ニュージーランド中銀、量的緩和終了による緩和水準引き下げを決定

~市場環境の改善を受けて量的緩和政策の終了を決定、NZドル相場は底堅い展開が見込まれる~

西濵 徹

要旨
  • オセアニアでは、ニュージーランドと豪州でともに感染抑制により経済活動の正常化が進んだ。しかし、豪州では変異株による感染再拡大の動きがみられる一方、ニュージーランドはワクチン接種が遅れるも感染動向は落ち着いている。年明け以降の景気は底入れが進むなど拡大傾向を強める一方、昨年来の中銀による金融緩和を追い風に不動産市況は上昇傾向を強めるなど、副作用が顕在化する事態に直面している。
  • 中銀は不動産市況のバブル懸念に対して規制強化に動いているほか、5月会合では将来的な利上げ実施を示唆するなど「正常化」を見据える動きを強めている。こうしたなか、中銀は14日の定例会合で政策金利と資金供給プログラム(FLP)を維持する一方、大規模資産買い入れプログラム(LSAP)を今月23日までに停止するなど金融緩和の水準を引き下げる決定を行った。景気回復が進むなかで金融市場の改善がLSAPの終了を後押しした。金融市場では米FRBの政策運営への見方が米ドル高に繋がり、NZドル相場の重石となってきたが、先行きはNZドル相場の底堅さが期待されるほか、日本円に対して堅調な推移が見込まれる。

オセアニアにおいては、ニュージーランドと豪州はともに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染封じ込めが図られてきたことで経済活動の正常化が進むとともに、域内における人の移動が自由化されるなど景気回復が進むことが期待された。しかし、足下では豪州において大都市部などを中心に感染力の強い変異株による感染再拡大の動きが広がっており、感染動向を巡る状況は怪しくなっている(注1)。他方、ニュージーランドについては今年2月に最大都市オークランドで市中感染が確認されたために行動制限が再強化される事態となったものの、その後は迅速かつ強力な対策が奏功する形で1日当たりの新規陽性者数は10人以下(7日間移動平均)、死亡者数もゼロで推移するなど落ち着いた展開が続いている。なお、欧米や中国など主要国ではワクチン接種の広がりが経済活動の正常化を後押しする動きがみられるが、同国については当初の段階でワクチン確保を巡り後手を踏む展開をみせたものの、2月末にワクチン接種が開始されており、今月11日時点における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は10.41%、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)は15.94%と世界平均(それぞれ12.13%、25.21%)を下回るなど依然としてワクチン接種は遅れている。こうした状況にも拘らず、上述のように感染拡大を抑えられていることを受けて幅広く経済活動は正常化する動きをみせている。豪州との間では4月に出入国制限が緩和されて隔離なしで双方の往来が自由化されたものの、豪州での感染再拡大を受けて先月末に一時中断に追い込まれるなど一進一退の展開が続いている。なお、年明け以降の同国経済は主要国を中心とする世界経済の回復が外需を押し上げるとともに、経済活動の正常化の動きは内需を下支えするなど景気の底入れが進んでいるほか、足下においても製造業及びサービス業ともに企業マインドは堅調な動きが続いており、景気は一段と底入れの動きを強めていると見込まれる。他方、昨年以降の中銀は景気下支えを図るべく利下げや量的緩和政策を実施してきたが、景気の底入れが進む背後で不動産市況は急上昇してバブル化が懸念されるなど、副作用が表面化する事態となっている。

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なお、バブル的な上昇をみせてきた不動産市況を巡っては、今年4月から住宅ローンに対するLVR(ローン資産価値比率)規制を復活させるとともに、5月以降は投資目的の住宅ローンに対する規制を一段と厳格化されており、新型コロナウイルス対策を名目に撤廃された規制が再開されるなど『正常化』が進んでいる(注2)。こうした動きを受けて、足下の不動産価格は頭打ちの動きをみせるなど一定の効果に繋がっているとみられる一方、低金利環境の長期化は新型コロナ禍を経た生活様式の変化も相俟って住宅需要を下支えしており、不動産市況は高止まりする展開が続いている。よって、中銀は5月の定例会合において2022年7-9月に利上げ開始に動く方針を示唆するなど、それまで追加利下げに含みを持たせてきた流れは『正常化』の方向にシフトしている(注3)。他方、インフレ率は中銀の定めるインフレ目標の下限近傍で推移する展開が続いているものの、昨年後半以降の原油をはじめとする国際商品市況の底入れの動きに加え、短期的には昨年に新型コロナ禍対策として実施された物価対策の反動による上振れによるインフレ率の加速が見込まれる。こうしたことを受けて、中銀は14日に開催した定例会合において政策金利を0.25%に据え置くとともに、借入コストの低下を促す資金供給プログラム(FLP)も維持する一方、大規模資産買い入れ策(LSAP)に基づく追加的な資産購入を今月23日までに停止するなど「現在の金融緩和策の水準を引き下げる」ことを決定した。会合後に公表された声明文では、世界経済について「見通しは引き続き改善して輸出価格は下支えしている上、世界的に金融及び財政政策の緩和姿勢が続くなかで景気は下支えされており、ワクチン接種率の上昇も経済活動を活性化させる」一方、「一部の地域で感染再拡大による行動制限の再強化を迫られるなどリスクがくすぶる」との認識を示した。また、同国経済については「世界的な国境規制にも拘らず堅調に推移しており、経済活動の水準は新型コロナ禍の影響が及ぶ前の水準を回復している」とした上で、「家計及び企業部門ともに経済活動は堅調」との認識を示した。一方、物価動向については「過去にも4-6月及び7-9月には短期的に上振れすると繰り返し指摘したが、あくまで原油価格の高騰や供給不足、輸送コストの上昇といった一過性のものに留まる」との見方を示した。先行きについては「重大な経済的な打撃がなければ、生産能力の上昇が進む一方で労働力不足によりインフレ圧力が持続的に強まる」との見方を示す一方、「賃金の伸びが緩やかに留まる上、インフレ期待が固定化されていることを勘案すれば、中期的なインフレ動向には不確実性が残る」との見通しを示した。その上で、先行きの政策運営について「継続的な金融緩和がなければ中期的なインフレ率と雇用は目標を下回る可能性が高い」としつつ、「目標実現を巡るリスクを最小化する観点から金融緩和レベルを引き下げることが可能との認識に至った」として今回会合でのLSAP終了に至った。また、議事録(簡易版)によれば、LSAPの終了について「市場環境や市場機能の大幅な改善によりもはや必要がない」との認識が示された一方、FLPについては「政策金利に連動しており、金融政策の手段として引き続き有用」との認識が示されたことで継続が決まった模様である。なお、足下の国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)による量的緩和政策の見直し検討の動きを反映して米ドル高圧力が強まり、NZドル相場が調整する局面が続いているものの、今回の決定を受けて米ドルに対しては底堅い動きが期待される。また、日本銀行との政策の方向性の違いを勘案すれば、NZドルは日本円に対して堅調に推移することが見込まれる。

図表
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以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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