儀なくされたものの、トルコ中銀は昨年8月から4会合連続で利下げを実施するなど『逆走状態』による暴走を続けた(注3)。さらに、今年2月に同国南東部のシリア国境付近で大地震が発生したことを受けて、中銀はその復興支援を目的に追加利下げに動く一方(注4)、その後は政策金利を据え置いて様子見を図る姿勢をみせており、25日の定例会合でも政策金利である1週間物レポ金利を8.50%に据え置いている。会合後に公表した声明文では、同国経済について「大地震前は内需の力強さを示唆する動きが確認されたが、足下では想定以上に早く経済活動の回復が進んでおり、大地震の影響は短期的なものに留まる」との見方を示した。さらに、物価動向について「改善基調が続いてきたが、大地震による需給バランスの悪化による影響を注視している」としつつ「生産活動のモメンタムと雇用の改善には緩和的な金融環境の維持が重要であり、現状の金融政策は物価と金融市場の安定、復興支援に充分と評価される」との見方を維持している。確かに、足下のインフレ率はピークアウトが進んでいるものの、これは昨年前半に加速した反動が大きく影響しており、今後は一段と伸びが鈍化しても30%を上回る水準に留まると見込まれるなど、インフレ収束にはほど遠い状況が続いている。なお、一部報道では与党AKP(公正発展党)内で先行きの経済政策の方向性を巡って、金融政策面で緩やかな利上げ路線へ、財政政策面で公的支出や補助金による的を絞った支援を志向するなど、エルドアン政権が採ってきた方策と異なる路線への転換も含めた協議が行われているとされる。しかし、エルドアン氏自身は同協議に関わっていないとされており、仮にエルドアン氏が決選投票を制して3期目入りを果たした場合にそうした路線転換が現実化するかは不透明である。足下では大地震からの復興需要も影響して経常収支も財政収支もともに悪化しており、インフレも高止まりするなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は脆弱さを増していることを勘案すれば、決選投票においていずれの候補が勝利してもリラ相場にとって良い材料が生まれる可能性は低い。その意味では、リラ相場にとっては『行くも地獄、戻るも地獄』という極めて厳しい状況に置かれるであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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