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2026.02.19
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インドネシア中銀はルピア安に直面も、追加利下げを諦めていない
~中銀は景気下支えを重視する姿勢を崩さず、市場が納得できる「ストーリー」を提示できるか~
西濵 徹
- 要旨
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インドネシア中銀は、2月の定例会合で政策金利を4.75%に据え置くことを決定した。2024年9月から累計150bpにわたる利下げを実施してきたものの、最近は5会合連続で据え置いている。背景には、過去数年にわたる物価安定が利下げを後押ししてきたものの、直近1月のインフレ率は前年比+3.55%とわずかに目標上限(3.5%)を上回ったほか、金融市場の動揺に直面するなかで様子見姿勢を維持した。
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プラボウォ大統領が目指す8%成長目標に向けた拡張財政により、足元の財政状況は急速に悪化している。さらに、大統領の甥であるトマス・ジワンドノ氏が中銀副総裁に就任し、中銀の独立性に対する市場の懸念が高まっている。また、MSCIによる指数格下げ示唆やムーディーズの見通し引き下げなど、国際的な信認低下が呈されたこともあり、このところのインドネシア金融市場は動揺している。
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中銀は声明文で、世界経済の不確実性を認める一方、同国経済は財政、金融政策による下支えを通じて2026年の成長率は+4.9~5.7%になるとの見方を維持した。一方、足元で通貨ルピア安圧力が強まっていることを「過小評価」であるとの認識を示したうえで、経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)によれば安定に向かうとの強気な見通しを示した。全体的なトーンは景気下支えを重視している様子がうかがえる。
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ペリー総裁は、追加利下げの可能性を残しつつ、慎重な姿勢を示した。通貨安定に向けて、米ドルへの過度な依存を避けるための人民元取引の拡大を表明するなど、ルピア防衛を図る姿勢を打ち出した。一方、足元では外貨準備高が減少しており、現在の水準は、IMFが示すARA(適正基準評価)に基づけば適正水準の下限を下回ると試算され、外部ショックに対する耐性が低下している。今後、政府と中銀が描く「成長ストーリー」が市場を納得させられるか、その舵取りには慎重さが求められる。
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インドネシア銀行(中銀)は、2月18~19日の日程で開催した定例の金融政策において、政策金利である7日物リバースレポ金利を5会合連続で4.75%に据え置くことを決定した。中銀は2024年9月にコロナ禍一巡後初の利下げに踏み切り、その後も一時休止を挟みつつ2025年9月まで計6回、累計150bpの断続的な利下げを実施してきた。インドネシアでは、2023年半ば以降のインフレ率が中銀目標(2.5±1%)の範囲内で推移しており、上振れした物価が落ち着きを取り戻していることが中銀による利下げを可能にした。ここ数年、インドネシア中銀の政策目標に経済成長の支援が追加されるとともに、大統領による危機的事態宣言時に国債を直接購入する「財政ファイナンス」が認められるなど、政策運営に当たって景気重視の姿勢を強めざるを得ない状況にある。2024年に大統領に就任したプラボウォ氏は、任期中にインドネシアの経済成長率を8%と、過去数年の5%程度の成長から大幅に引き上げる方針を掲げている。こうした事情も中銀による利下げを後押ししたと考えられる。一方、1月のインフレ率は前年比+3.55%と2年半ぶりに中銀目標の上限を上回る伸びとなっているが、これは前年に時限措置として実施した電力料金引き下げによるベース効果の影響に留意する必要がある。とはいえ、当面はインフレが高止まりする可能性が高く、中銀は様子見姿勢を維持したと考えられる。

