インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコ中銀は先月の宣言通り利下げサイクル終了も、不透明感は山積

~世界経済のスタグフレーションが懸念されるなか、ファンダメンタルズの脆弱さに起因する問題は多い~

西濵 徹

要旨
  • トルコ中銀は24日に開催した定例会合において4会合連続の利下げを、利下げ幅も前回会合での宣言通り150bpとする決定を行った。米FRBなどのタカ派傾斜は新興国からの資金流出を招き、経済のファンダメンタルズが極めて脆弱なトルコではリラ相場はジリ安の動きをみせてきた。足下のインフレ率は商品高も重なり中銀のインフレ目標を大きく上回る推移が続くも、中銀は「金利の敵」を自任するエルドアン大統領の圧力に屈する形で利下げを余儀なくされてきた。結果、足下の国際金融市場では米ドル高に一服感が出ているものの、リラ相場は引き続きジリ安の展開が続くなど外部環境と無関係な状況にある。中銀は今回の決定を以って8月からの利下げサイクルの終了を決定したが、選挙の時期が近付くなかで緩和政策が維持される可能性は高い。世界経済のスタグフレーション入りが懸念されるなか、国際金融市場の動揺は影響が深刻化することも予想されるだけに、定石と逆行した政策を志向する同国の行方には注意が必要と言える。

中国による『動態ゼロコロナ』への拘泥を巡っては、その厳格な行動制限が中国景気の足かせとなるのみならず、サプライチェーンの混乱を通じて中国経済と連動性の高い国々の景気の足を引っ張る動きもみられる。他方、ウクライナ情勢の悪化による供給不安を理由とする商品高は世界的なインフレを招いており、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めるなか、物価高と金利高の共存はコロナ禍からの回復が続いた欧米など主要国景気に冷や水を浴びせる兆しもみられる。結果、世界経済はスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。さらに、米FRBなどのタカ派傾斜は世界的なマネーフローに影響を与えており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に資金流出が加速する動きがみられる。トルコは経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』が慢性化するとともに、外貨準備も過小であるなどファンダメンタルズは極めて脆弱であり、ここ数年は国際金融市場が動揺する度に資金流出に直面してきた。2018年には元々のファンダメンタルズの脆弱さに加え、外交関係の悪化をきっかけに資金流出が加速してリラ相場が暴落し、国際金融市場に動揺が広がる『トルコ・ショック』が発生する事態に発展した。こうした問題を抱えるなか、同国においても商品高は食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いているものの、『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の圧力を受ける形で中銀は8月(注1)、9月(注2)、10月(注3)と3会合連続で利下げを実施するなど、経済学の定石では考えられない政策運営が行われている。なお、トルコはウクライナ情勢を巡ってロシア、及びウクライナ双方の仲介役を買って出るとともに、国連と共同でウクライナ国内に滞留する穀物輸出の再開に尽力するなどの動きをみせており、外交関係の悪化を理由とするリラ安リスクは極めて低い。他方、上述のような拙い政策運営を理由にリラ相場はジリ安の展開をみせており、輸入物価を通じた一段のインフレ昂進を招くとともに、足下の国際金融市場においては米ドル高の一服によりそれまで調整してきた多くの新興国通貨が底打ちする動きがみられるにも拘らず、リラ相場は底這いの展開が続いており、このところのリラ安は外部環境と無関係に進んできた様子がうかがえる。こうした状況も影響して直近10月のインフレ率は前年比+85.51%、コアインフレ率も同+70.45%とともに中銀の定めるインフレ目標(5%)を大きく上回る推移が続いている。こうした状況ではあるものの、中銀は10月の定例会合での利下げ実施に際して、次回会合で同程度の利下げを実施した上で利下げサイクルの終了を示唆する姿勢を示したなか、24日の定例会合において政策金利である1週間物レポ金利を4会合連続で引き下げるとともに、利下げ幅も前回会合と同じ150bpとして9.00%とするなど、宣言通りの決定を行った。会合後に公表した声明文では、世界経済について「景気後退が避けられなくなっている」との認識を示す一方、同国経済は「年前半は力強い景気拡大が続いたが、年後半は外需の弱含みが足かせとなり、エネルギー価格の高止まりや貿易相手国の景気後退懸念は経常収支を巡るリスクに繋がる」とし、「政策金利と貸出金利の間のスプレッドを注視しつつマクロプルーデンス政策を強化する」との考えを示したが、これは過去の利下げ実施に際して物価抑制を目的に金融機関に対して一部を除いて貸出抑制を図るなど景気にブレーキを掛けることを迫られていることが影響している。また、物価動向については「地政学リスクによるエネルギー価格の上振れ、経済のファンダメンタルズに基づかない価格形成、世界的な供給制約に拠る」と従来の考えを維持した上で、先行きは「紛争解決プロセスや持続可能な物価、及び金融安定化策の強化によりディスインフレプロセスが始まる」との従来の見方を維持している。その上で、今回の決定は「世界経済の不確実性や地政学リスクが高まるなかで成長のモメンタムと雇用拡大を維持するには金融緩和環境を維持することが重要」とこれまでと同じ理由を挙げた上で、「8月に開始した利下げサイクスの終了を決定した」としつつ、先行きは「恒久的な物価安定と中期目標の実現を示唆する指標が確認されるまで、リラ化戦略の枠組のなかで利用可能な手段をすべて行使する」との従来の文言を維持したが、ポリシーミックスは完全に破たんしている。今回の決定を巡っては、今月初めに協議終了を報告したIMF(国際通貨基金)の4条協議ミッションが中銀に対して早期の利上げ実施を提言したにも拘らず(注4)、完全にこれを無視した格好である。これはエルドアン政権にとって来年6月に迫る大統領選、及び総選挙での苦戦が予想されており、景気維持に向けた姿勢を強めていることが影響していると考えられる。他方、上述のように足下の世界経済はスタグフレーションが意識される状況にある上、こうした環境において国際金融市場が動揺した場合はその影響が深刻化しやすいことを勘案すれば、ファンダメンタルズが極めて脆弱なトルコはその『標的』となりやすい。足下の同国経済に対する不透明感が高まっていることもそうしたリスクを高めると懸念されるため、今後のトルコ経済の行方にはこれまで以上に注意が必要である。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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