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2022.10.05
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NZ準備銀、景気に不透明感も、豪州と対照的に物価抑制を重視し「タカ派」継続
~政策の方向性はNZドル相場の動向に影響を与える一方、難しい対応を迫られる状況は変わらず~
西濵 徹
- 要旨
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• 足下の世界経済は全体的に減速が警戒されている。他方、商品高による世界的なインフレを受け米FRBなど主要国中銀はタカ派傾斜を強めるなか、多くの国が資金流出に直面している。ニュージーランドではコロナ禍からの回復が続く一方、低金利の長期化などを追い風に不動産市況が上昇したため中銀は昨年以降金融引き締めに動くとともに、物価上昇に対応してタカ派姿勢を強めてきた。物価高と金利高の共存は景気に冷や水を浴びせると懸念されるも、足下の景気は外需をけん引役に堅調さが続いている。他方、急激な金利上昇に伴う不動産市況の調整の実体経済への悪影響が懸念されるが、中銀は5日の定例会合で8会合連続の利上げ、利上げ幅も5会合連続の50bpとするなどタカ派姿勢を維持した。豪州は4日に利上げ幅を縮小するなどタカ派姿勢を後退させたのとは対照的である。会合では75bpの利上げも検討されており、豪ドルに対し調整が続くNZドルを取り巻く状況は変化する可能性がある。他方、タカ派度合いの差はNZドルの対米ドル相場の重石となり得る一方、政策の方向性の違いは日本円に対する底堅さに繋がると見込まれる。
足下の世界経済を巡っては、中国による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が中国経済のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて世界経済の足かせとなっているほか、商品高に伴う世界的なインフレを受けた米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を強めるなか、欧米など主要国景気も頭打ちの様相をみせるなど、全体的に景気減速が警戒される状況にある。一方、米FRBなど主要国中銀によるタカ派傾斜は世界的なマネーフローに影響を与えており、多くの国が資金流出に直面するとともに、米ドル高を反映する形で通貨安が進む事態に見舞われている。ニュージーランドにおいても、商品高や米ドル高によるNZドル相場の調整を受けた輸入物価の押し上げに加え、コロナ禍からの景気回復の動きも追い風にインフレ圧力が強まり、直近4-6月のインフレ率は中銀(NZ準備銀)の定める目標を大きく上回るとともに、丸32年ぶりの水準に加速している。さらに、コロナ禍対応を目的に政府及び中銀は、財政及び金融政策の総動員による景気下支えを図ったものの、金融市場のカネ余りや低金利環境の長期化に加え、コロナ禍を経た生活様式の変化による住宅需要の拡大も重なり、不動産市況は急上昇するなどその『副作用』も顕在化した。この背景には、同国ではコロナ禍の封じ込めが成功して比較的早期に景気回復を実現したことが影響したとみられる一方、その後はワクチン接種の遅れも理由に感染動向が急激に悪化したため、景気回復の動きに冷や水を浴びせることが懸念された。よって、中銀は利下げや量的緩和政策の実施により景気下支えを図る一方、昨年初めには不動産市況の上昇に対応して住宅ローン規制を厳格化することで緩和姿勢を維持する対応をみせた(注1)。ただし、その後も景気は堅調な動きをみせるとともに、不動産市況は一段と上昇の動きを強めたため、昨年7月には量的緩和政策の終了を決定し(注2)、10月には7年強ぶりとなる利上げ実施に動くなど金融政策の正常化を進めた(注3)。さらに、上述のようにその後はインフレ圧力が強まったこともあり、中銀は今年8月の定例会合まで7会合連続で利上げを実施するとともに、過去4会合については利上げ幅を50bpとする大幅利上げに動くなどタカ派姿勢を強めてきた(注4)。こうした状況にも拘らず、国際金融市場では米FRBなど主要国中銀との『タカ派度合い』の違いを理由にNZドルの対米ドル相場は調整の動きを強める展開が続き、結果的に輸入物価を通じたインフレ昂進を招くことが懸念されてきた。