また、このところのインドネシア金融市場は、様々な要因が複合的に重なる形で混乱に直面している。プラボウォ大統領が主導するばらまき志向の強い財政運営を受け、2025年の財政赤字は695.1兆ルピア(GDP比2.92%)と法定上限(同3%)に近付くとともに、コロナ禍の影響を除けば約20年ぶりの赤字水準となるなど、財政状況が急速に悪化していることが明らかになった。さらに、1月に中銀のジュダ・アグン前副総裁が任期を1年余り残して突如辞任するとともに、後任にはプラボウォ大統領の甥で、財務副大臣を務めていたトマス・ジワンドノ氏が就任した。トマス氏はプラボウォ大統領の甥であることに加え、プラボウォ氏が党首を務める与党グリンドラ党の財務担当を務めていたため、この人事は中銀と政府、与党グリンドラ党との距離感に対する懸念につながっている。1月末には株式指数の算出・公表を行うMSCI社が株式市場の情報開示に関する懸念を表明したうえで、5月までに改善が確認されなければ、新興国株式指数におけるインドネシア株の比率引き下げ、フロンティア市場への格下げの可能性を示唆した。この発表を機に主要株式指数(ジャカルタ総合指数)が大幅に調整したことを受けて、政府は情報開示やガバナンス改革に取り組む方針を示しており、足元では一旦は落ち着きを取り戻している。しかし、その後も主要格付機関のムーディーズが政策の予見性低下がマクロ経済、財政、金融の安定性を毀損する懸念を理由に格付け見通しを引き下げるなど、将来的な格下げの可能性を示唆した(注1)。足元の通貨ルピアの対ドル相場は最安値近傍で推移するなど、資金流出圧力が強まっており、中銀の様子見姿勢を後押しした可能性もある。

会合後に公表した声明文では、今回の決定について「ルピア相場の安定化を目指す政策方針に合致したもの」との考えを示した。世界経済について「不確実性が高く、減速が見込まれる」としつつ、「2026年の世界経済の成長率は+3.2%」との見通しを示した。一方、同国経済については「政府の財政拡張策や中銀の金融緩和など政策支援が支え役になっている」としたうえで、「家計、企業ともにマインドの改善が見込まれ、2026年の経済成長率は+4.9~5.7%になる」との見通しを維持している。対外収支についても「世界的な不確実性が高いなかでも健全な状況が続いている」として、「2026年の経常収支はGDP比▲0.9~▲0.1%の小幅赤字にとどまる」との見通しを維持した。また、ルピア相場について「金融市場の不確実性の高まりが悪影響を与えている」としたうえで、「安定化策を強化し続けている」とし、「物価動向など経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を勘案すれば過小評価されている」、「先行きは安定化策の効果を受けて安定する」との認識を示した。物価動向についても「引き続き抑制されている」としたうえで、「足元は前年の反動で上振れしているが、2026年、27年と目標域内での推移が見込まれる」との見通しを示している。先行きの政策運営については「経済の安定維持を目指しつつ、より高い経済成長を促すべく強化する」との方針を示しており、引き続き景気下支えを重視している様子がうかがえる。

また、会合後に記者会見に臨んだ中銀のペリー総裁は、先行きの政策運営について「物価動向を勘案すれば、より高い経済成長を実現するために利下げ余地を探る」と述べるなど、引き続き追加利下げの可能性に言及した。その一方、その決定に当たっては「世界経済を巡る不確実性が高いなか、データ次第である」としたうえで、「利下げ余地が生じれば着実に実施するであろう」との考えをみせた。そして、「政府との政策協調により金融市場に十分な流動性を供給している」としたほか、足元のルピア相場の過小評価について「金融市場におけるリスクプレミアムなど技術的要因によるもの」との認識を示した。そのうえで、「経済のファンダメンタルズを反映してルピア相場は安定に向かうと確信している」ほか、「海外資金の誘致の取り組みを通じて為替安定に向けた為替介入の効果を補完している」とした。記者会見に同席したデストリー上級副総裁は、ルピア相場の安定に向けて「人民元との取引市場の深化を図っている」としたうえで、「これは為替取引における米ドルへの過度な依存を回避するためのもの」と説明した。フィリアニンシ副総裁も「中銀とアップルがQR決済について協議している」、「中国、韓国とQR決済の越境決済について取り組んでいる」と述べるなど、ルピア相場の安定に向けて決済の多様化を図っている様子がうかがえる。また、渦中のトマス副総裁も、銀行セクターについて「流動性や資本の水準は高く、最新のストレステストでは外的圧力への耐性はある」としたうえで、「政府との連携を通じて投資家や格付機関に対する経済成長に関するストーリーの構築に取り組んでいる」と述べるなど、市場安定を図る考えをみせた。ただし、中銀による為替介入を受けて、外貨準備高は再びIMF(国際通貨基金)が金融市場の動揺への耐性の有無の基準として示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を下回っていると試算される。市場の動揺に対する耐性が低下するなか、当局の舵取りには引き続き細心の注意が必要になる。

注1 2月10日付レポート「インドネシア市場にさらなる懸念、信頼回復への道筋を描けるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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