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トルコ大統領選、決選投票に向けてエルドアン氏に「追い風」が吹く

~「第3の候補」がエルドアン氏支持を表明、リラ相場が浮揚の機会を失う可能性は一段と高まっている~

西濵 徹

要旨
  • トルコで今月14日に実施された大統領選(第1回投票)では、現職のエルドアン氏が最多得票となるも、単独で半数を上回る票を獲得出来ず、上位2名による決選投票に持ち込まれた。決選投票に向けては第3位に着けた極右の独立系候補オアン氏の行方に注目が集まったが、同氏は22日にエルドアン氏を支持することを公表しており、エルドアン氏に追い風が吹くと見込まれる。なお、大統領選と同時に実施された総選挙ではエルドアン政権を支える与党連合が半数を上回る議席を獲得しており、オアン氏の動きを含めて有権者の投票行動に影響を与えると予想される。地域情勢はこう着状態が続く可能性が高まるとともに、政策運営を巡り中銀の信認低下が続くことは避けられず、リラ相場は浮揚の機会を失う展開が続くと予想される。

トルコで今月14日に実施された大統領選(第1回投票)は、現職大統領として3選を目指すエルドアン氏が49.52%と最多得票となるも、単独で半数を上回る票を得ることが出来ず、次点のクルチダルオール氏(44.88%)との上位2名による決選投票が行われる(注1)。事前の世論調査においては、エルドアン氏とクルチダルオール氏の2名が拮抗する結果が相次ぐなど大接戦が予想されたほか、今回の大統領選では在外投票の動きも影響するとみられた。今回の大統領選における投票率は87.04%と4年前の前回大統領選(86.24%)を上回る高水準となったものの、両者の票差は254万票弱に達するなど事前の想定以上に票差が付いた格好となった。この背景として、事前に行わせた世論調査では、クルチダルオール氏が率いる最大野党CHP(共和人民党)が首長を務める最大都市イスタンブールや首都アンカラ、第3の都市イズミールなど都市部の意見が大きく反映された可能性が考えられる。事実、両者の得票動向をみると、都市部を中心にクルチダルオール氏が優勢となる一方、保守層が多いとされる地方部においてはエルドアン氏が確実に票を獲得するなど、都市部と地方部との違いが確認されている。28日に実施される決選投票に向けては、第1回投票において5.17%の得票率を獲得して第3位に着けた独立系候補のオアン氏の動向に注目が集まった。同氏自身は元々、現在最大与党AKP(公正発展党)と連立を組む極右政党のMHP(民族主義者行動党)に所属したものの、党内対立を経て離党した経緯を有する。また、同氏が所属するATA同盟は民族主義や国家保守主義に基づく反移民政策を掲げるなど『極右』色の強い主張を展開する一方、政策運営を巡っては『ケマリズム(政教分離)』を標ぼうするなどイスラム色の強化を進めるエルドアン氏、及び最大与党AKPとも距離があるとみられた。こうしたなか、オアン氏は22日に決選投票ではエルドアン氏を支持することを発表しており、その理由について同氏は「野党連合は大国民議会選で半数を獲得出来ないなど充分な成果を示せない上、将来像についてもわれわれを納得させられなかった」と述べるとともに、「エルドアン氏を支持する決断は同氏が絶え間なくテロリズムと戦う方針を示したことに基づく」とする考えを示している。エルドアン氏も同日、オアン氏の陣営との間でテロリズム対策を含めた多くの問題で政策合意に達したことを明らかにしており、エルドアン陣営にとって『追い風』となる一方、クルチダルオール陣営にとって『逆風』となることは避けられそうにない。なお、大統領選(第1回投票)と同時に実施された大国民議会選挙(総選挙)においては、最大与党AKPは議席を大きく減らしたものの、連立を組むMHPやイスラム主義政党などを併せた与党連合(国民連盟)は地方部などを中心に手堅い選挙戦を展開した結果、半数を上回る議席を獲得するなど多数派を形成している。一方、最大野党CHPなど6党でクルチダルオール陣営を構成する野党連合(民族連盟)は都市部を中心に議席を獲得するも、地方部においては与党連合に劣勢状態が続いた結果、半数を大きく下回る議席を獲得するに留まった。左派政党を中心とする第3極(労働と自由の同盟)を併せても野党勢力は議会内で少数派に留まるなど、決選投票に向けては有権者の間に政権運営の安定の観点から大統領と議会との『ねじれ状態』を回避したいとの思惑も生まれるなど、投票行動に少なからず影響を与えると予想された。エルドアン氏を巡っては、ロシアのプーチン大統領と親密な関係を有することもあり、ウクライナ問題を巡って仲介役を担う動きをみせてきたため、選挙結果の行方は地域情勢を大きく左右すると予想された。さらに、同国はNATO(北大西洋条約機構)加盟国である一方、クルド人を巡る問題を理由に北欧スウェーデンによるNATO加盟申請に反対する姿勢を維持しており、地域の安全保障情勢のカギを握る動きをみせてきた。決選投票に向けてエルドアン氏に追い風が吹く状況が生まれたことは、地域情勢を巡るこう着状態が今後も続く可能性が高まっていると判断出来る。その一方、エルドアン氏は『金利の敵』を自任しており、インフレ昂進にも拘らず中銀は利下げ実施を迫られるなど国際金融市場からの信認低下を招くなど、結果的に同国通貨リラ相場は調整を余儀なくされてきた。その意味では、今後もリラ相場は浮揚の機会を失う展開が続くことも予想される。

図 1 大国民議会における党派別議席数
図 1 大国民議会における党派別議席数

図 2 リラ相場(対ドル)の推移
図 2 リラ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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