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2021.04.12
新興国経済
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ペルー大統領選は決選投票に持ち越し、急進左派に振れるリスク
~感染再拡大で経済の見通しも立ちにくいなか、次期政権は経済の行方を大きく左右する可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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- 南米では変異株による新型コロナウイルスの感染再拡大の動きが広がるなか、ペルーでも感染者数とともに死亡者数も拡大する事態に直面している。同国では昨年政治混乱が表面化したが、暫定大統領の下で大統領選の着実な実施と経済安定を図る取り組みが進められてきた。足下の経済は最悪期を過ぎるも回復感に乏しく、足下の感染再拡大を受けて経済立て直しの道筋も立てられない極めて厳しい状況が続いている。
- 11日に実施された大統領選では、ここ数年の政界汚職に加えてワクチン接種を巡る不正を受けて国民の政治不信が極まるなかで本命不在となった。出口調査では何れの候補も過半数の票を得られず、上位2名による決選投票に持ち込まれる見通しであり、トップは急進左派の小学校教師カスティジョ氏、ケイコ・フジモリ氏とデソト氏が次点で追い掛けている。仮に急進左派政権が誕生すれば対米関係に不透明感が高まり、通貨ソル安がインフレ圧力を招くなどのリスクも高まるなど、その行方は同国経済を左右すると考えられる。
年明け以降の南米では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染力の強い変異株が広がりをみせており、多くの国で感染が再拡大する事態に見舞われるなか、ペルーにおいても感染が再拡大するとともに、死亡者数の拡大ペースも加速するなど状況は厳しさを増している。同国では昨年11月、ビスカラ元大統領がモケグア県知事時代の公共工事を巡る収賄疑惑を理由に議会で罷免決議が可決されて失職したため、議会議長であったメリノ氏が大統領に昇格するとともに、元議会議長のフローレス氏を新首相に据える形で新政権が発足した。しかし、昨年1月に実施された総選挙後は多数の政党が濫立するなど議会内の分断が鮮明になるなか、政党間の権力争いが激化したことに加え、メリノ氏の大統領就任に対する反対運動が各地で激化する事態となり、メリノ氏は6日間で退任を余儀なくされる事態となった。その後、議会は中道派議員のサガスティ氏を新たな暫定大統領に選出して政治混乱は収束するとともに 1、トレド元政権下で女性社会開発省の副大臣を務めたベルムデス氏を首相に据えたほか、経済財政相など主要閣僚にテクノクラートを配置する形で内閣が発足した。なお、サガスティ政権は大統領選及び総選挙の実施を通じた政治安定に加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い疲弊した経済の立て直しが求められたが、感染拡大が続くなかで緊急事態宣言を度々延長する事態に追い込まれるとともに、首都リマ周辺では都市封鎖(ロックダウン)が実施されるなど難しい対応が続いた。先月半ばには首都リマなどで警戒レベルが引き下げられた(極限警戒レベル→最上級警戒レベル)ほか、国際線の運航が再開される動きがみられる一方、別の地域では警戒レベルが引き上げられて様々な経済活動が制約されるなど(最上級レベル→極限警戒レベル)、依然として事態収束の見通しが立たない状況が続いている。昨年の経済成長率は▲11.1%と1998年以来となるマイナス成長となるとともに、マイナス幅は1989年(▲12.3%)以来の水準となるなど深刻な景気減速に見舞われたものの、昨年10-12月の実質GDP成長率は前年比▲1.7%と4-6月(同▲30.0%)から大幅にマイナス幅が縮小するなど景気は底入れの動きをみせてきた。企業マインド統計も昨年半ばに過去に類をみない水準に低下したものの、その後は改善するなど景気の底入れを示唆する動きがみられたものの、足下においても依然として世界金融危機直後を下回る水準に留まるなど、経済の立て直しに向けた道筋は立たない状況が続いている。
