アルゼンチン、デフォルト回避へ模索が続くも、先行きの道のりは険しい

~IMFとの債務再編合意も、ウクライナ問題を機に市場環境は一段と厳しさを増す展開が続く~

西濵 徹

要旨
  • アルゼンチンは昨年、パリクラブ向け債務のデフォルトが懸念されたが、返済条件の交渉合意によりデフォルトは回避された。他方、政権を取り巻く状況は厳しさを増したが、その後もフェルナンデス政権はIMF及びパリクラブとの債務再編交渉を継続させた。IMFとの交渉は今年1月に基本合意、今月には最終合意に至った。また、今月末に迫ったパリクラブとの債務再編交渉も3ヶ月延長で合意し、デフォルトは回避された。
  • 他方、国際金融市場ではウクライナ問題の激化を機に新興国を取り巻く状況は厳しさを増している。インフレ警戒やIMFとの合意履行を理由に中銀は今年3度目の利上げ実施に動いたが、金融市場では通貨ペソ相場が最安値を更新するなど物価安定に歯止めが掛からない事態が懸念される。昨年は17年ぶりの高成長となるも、経済を取り巻く状況は厳しい展開が続いており、政府・中銀は難しい対応を迫られる場面が続こう。

アルゼンチンは昨年5月、日米欧など主要22ヶ国で構成されるパリクラブ(主要債権国会議)への支払い期限を迎えた債務(約24億ドル)について、金利負担の重さを理由に返済を拒否する動きをみせるなど10度目のデフォルト(債務不履行)に陥る懸念が高まった。しかし、翌6月に両者は今月末まで返済条件に関する交渉を継続するとともに、アルゼンチン政府が債務の一部(4.3億ドル)を今月末までパリクラブに支払うことに合意し、デフォルトに陥る事態は回避された(注1)。その後、昨年9月に実施された国会議員予備選挙ではフェルナンデス政権を支える与党連立(全国民のための戦線)の得票率が野党連合(変革のために共に)を下回り、これを受けて最大与党である正義党内の分裂が表面化した。さらに、昨年11月の国民議会上下院の中間選挙では与党連立が大敗を喫したほか、議会上下院ともに与党が少数派に転じることで政権と議会が『ねじれ状態』となり、政権運営を巡る不透明感が高まった(注2)。なお、同国は2018年に当時のマクリ前政権がIMF(国際通貨基金)から総額571億ドル規模のSBA(スタンドバイ取極)に基づく金融支援を受け入れたものの、翌19年に誕生したフェルナンデス現政権はIMFに対して債務再編を要求したことで同国への支援は『ふりだし』に戻った経緯がある。ただし、フェルナンデス政権はIMFとの債務再編交渉を前進させるべく、グスマン経済相が主導する形で緊縮財政路線を維持するなど国際金融市場に配慮した穏健な政策運営を志向する姿勢をみせてきた。その一方、フェルナンデス副大統領を中心とする与党内の急進左派は元々IMFとの対立も厭わない姿勢をみせるなか、政権に対して圧力を掛ける動きをみせたことでIMFとの交渉が難航することが懸念された。こうしたなか、今年1月にアルゼンチン政府とIMFは445億ドル規模の債務再編で基本合意したほか、その後の詰めの協議を経て今月初めには最終合意に至り、返済開始時期が2026年に先送りされるとともに返済完了時期も2034年に後ろ倒しされる(IMFは今月25日の理事会で計画を承認)。また、上述したようにパリクラブ向け債務(約20億ドル)は今月末に交渉期限を迎える予定であったものの、今月22日に両者は交渉期限を3ヶ月延長して6月末とすることで合意しており、デフォルトに陥る事態は再び回避されている。

他方、足下の国際金融市場においては、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて欧米諸国などがロシアへの経済制裁を強化したことをきっかけに、原油をはじめとする国際商品市場の上昇が世界的なインフレ懸念を招くとして、米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめとする主要国中銀がタカ派姿勢を強めており、新興国を取り巻く状況は厳しさを増すことが懸念されている。なお、アルゼンチンは大豆をはじめとする穀物輸出国であり、このところの穀物価格の上昇は交易条件の改善を通じて景気の下支えに繋がることが期待される。ただし、過去に行われた野放図な政策運営を理由に、同国経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は極めて脆弱な状況にあるなか、足下のインフレ率は極めて高水準で推移しており、ウクライナ問題の激化をきっかけとする国際原油価格の上昇を受けて一段の上振れが懸念される。こうしたことから、中銀は22日に政策金利を200bp引き上げて44.5%とするなど、今年3度目となる利上げ実施に動いているものの、物価高と金利高の共存は景気に冷や水を浴びせることが必至であるなど難しい政策対応を迫られる展開が続いている。中銀の対応はIMFとの債務再編合意に基づき、実質金利のプラス化が経済目標に盛り込まれていることが影響しているものの、足下ではウクライナ問題の激化を機に穀物やエネルギーのみならず、肥料など幅広い分野でインフレが顕在化しており、インフレ率の一段の上振れが避けられないなかで目標が実現出来るかは見通しが立ちにくい状況にある。さらに、中銀の金融引き締めにも拘らず、国際金融市場において通貨ペソ相場は引き続き最安値を更新する展開が続いており、これは輸入物価を通じてインフレ昂進を招くことを勘案すれば、インフレに歯止めが掛けられない事態も懸念される。昨年の経済成長率は+10.3%と17年ぶりの高い伸びとなり、足下の実質GDPの水準はコロナ禍前の水準を回復しているものの、同国経済は2018年以来長きに亘って厳しい環境に晒されており、依然としてそれ以前の水準を下回る展開が続くなど苦境に見舞われる状況は変わっていない。国際金融市場を取り巻く環境を勘案すれば、先行きもアルゼンチンにとって優しい展開となる可能性は極めて低く、アルゼンチン経済及び政府、中銀にとっては厳しい状況が続くことは避けられそうにない。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 ペソ相場(対ドル)の推移
図 2 ペソ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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