中国、党大会まで1ヶ月半と政治の季節が近付くも、コロナ禍は続く

~コロナ禍と記録的猛暑が景気の足かせとなるなか、過去の経験則を当てはめにくい難しい状況に~

西濵 徹

要旨
  • 中国では、10月16日に共産党大会が開幕するなど政治的に重要な時期が近付いている。ただし、足下の中国は依然としてコロナ禍の真っ只中にあり、産業のハブとなる都市で感染拡大が確認されて局所的に都市封鎖など行動制限が実施される動きもみられる。また、記録的猛暑や少雨を理由とする電力不足も顕在化しており、コロナ禍対応と電力不足が経済活動の足かせになるなど難しい状況に直面している。
  • 8月の製造業PMIは49.4と2ヶ月連続で50を下回る水準で推移しており、足下の生産活動は弱含んでいる上、国内外の受注動向も力強さを欠く展開が続く。非製造業PMIは52.6と引き続き50を上回る推移が続くも、建設業、サービス業ともに頭打ちの様相を強めており、当局のコロナ禍対応や猛暑が企業活動の足かせとなっている。幅広く雇用調整圧力がくすぶるなど家計消費の重石となる状況は続いている。回復が期待された中国景気の浮揚の道のりはこれまで以上に難しくなっている様子がうかがえる。
  • 金融市場においては、財政及び金融政策を通じた景気下支えを期待する向きが強く、財政部及び人民銀は政策対応を強化している。ただし、米FRBなど主要国中銀がタカ派傾斜を強めるなかでの金融緩和は資金流出を惹起し、人民元安が物価高を招くリスクもくすぶる。過去の経験則が通じない可能性も高まっている。

中国では今年、5年に一度の党大会(中国共産党第20回全体会議)の開催が予定されており、習近平指導部が異例の3期目入りを確実にしているとみられる。なお、今月初めには河北省の北戴河において現指導部や長老などと次期指導部の人事などに関する意見交換が行われた。引き続きコロナ禍対応が続いている上、米中対立や台湾問題の激化などが懸念されるなど国内外で問題が山積するなか、現状の対応を維持、強化する観点から習近平指導部の3期目入りに異論は出なかったとされる。また、30日に開催された党中央政治局会議において党大会を10月16日から開催することが決定されるとともに、その1週間前の10月9日から第19期党中央委員会第7回全体会議(7中全会)を開催し、2期目の総括と3期目人事の最終調整が行われるなど政治的に重要な時期が近付いている。他方、年明け以降の同国では感染力の強い変異株による新型コロナウイルスの感染が再拡大したほか、世界的にはワクチン接種を前提に経済活動の正常化を目指す『ウィズ・コロナ』戦略が採られているものの、中国では中国製ワクチンの接種が進む一方、人口に対する陽性者数は他国と比較して低水準に留まるなど集団免疫にほど遠い状況にある。さらに、地方部などは依然として医療インフラが脆弱であり、当局はこうした地域が感染爆発状態に陥り深刻な影響が出ることを警戒しているとみられ、結果的に『ゼロ・コロナ』戦略の旗を降ろすことが出来ない状態にあると考えられる(注1)。なお、一時は最大都市の上海市など多くの都市で事実上の都市封鎖(ロックダウン)が実施された結果、国内外でサプライチェーンが混乱するなど幅広い経済活動に深刻な悪影響が出たものの、5月中旬以降は感染拡大一服を理由に段階的に解除されて混乱の収束が進むことが期待された。しかし、その後も感染が確認される度に大規模な検査及び感染者を対象とする隔離が実施される動きがみられるほか、足下では広東省深圳市のほか、遼寧省大連市、四川省成都市など産業のハブとなる都市で相次いで感染が確認されるとともに、局所的ながら都市封鎖が再開されるなど経済活動に悪影響が出る動きも確認されている。多くの国が『ポスト・コロナ』に向けて大きく動き出す流れが広がりをみせているものの、当初の感染拡大の中心地である中国は引き続きコロナ禍を抜け出せない状況にあると判断出来る。さらに、今夏は記録的猛暑と少雨が続くなかで電力不足が顕在化しており、水力発電への依存度が高い重慶市や四川省では電力不足を理由に工業用電力の計画停電が実施されるなど、生産活動に悪影響が出る事態となっている。

図表1
図表1

こうした状況は、回復が期待されたサプライチェーンの混乱を通じて製造業の生産活動に悪影響を与えることが懸念されるなか、31日に国家統計局が公表した8月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.4と前月(49.0)から+0.4pt上昇したものの、2ヶ月連続で好不況の分かれ目となる50を下回る推移となるなど勢いを欠く展開が続いている。足下の生産動向を示す「生産(49.8)」と前月(49.8)から横這いで推移しており、2ヶ月連続で50を下回る推移が続くなど減産圧力がくすぶる展開となっている。なお、先行きの生産に影響を与える「新規受注(49.2)」は前月比+0.7pt、「輸出向け新規受注(48.1)」も同+0.7pt上昇するなど国内外で受注に底打ち感が出る兆候はみられるものの、どちらも引き続き50を下回る推移となるなど需要の回復力に乏しい状況が続いている。また、生産活動が弱含む推移をみせていることを反映して「購買量(49.2)」は前月比+0.3pt、「輸入(47.8)」は同+0.9ptとともに上昇しているものの、こちらも引き続き50を下回る水準で推移するなど、中国向け輸出に対する依存度が高い国々にとって景気の足かせとなる展開が続いている。さらに、こうした製造業の需要の弱さを反映して「購買価格(44.3)」は前月比+3.9pt上昇するも引き続き50を大きく下回る推移をみせており、資源国にとっては商品市況の回復力の乏しさが景気の重石になっていると捉えられる。原材料価格の上昇を受けて「出荷価格(44.5)」は前月比+4.4pt上昇しており、当局による事実上の規制で国内向けについては価格転嫁が難しい状況が続く一方、海外向けを中心に価格転嫁が進んでいるとみられ、結果的に世界的なインフレの一助となっている可能性もある。他方、減産の動きが続いていることを反映して「完成品在庫(45.2)」は前月比▲2.8pt低下するなど在庫調整が進んでおり、在庫復元余力は大きいと捉えられる一方、「雇用(48.9)」は同+0.3pt上昇するも引き続き50を下回るなど雇用調整圧力がくすぶる展開が続いており、家計消費の回復が遅れる状況は変わっていないと捉えられる。さらに、「サプライヤー納期(49.5)」も前月比▲0.6pt低下して3ヶ月ぶりに50を下回る水準となるなど、当局によるコロナ禍対応がサプライチェーンの混乱を招く状況が続いている。その意味では、同国経済は引き続きコロナ禍の真っ只中にあると言える。

