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2022.09.20
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ニュージーランド、2四半期ぶりのプラス成長も内外需の好守は反転
~中銀はタカ派維持示唆も、国内外で景気の不透明感が高まるなかでNZドル相場は左右されよう~
西濵 徹
- 要旨
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- 年明け以降のニュージーランドは変異株によるコロナ禍の再燃に直面した。しかし、ワクチン接種の進展を理由にウィズ・コロナ戦略が維持され、その後の感染動向の改善も追い風に規制解除の動きが広がった。1-3月の実質GDP成長率は2四半期ぶりのマイナス成長に陥ったが、4-6月は前期比年率+7.03%のプラス成長に転じている。実質GDPの水準もコロナ禍前を上回るなど、同国経済はコロナ禍を克服している。
- アジア新興国景気の底堅さは財輸出の拡大を促すとともに、国境再開により外国人観光客も底入れするなど外需に堅調さがうかがえる。一方、物価高と金利高の共存が続くなか、制限緩和によるペントアップ・ディマンドの一巡も重なり家計消費は減少に転じ、不動産需要の低迷は固定資本投資を下押しするなど内需は総じて弱含んでいる。分野ごとの生産動向も外需の堅調さがサービス業の生産を押し上げる一方、鉱業や製造業、建設業など幅広い分野で生産は弱含むなど、景気を巡る跛行色が生産活動に影響を与えている。
- 中銀は先月の定例会合でも一段の利上げ実施に加え、不動産市況の鎮静化にも拘らず先行きのタカ派傾斜を示唆するなど、物価高と金利高の共存が内需の足かせとなることは避けられない。外需を取り巻く環境も厳しさが増すなど景気の不透明感は高まっている。また、金融市場では「タカ派度合い」がNZドルの対米ドル相場の重石となる一方、方向感の違いは日本円に対する底堅さに繋がる展開が続くと見込まれる。
年明け以降のニュージーランドでは、感染力の強い変異株によりコロナ禍が再燃するとともに、感染動向は過去の『波』を大きく上回る事態に直面するなど、景気に冷や水を浴びせることが懸念された。他方、同国では国民の8割以上がワクチンの完全接種を、7割弱が追加接種を終えるなどワクチン接種が進んでおり、ワクチン接種を前提に経済活動の正常化を図る『ウィズ・コロナ』戦略が維持されてきた。同国における感染動向は3月上旬を境に一旦ピークアウトするも、その後は再び底入れする動きがみられたものの、7月上旬を境に再びピークアウトしており、足下においては一段と頭打ちの動きを強める動きがみられる。感染動向の改善を受けて、同国政府は今年2月以降国境を再開させたほか、その後も段階的に規制解除に動くとともに、8月には国境を完全に再開させている。また今月12日にはコロナ禍対応として導入したマスク着用規制やワクチン接種の義務付けを撤廃するなど『ポスト・コロナ』に向けて大きく動き出している。結果、年明け以降における感染動向の悪化を受けて人の移動に一旦下押し圧力が掛かったものの、3月末以降は一転して底入れするとともに、その後は緩やかに拡大する動きが確認されるなど景気回復に繋がる動きがみられた。同国景気を巡っては、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.94%(改定値)と2四半期ぶりのマイナス成長に陥るなど予想外の躓きが確認されたものの(注1)、4-6月については同+7.03%と2四半期ぶりのプラス成長に転じている。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率は+0.4%と前期(同+1.3%)から鈍化しているものの、季節調整値ベースの実質GDPの水準はコロナ禍の影響が及ぶ直前の2019年末時点と比較して+4.8%上回ると試算されるなど、同国経済はコロナ禍の影響を克服している。

