OPECプラス、現状維持により価格維持を優先する構えを崩さず

~中国景気とロシアの生産動向がカギを握るなか、当面は価格維持を期待して様子見を図る模様~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は、欧米など主要国の景気減速懸念の一方、中国によるゼロコロナ戦略の終了を受けて頭打ちが続いた流れが底打ちする兆しが出ている。世界経済の減速懸念を理由に頭打ちの動きを強めてきた原油価格も底打ちしている。OPECプラスは原油価格が頭打ちしたことを受け、昨年10月に協調減産拡大に動くとともに、11月には日量200万バレルに拡大するなど価格維持を優先する姿勢に転じた。世界経済を取り巻く状況に変化の兆しは出ているものの、OPECプラスは1日のJMMCにおいて現状維持(日量200万バレルの協調減産)を確認し、足下の原油価格は主要産油国の財政均衡水準を下回るなかで様子見を図った格好である。アフリカ諸国の生産能力低下を理由に生産量は目標を下回る推移が続き、中国の動向如何では価格が上振れする可能性はあるが、当面は価格維持を優先する展開が続くことが予想される。

足下の世界経済を巡っては、物価高と金利高の共存により欧米など主要国を中心に景気減速が意識される一方、世界経済の足を引っ張る一因となってきた中国によるゼロコロナ戦略が終了した結果、世界経済の動向と連動性が高い製造業PMI(購買担当者景況感)は一昨年半ば以降頭打ちの様相を強めてきたものの、直近では依然好不況の分かれ目となる水準を下回るも底打ちするなど変化の兆候がうかがえる。昨年後半にかけての国際金融市場では、世界経済が物価上昇局面で景気減速するスタグフレーションに陥るとの懸念の高まりを反映して原油価格は頭打ちしたほか、物価抑制を目的とする米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を受けた米ドル高の動きも原油価格の重石になってきた。しかし、昨年末以降は米FRBがタカ派姿勢を後退させていることで米ドル高の動きに一服感が出ているほか、足下では上述のように中国のゼロコロナ終了による景気底打ち期待も追い風に、頭打ちの動きを強めてきた国際原油価格を取り巻く状況に変化の兆しが出ている。なお、主要産油国の枠組であるOPECプラスは昨年、国際原油価格が高止まりするなかで米国など主要需要国による『圧力』も影響して段階的に協調減産の縮小に動いたものの、上述のように価格が一転して頭打ちの動きを強めて一部の産油国にとって財政均衡水準を下回る事態となり、昨年10月から日量10万バレルの協調減産を決定するとともに(注1)、11月からは協調減産枠を日量200万バレルに拡大させる決定を行うなど価格維持を優先する姿勢に転じた(注2)。さらに、世界経済の減速懸念が警戒されるなかで今年1月以降も協調減産枠を日量200万バレルに維持する一方、原油価格の下振れが意識された場合には緊急会合を開催して協業減産の拡大に動く可能性が意識された(注3)。これは、昨年12月にG7(主要7ヶ国)とEU(欧州連合)、豪州がロシア産原油について「1バレル=60ドル」とする上限設定措置の発行で合意したことも影響する一方、上述のように中国によるコロナ対応の転換を受けてその後の原油価格は下値が支えられる展開が続いている。こうしたなか、1日にOPECプラスは合同閣僚監視委員会(JMMC)を開催し、各国の生産動向が目標に合致しているとの認識を共有した上で、現状維持(日量200万バレルの協調減産)の方針を確認した。報道によると、会合は約30分で終了しており、当面の原油価格に影響を与える中国の需要動向やロシアの供給見通しに関する討議は行われなかった模様であり、現時点においては様子見姿勢が採られたと考えられる。他方、先月の産油量を巡っては、ナイジェリアやアンゴラなどアフリカの産油国を中心とする生産能力の低下を理由に目標を下回る状況が続いており、中国景気の回復が想定以上に進んだ場合には原油価格が上振れの動きを強める可能性はある。ただし、足下の原油価格は主要産油国において財政均衡水準を下回る水準に留まるなど、価格維持を優先させる誘因があることを勘案すれば、先行きも協調減産が維持される展開が続くであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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