他方、中銀による断続的利上げは景気に冷や水を浴びせることが懸念されるなか、足下の同国景気は堅調に底入れしている。内需は総じて弱含む一方で国境再開の動きを追い風に外需は堅調に推移しており、景気回復のけん引役が変化している様子がうかがえる(注5)。また、当局による規制強化の動きに加え、このところの物価高と金利上昇を受けて上昇基調が続いた不動産市況は頭打ちに転じており、足下では前年同月比ベースでもマイナスに転じるなど不動産市場を取り巻く環境は一変している。なお、同様の状況に直面する隣国の豪州では、昨日(4日)に中銀が追加利上げを決定しつつ、利上げ幅を縮小させるなどタカ派度合いの後退を示唆する動きをみせた(注6)。こうした状況にも拘らず、中銀は5日に開催した定例会合で8会合連続の利上げに加え、利上げ幅も5会合連続で50bpとする大幅利上げを継続して政策金利を3.50%とする決定を行った。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「引き締めの継続」と評した上で、その理由について「物価安定と雇用最大化の実現には引き締め継続が適切」との考えを示した。世界経済について「需要が供給を上回るなかでウクライナ情勢の悪化も重なりインフレ圧力は依然強い」一方、「原油価格の調整やサプライチェーンの混乱収束により幾つかの国でインフレ率は鈍化しているが、コアインフレ率は高止まりして金融引き締めが続き、貿易相手の景気見通しは弱含んでいる」との見方を示した。一方、同国経済は「世界経済の減速と金利上昇に直面するも雇用回復を追い風に家計消費は底堅い」とした上で、「労働力不足が生産の制約要因となるなかで賃金上昇圧力は高まっている」とし、「インフレ率が目標域に戻ると確信出来るまで金融引き締めを継続する必要がある」との認識を改めて示した。また、同時に公表された議事要旨では、NZドル相場について「世界的な金利上昇とリスク回避姿勢の高まりが調整圧力を招いており、長期的には経常収支のリバランスに寄与する一方、調整が続けばインフレの上方リスクに繋がる」との見方が共有されている。さらに、足下の景気動向については「国境再開を追い風に概ね見通しに沿った回復が続き、従来の想定に比べて国内の経済活動はやや強い可能性がある」とした上で、家計部門について「債務返済コストの上昇に直面しているが、住宅価格の下落にも拘らずバランスシートは依然弾力的」との見方を示しつつ、企業部門について「コスト上昇と労働力不足が懸念要因になっている」との認識を共有した模様である。その上で、今回の決定を巡って「利上げ幅(50bpないし75bp)を検討した」とした上で「バランスを勘案して50bpの利上げが適切と合意した」とするなど、政策委員の間ではさらなる『タカ派』姿勢が意識された模様である。金融市場においては、隣国豪州に対してNZが金融引き締めで先行する一方で景気減速懸念が高まっていることを理由に、NZドルは豪ドルに対して調整する展開が続いてきたものの、金融政策のタカ派度合いの違いを理由に一転底入れする可能性が考えられる。他方、米ドルに対しては引き続きタカ派度合いの違いが重石となり得る可能性があるものの、日本円に対しては金融政策の方向性の違いが相場を下支えすると見込まれる。



注1 2021年2月9日付レポート「ニュージーランド中銀、住宅バブル懸念に対応してローン規制厳格化」
注2 2021年7月14日付レポート「ニュージーランド中銀、量的緩和終了による緩和水準引き下げを決定」
注3 2021年10月6日付レポート「ニュージーランド中銀、7年強ぶりの利上げで新型コロナ禍対応から脱却」
注4 8月17日付レポート「ニュージーランド中銀、金融引き締め継続に加え利上げの加速を示唆」
注5 9月20日付レポート「ニュージーランド、2四半期ぶりのプラス成長も内外需の攻守は反転」
注6 10月4日付レポート「豪準備銀、6会合連続の利上げも、景気の不確実性に配慮し利上げ幅を縮小」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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