トルコ大統領選は現職のエルドアン氏が辛勝で決選投票へ

~総選挙では与党連合が多数派を維持、決選投票に如何なる影響を与えるかに注視する必要がある~

西濵 徹

要旨
  • トルコでは14日に大統領選(第1回投票)と総選挙が実施された。大統領選は、現職のエルドアン氏と野党統一候補のクルチダルオール氏の一騎打ちによる激戦が展開された。現地報道ではエルドアン氏が最多得票となるも半数を下回り、第2位に着けたクルチダルオール氏との決選投票に持ち込まれる模様である。他方、同時に実施された総選挙では与党AKPを中心とする国民連盟が多数派を維持した模様である。決選投票に向けて両陣営は勝利を確信する姿勢をみせるも、国民連盟が議会の多数派を形成したことは投票行動に影響を与える可能性が考えられる。選挙の行方はウクライナ情勢の行方や地域情勢に影響を与えることは間違いない一方、リラ相場については決選投票に向けて不安定な展開となると予想される。

トルコでは14日、大統領選(第1回投票)と大国民議会総選挙が実施された。同国では2003年からエルドアン氏が首相、2014年からは大統領を務めるなど20年に亘って政権を担ってきたが、今年は10月に建国100周年を迎える年であり、『建国の父』であるムスタファ・ケマル(アタトゥルク)初代大統領を意識するなかで極めて重要な選挙となる。他方、ここ数年の同国経済を巡っては、インフレが常態化して国民生活に深刻な悪影響が出ている上、今年2月に同国南東部で発生した大地震の初期対応への不手際も重なり、エルドアン政権や与党AKP(公正発展党)は厳しい状況に直面してきた。さらに、大統領選では主要野党6党が共闘して最大野党CHP(共和人民党)のクルチダルオール党首を候補としたことで、事実上の両氏による一騎打ちの展開となるなど、過去の大統領選と比較しても大激戦が予想される展開が続いてきた(注1)。また、大統領選には4人が立候補したものの、最終盤には野党の故国党から出馬したインジェ氏が選挙戦からの撤退を発表しており、クルド系政党が独自候補の擁立を回避したことも重なり、エルドアン氏とクルチダルオール氏の一騎打ちの様相を呈してきた。なお、現地報道などによれば、エルドアン氏が49.4%の得票率で第1位となるも半数を上回る票を得ることが出来ず、45.0%の得票率で第2位となったクルチダルオール氏との上位2名で今月28日に決選投票が行われる可能性が高まっている。実権型大統領の公選制が始まった2014年以降の大統領選において初めて決選投票に持ち込まれることとなる。直前の世論調査においては、クルチダルオール氏の支持率がエルドアン氏をわずかに上回るものが多かったものの、選挙の最終盤においてエルドアン氏が『自力』を発揮した格好となった。エルドアン氏は支持者に対して、第1回投票の結果について「われわれは既に対立候補に260万票差を付けており、公式結果ではさらに差が広がる見通しだ」とした上で、「総選挙ではわれわれの連合が多数派を形成している模様であり、大統領選では安定に味方するであろう」と述べるなど、決選投票に持ち込まれても勝利することを確信する姿勢をみせた。他方、クルチダルオール氏の陣営はAKPが票の集計や結果発表に干渉しているとして批判する一方、決選投票では自身が勝利するとの考えを示している。決選投票に向けては、第1回投票において3位に着けた5%強の票を獲得したオアン氏の支持者の動向がカギを握るものの、同氏が所属するATA同盟は民族主義や国家保守主義の強い色合いを有する一方で、『ケマリズム』を標ぼうするなどイスラム色の強化を進めるエルドアン氏、及びAKPとも距離があることを勘案すれば、同氏の支持者が如何なる投票行動に動くかは見通しにくい。さらに、大統領選と当時に実施された大国民議会(総議席数:600議席)総選挙については、現地報道などではAKP自身は議席を減らしたものの、連立を組むナショナリズム政党のMHP(民族主義者行動党)やイスラム主義政党のYRP(新福祉党)などを併せた与党連合(国民連盟)は地方部などを中心に手堅い選挙戦を展開して半数を上回る議席を獲得しているとの見方が示される。一方、CHPを中心とする6党による野党連合(民族連盟)は大都市部を中心に議席を増やすも少数派に留まっている模様である。この結果によりAKPを中心とする国民連盟が多数派を形成する格好となれば、決選投票に向けて有権者の間に政権運営を巡る『安定』を望む声が強まり、結果としてエルドアン氏を後押しする可能性も考えられる。大統領選の行方は、エルドアン氏がロシアのプーチン大統領と親密な関係を有するなどウクライナ問題を巡って仲介役を担う動きをみせてきたこともあり、ロシアや同国が加盟するNATO(北大西洋条約機構)などから注目されており、地域情勢を大きく変化させることは間違いない。他方、『金利の敵』を自任するエルドアン氏が主導する政策運営を巡って中銀の信認は低下を余儀なくされた結果、通貨リラ相場は調整局面を強める展開が続いてきたが、決選投票に向けて一段と不透明感が強まることも予想される。

図 1 大統領選(第 1 回投票)における各候補の得票率
図 1 大統領選(第 1 回投票)における各候補の得票率

図 2 大国民議会選挙における党派別獲得議席数
図 2 大国民議会選挙における党派別獲得議席数

図 3 リラ相場(対ドル)の推移
図 3 リラ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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