1-3月の景気が下振れした背景には、世界的な感染再拡大を受けて外需に下押し圧力が掛かったほか、大雨による大規模洪水の発生など自然災害の頻発が重なったことが影響したとみられるものの、その後は上述のように感染拡大の一巡を受けて行動制限の緩和が進んだことが景気の底入れを促しているとみられる。最大の輸出相手である中国景気は『ゼロ・コロナ』戦略の拘泥を受けて下振れするなど外需への悪影響が懸念されたものの、ASEAN(東南アジア諸国連合)をはじめとするアジア新興国景気の底堅い動きが財輸出を押し上げているほか、国境再開の動きを反映して外国人観光客数は大幅に底入れしており、サービス輸出も大きく押し上げられている。一方、行動制限の段階的緩和を受けたペントアップ・ディマンドの発現が家計消費を押し上げた流れが一巡していることに加え、幅広い商品市況の上振れを受けたインフレによる実質購買力の下押しも重なり家計消費は3四半期ぶりに前期比でマイナスに転じている。また、コロナ禍対応を目的に中銀(NZ準備銀行)は利下げや量的緩和(QE)政策を通じた景気下支えに動いたものの、コロナ禍を経た生活様式の変化に加え、低金利環境の長期化を受けて不動産市況は上昇するなど『副作用』が顕在化したため、中銀は昨年以降利上げや量的引き締め(QT)に転じるとともに、政府も住宅ローンの審査厳格化や税制改革などに動いたため、足下の不動産需要は低迷して固定資本投資に下押し圧力が掛かるなど、内需は総じて下振れしている。結果、上述のように外需の底入れが進む一方で内需に下押し圧力が掛かったことを受けて、総輸出の成長率寄与度は4四半期ぶりにプラスに転じて成長率の押し上げに繋がっており、見た目に比べてその内容は極めて厳しいものと捉えられる。分野ごとの生産動向を巡っても、商品市況の上振れにも拘らず鉱業部門の生産は弱含んでいる上、世界経済を取り巻く不透明感の高まりは製造業の生産も下振れさせるとともに、不動産需要の低迷を反映して建設業の生産も減少に転じている。一方、自然災害頻発の影響が一巡したことで農林漁業関連の生産は底打ちしているほか、国境再開や行動制限の緩和を受けた外国人観光客数の底入れの動きを反映して観光関連を中心とするサービス業の生産は軒並み拡大しているほか、家計消費の底堅い動きもサービス業の生産を下支えしている。このように内・外需を巡って跛行色が強まっていることが生産活動に影響を与えている様子がうかがえる。


先行きについては、中銀は先月の定例会合においても7会合連続の利上げ実施に加え、利上げ幅も4会合連続で50bpの大幅利上げに動くなどタカ派傾斜を強めている一方、足下のインフレ率は32年ぶりの水準に加速するなど、物価高と金利高の共存が家計消費をはじめとする内需の足かせとなることは避けられない。なお、上述のようにこれまでの金融引き締めなどが足かせとなる形で足下の不動産需要は下振れしている上、不動産価格も調整して前年比ベースでマイナスに転じるなど不動産市況は鎮静化しているものの、中銀が先月の定例会合に併せて公表した物価レポートでは先行きの利上げ加速を示唆するなど一段のタカ派傾斜に動く姿勢をみせた(注2)。その後も中銀関係者から、先行きの政策運営を巡って「インフレ抑制に向けて中立水準を十分に上回る水準への利上げが望まれる」(ホークスビー副総裁)、「少なくともあと2、3回の利上げ実施が必要になるが、テクニカル・リセッションに陥る可能性は低い」(オア総裁)との見解が示されるなど、一段の金融引き締めを示唆する動きが相次いでいる。さらに、足下の世界経済を巡っても、中国によるゼロ・コロナ戦略への拘泥に加え、欧米など主要国においても物価高と金利高の共存が景気の足かせとなる動きが顕在化するなど、不透明感が高まる動きがみられる。他方、国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜による米ドル高が意識されやすい環境が続いている一方(注3)、上述のように同国経済を巡っては物価高と金利高の共存が幅広く内需の重石となる動きが顕在化しており、中銀は相次いでタカ派傾斜を示唆する動きをみせるも『タカ派度合い』の弱さがNZドル相場(対米ドル)の重石となることは避けられそうにない。一方、日本円に対しては日銀が引き続き緩和政策を維持するなど、政策の方向性の違いが相場を下支えする展開が続くと見込まれるものの、足下の米ドル高の状況如何で上下双方に触れる可能性には注意が必要と捉えられる。

注1 6月16日付レポート「ニュージーランド、景気は予想外に躓くも内需の堅調な推移を確認」
注2 8月17日付レポート「ニュージーランド中銀、金融引き締め継続に加え利上げの加速を示唆」
注3 8月30日付レポート「FRBパウエル議長の言う「何らかの痛み」は新興国にどう影響する?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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