ニュージーランド中銀、7年強ぶりの利上げで新型コロナ禍対応から脱却

~中銀は「タカ派」姿勢を堅持するなか、弱含む展開をみせてきたNZドル相場の下支えが期待される~

西濵 徹

要旨
  • ニュージーランドでは8月、新型コロナウイルスの市中感染者が1名確認されたことを理由に全土で都市封鎖が実施された。政府は「短期戦」による事態収束を狙ったとみられたが、その後は新規陽性者数が急拡大する事態となった。他方、ワクチン接種の進展も追い風に、足下では最大都市オークランドを除いて行動制限は緩和されている。さらに、今月初めに政府は従来の「ゼロ・コロナ」戦略から「ウィズ・コロナ」戦略への転換を発表して行動制限の緩和に動いており、それに伴い景気の底入れを促す動きが確認されている。
  • 新型コロナ禍対応を目的に中銀は利下げや量的緩和政策に動いたが、不動産価格の上昇を招くなど副作用が顕在化してきた。中銀は年明け以降に規制強化、7月には量的緩和政策の終了など「正常化」を模索してきた。ただし、8月の都市封鎖決定を受けて中銀は8月会合での利上げを躊躇ったが、感染動向の改善を受けて、6日の定例会合で7年強ぶりの利上げに踏み切った。足下の国際金融市場は不安要素の山積を理由にNZドル相場は上値が抑えられているが、中銀の「タカ派」姿勢は相場を下支えすると期待される。

ニュージーランドにおいては、8月17日に感染力の強い変異株による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の市中感染者が1名確認されたことを受けて、当該感染者が滞在した同国北島のコロマンデル及び最大都市オークランドを対象に7日間、その他の地域を対象に3日間の都市封鎖(ロックダウン)に踏み切る動きをみせた(注1)。同国政府がこうした強硬策に動いた背景には、昨年来の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に際して、積極的な感染対策による感染封じ込めが図られたことに加え、それに伴い昨年10月の総選挙においてアーダーン政権を支える最大与党・労働党が大勝利を収めたことも影響したと考えられる(注2)。さらに、欧米をはじめとする主要国ではワクチン接種の進展が経済活動の正常化を後押しするなか、同国はワクチン確保に手間取る展開が続いたことで政権批判が強まってきたこともあり、強力な感染対策とワクチン接種の加速化を図ることで『短期戦』を狙ったとみられる。しかし、その後は新規陽性者数が急拡大するなど感染動向が悪化したため、当初は最長1週間とした都市封鎖を延長せざるを得なくなり、幅広い経済活動に悪影響が出ることが懸念された。なお、政府によるワクチン接種の加速化の動きも追い風に、今月4日時点における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は42.70%となっている上、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)は69.33%と約7割近い国民が少なくとも1回はワクチン接種を行う状況となっている。こうしたことも追い風に、8月末にかけて新規陽性者数は拡大傾向を強めたものの、その後は一転して頭打ちしているほか、9月上旬以降は死亡者数がゼロで推移するなど感染動向は改善している。よって、先月からは感染拡大の中心地である最大都市オークランドを除いて都市封鎖が解除されるなど行動制限が緩和される一方、オークランドについては感染が確認される状況が続いたことも影響して都市封鎖を継続させてきた。なお、全土を対象とする都市封鎖を受けて大きく下押し圧力が掛かった人の移動は底入れするなど、経済活動への悪影響は緩和している様子がうかがえる。さらに、アーダーン首相は今月4日の記者会見で『ゼロ・コロナ』戦略から『ウィズ・コロナ』戦略への転換を事実上宣言するとともに、オークランドを対象とする外出制限措置を維持する一方で行動制限を一部緩和するなど、経済活動の再開に舵を切る姿勢を示した。なお、感染再拡大前の同国経済は着実に底入れの動きを強めていたほか(注3)、全土を対象とする都市封鎖により景気は急ブレーキを余儀なくされたものの、上述のように早くも底入れの動きが確認されていることを受けて、中銀(ニュージーランド準備銀行)の動きに注目が集まっていた。