こうしたなか、11日に実施された大統領選には当初の段階で過去最多の22人が立候補する事態となり、その後に数名が立候補を取り消すも最終的に18人もの候補が4ヶ月強に及ぶ選挙戦を繰り広げる異常な状況が続いた。なお、同国では2016年の総選挙を経て『反フジモリ派』の中道右派政権が成立したが、クチンスキ元大統領は汚職疑惑で大統領の辞任に追い込まれたほか、一連の汚職疑惑にはクチンスキ氏のほか、野党指導者のケイコ・フジモリ氏をはじめとする多数の政治家が関わるなど深刻な政界汚職が表面化した。さらに、後任のビスカラ元大統領は政治改革を標ぼうする姿勢をみせたものの、上述のように汚職疑惑を理由に大統領職を罷免される事態となり、国民の間には既存の政治家に対する拒否感が高まっている。また、ワクチン接種も進まないなかで2月には在任当時のビスカラ元大統領が国民に非公表で中国製ワクチンを接種していたことが明らかになりマセッティ元保健相が辞任を表明したほか、その後もマセッティ氏やアステテ前外相といった主要閣僚のほか、公務員など計487人が国民に非公表で中国製ワクチンを接種するなど『抜け駆け』の動きも発覚して政治不信の深刻化に繋がった。事実、選挙戦当初に行われた世論調査では元サッカー選手のジョージ・フォーサイス氏がトップを走ったほか、その後の選挙戦においても各候補が汚職問題をテーマに掲げる一方、政策面などではポピュリズム(大衆迎合)色の強い公約を掲げる候補が多数に上るなど大統領選は『本命不在』の様相をみせてきた。出口調査の結果によると、いずれの候補も当選に必要な半数を上回る得票率を満たしておらず、6月6日に実施される上位2人による決選投票に持ち越される見通しだが、上述のように政治不信が深刻化するなかで次期政権の方向性は大きく振れることが懸念される。出口調査で首位に立ったのは教員組合出身の小学校教師で急進左派のペドロ・カスティジョ氏となり、仮に同国で急進左派政権が誕生する事態となれば昨年に実施されたやり直しの大統領選挙を経て1年ぶりに左派政権に回帰したボリビアに続いて南米で左派政権が誕生するうねりが広がることを意味する。他方、次点にはケイコ・フジモリ氏とフジモリ政権下で経済顧問を務めた中道右派の経済学者であるエルナンド・デソト氏が同率で続いているほか、4位には中道左派の元国会議員ながらポピュリズム色の強いジョニー・レスカノ氏、5位には超保守派のラファエル・ロペスアリアガ氏と混戦模様となっている。なお、ケイコ・フジモリ氏を巡っては先月、過去の大統領選出馬に際してブラジル企業から受け取った資金のマネーロンダリング(資金洗浄)の容疑で起訴され禁錮30年10ヶ月を求刑されるなど有罪判決を受ける可能性がある一方、当選すれば在任中の人権侵害事件で服役中の父アルベルト・フジモリ元大統領の恩赦を実施するなどの公約を掲げる。政治不安の顕在化に加え、新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて経済の先行きに対する見通しが立たない状況を反映して年明け以降の通貨ソル相場は調整局面が続いたものの、今月に入って以降は一転して上昇するなど不自然な動きをみせている。同国経済を巡ってはGDPに占める輸出比率が25%弱であるなど輸出依存度が比較的高い上、財輸出の6割を銅などの鉱物資源が占めるなど国際商品市況の動向に左右されやすいため、足下の市況底入れの動きは通貨ソル相場の追い風になると期待される。他方、仮に急進左派政権が誕生すれば米バイデン政権との関係に影響を与える可能性がある上、米バイデン政権が環境問題を外交戦略の柱に据えていることも同国との関係に少なからず影響を与えることも懸念される。通貨ソル相場の調整は慢性的な経常赤字状態にある同国経済にとっては輸入物価の押し上げを通じたインフレ圧力となることが懸念されるなか、足下のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標の上限近傍で推移している。新興国では先月以降にブラジル2 、トルコ 3、ロシア4 で通貨安定と物価安定を目的に金融引き締めに動く流れがみられるが、ペルー中銀は昨年200bpもの大幅利下げを実施して景気下支えに動いたものの、早晩金融引き締めに転じる事態に追い込まれる可能性も予想される。その意味では、大統領選の行方は同国経済の動向を大きく左右することは間違いないと言えよう。
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1 2020年11月19日付レポート「ペルー、政治混乱は一旦収束も、経済回復の道のりは極めて遠い」
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2 3月18日付レポート「ブラジル中銀、早くも金融政策の正常化プロセスに突入」
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3 3月19日付レポート「トルコ中銀、インフレリスクとリラ安懸念に対し敢然たる大幅利上げ」
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4 3月22日付レポート「ロシア中銀、インフレの顕在を受けて利上げとスタンス中立化を決定」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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