図表2
図表2

一方、8月の非製造業PMIは52.6と3ヶ月連続で好不況の分かれ目となる50を上回る推移が続いているものの、前月(53.8)から▲1.2pt低下している上、2ヶ月連続で低下するなど頭打ちの様相を強めている。比較的堅調な動きをみせてきた「建設業(56.5)」は前月比▲2.7ptと大幅に低下しており、記録的猛暑が続くなかで当局によるインフラ関連を中心とする公共投資の拡充計画にも拘らず進捗に影響が出ていることが足かせになっている。他方、「サービス業(51.9)」も前月比▲0.9ptと2ヶ月連続で低下しており、サービス業のなかでは行動制限が一旦緩和されたことを反映して宿泊関連、飲食関連のほか、IT関連や放送関連、金融関連で堅調な動きがみられる一方、不動産関連は弱含むなど業種ごとの跛行色は鮮明になっている。しかし、月半ば以降は南部の海南省や北西部の新疆ウイグル自治区など観光地において感染再拡大を理由に移動制限が課されており、先行きに対する不透明感はくすぶる。さらに、足下においてはコロナ禍対応を目的とする行動制限が経済活動の足かせとなる動きが広がりをみせており、実態は一段と悪化している可能性も考えられる。足下の企業活動に下押し圧力が掛かっている上、先行きの企業活動に影響を与える「新規受注(49.8)」は前月比+0.1pt、「輸出向け新規受注(48.9)」も同+3.8pt上昇するなど受注動向に底打ち感が出ているものの、ともに50を下回る推移が続くなど依然として力強さを欠く展開が続いている。また、商品市況の底打ちの動きを反映して「投入価格(50.0)」は前月比+1.4pt上昇する一方、「出荷価格(49.6)」は同+0.2ptの上昇に留まっており、当局による事実上の規制の動きが原材料価格の上昇による製品価格への転嫁を難しくしているとみられる。さらに、行動制限の強化によるサプライチェーンの混乱を反映して「サプライヤー納期(49.7)」は前月比▲1.0pt低下して3ヶ月ぶりに50を下回る水準となるなど、先行きの経済活動の足かせとなる可能性はくすぶる。また、企業マインドの悪化を反映して「雇用(46.8)」は前月比+0.1ptとわずかな上昇に留まるとともに、引き続き50を下回る推移が続くなど調整圧力がくすぶるなど、製造業とともに雇用回復の遅れが家計消費の足かせとなる状況は続いている。なお、製造業、非製造業ともに企業マインドが弱含む推移が続いていることを反映して、8月の総合PMIは51.7と前月(52.5)から▲0.8pt低下しており、回復が期待された中国経済に再び下押し圧力が掛かるなど、景気浮揚の道のりは容易でなくなっている(注2)。

図表3
図表3

国際金融市場においては、中国景気に対する不透明感が強まる度に、当局が何らかの景気刺激策を打ち出すことにより景気浮揚を図るとの思惑が根強くある。財政部も先行きの政策運営を巡って、需要拡大に加えて雇用及び物価の安定に向けた取り組みを強化する方針をあらためて強調しており、具体策として地方政府による特別債の有効活用のほか、政策金融機関(国家開発銀行、中国農業発展銀行、中国輸出入銀行)を通じた支援拡充などを謳う一方、地方政府による『隠れ債務』については厳しく抑制する方針を示しており、世界金融危機後に実施した巨額の財政出動がその後の過剰債務の元凶となったことに配慮しているとみられる。ただし、地方政府のなかには当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥に伴う対策費や都市封鎖の実施が財政の圧迫要因となっているほか、財政面で『打ち出の小槌』となってきた不動産関連収入も需要低迷により下押し圧力が掛かるなど、極めて厳しい状況に直面している。中銀(中国人民銀行)は政策金利の引き下げを決定するなど景気下支えに動いているものの(注3)、足下の企業マインドは弱含む展開が続いている上、先行きに不透明感がくすぶるなかで回復が進むかは見通しが立たない状況にある。国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が物価抑制を最優先課題に据える考えを強調したほか(注4)、主要国中銀もタカ派傾斜を強めるなかでの中国による『逆走』は資金流出を惹起させる可能性もあり、結果として人民元安が進むことでインフレを一段と昂進させることも考えられる。その意味では、中国経済に過去の経験則を当てはめる形で景気浮揚を図ることは難しくなっていることは間違いないと言える。

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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