図 1 ワクチン接種率の推移
図 1 ワクチン接種率の推移

図 2 新型コロナの新規陽性者数・累計死亡者数の推移
図 2 新型コロナの新規陽性者数・累計死亡者数の推移

中銀は昨年来の新型コロナ禍を受けて、利下げ及び量的緩和政策の実施など政策を総動員して景気下支えを図ってきたものの、景気の底入れが進んでいることに加え、金融市場の『カネ余り』や低金利の長期化、新型コロナ禍による生活様式の変容に伴う住宅需要の拡大も追い風に不動産価格は上昇傾向を強めるなどバブル化が懸念されてきた。こうしたことから、中銀は4月から住宅ローンに対するLVR(ローン資産価値比率)規制を復活させたほか、5月以降は投資目的の住宅ローンに対する規制を一段と厳格化するなど、新型コロナ禍対策を目的に撤廃された規制を復活させるなど『正常化』を進めてきた(注4)。さらに、中銀は7月の定例会合において量的緩和政策である大規模資産買い入れプログラム(LSAP)の終了を決定するなど、新型コロナ禍対応を目的とする金融緩和の正常化に舵を切る動きをみせた(注5)。ただし、上述のように8月中旬に市中感染が確認されたことを理由に全土で都市封鎖が実施されるなど実体経済の下振れが避けられなくなったことを受けて、直後に開催された8月の定例会合においては、「金融緩和水準のさらなる引き下げが『最も後悔しない政策スタンス』」との考えを示すなど『出口』を強く意識する姿勢をみせる一方、「都市封鎖による不確実性が高まっていることを理由に」政策金利を据え置くなど難しい対応をみせた。その後は感染動向が大きく改善していることを受けて、中銀は6日の定例会合において政策金利を25bp引き上げて0.50%とする「金融緩和水準の引き下げ」を決定した。同行による利上げ実施は2014年7月以来、7年強ぶりとなる。会合後に公表された声明文では、世界経済について「財政及び金融政策の下支えにより回復が続いている」としつつ、「感染動向を巡る経済への不確実性は依然高いが、コスト増圧力の高まりを理由に一部の中銀で金融緩和の縮小が始まっている」との認識を示した。他方、同国の感染動向については「ワクチン接種の進展を受けて改善しており、さらなる接種率の向上により経済への悪影響は低下が期待される」とした。その上で、行動制限の再強化による実体経済への影響について「物価及び雇用への中期的な見通しを変えておらず、労働需給のひっ迫が続くなか、足下では幅広い経済指標で景気の堅調さが確認されている」との認識を示した。なお、景気動向については「全土での都市封鎖により急ブレーキが掛かったが、家計及び企業のバランスシートの堅牢さに加え、財政支援に加えて交易条件の改善が続いており、行動制限の緩和により素早い景気回復が見込まれる」との見通しを示す一方、「オークランドでは影響が続いており、国内外の経済活動にも引き続き影響が懸念される」とした。物価動向については「短期的には国際原油価格の上昇や輸送コストの上振れ、供給不足などの影響で4%を上回るが、中期的にはインフレ目標に収束する」との見通しを維持している。先行きの政策運営についても「物価及び雇用の中期的な見通しに拠るものの、時間を掛けつつ金融緩和の水準を一段と引き下げることが期待される」として、継続的な利上げ実施に含みを持たせる姿勢を示した。足下の国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)による量的緩和政策の縮小のほか、中国の不動産大手の恒大集団のデフォルト(債務不履行)懸念や中国経済の減速懸念など不安材料が山積しており、NZドル相場の上値が抑えられる展開が続いているものの、中銀の『タカ派』姿勢が確認されたことは先行きのNZドル相場を下支えすることが期待される。

図 3 住宅販売価格の中央値(前年比)の推移
図 3 住宅販売価格の中央値(前年比)の推移

図 4 NZ ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
図 4 NZ ドル相場(対米ドル、日本円)の推移

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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