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先進医療の実施数は不妊治療関係を中心に増加

~着床前検査は事例数が目標に達した模様~

重原 正明

目次

2024年6月末までの1年間の先進医療の実施実績が、2024年12月の先進医療会議の資料として公表されている。先進医療は保険適用されていない技術を含む治療について、その技術以外の部分に保険適用を認める、混合診療のしくみの一つである。新しい医療技術が保険適用となるかどうかの判定過程の一つとして位置づけられる。

特に2022年4月の不妊治療の保険適用以降、不妊治療の関連技術が数多く先進医療として認められており、先進医療全体の実施費用にも大きな影響を与えている。本レポートでは先進医療の実績の前年度との比較を行い、不妊治療関係を中心として先進医療の動向を見る。

1.2024年6月末まで1年間の実績は、技術数が減ったにも関わらず件数・金額は増加

2024年6月末までの1年間(以下「2024年度」)の先進医療の実績は、前年度(以下「2023年度」)の実績と比べて、全患者数(=実施件数)、総金額、先進医療及び旧高度先進医療の総額の3点とも増加した(資料1)。

図表1
図表1

2024年4月に診療報酬改定が行われ、先進医療のうち4種類の技術が新たに保険適用となる(保険収載)とともに、2024年度内で1種類が廃止、7種類が実施取り下げとなっている。新規に先進医療となった技術は7種類で、先進医療の技術数は2024年度間に差し引き5種類減って、81種類から76種類となっている(注1)。対象となる技術数は減っているが、先進医療部分の実施の件数・金額でみると、それぞれ前年度に比べて2024年度はわずかに増加することとなった。

2.不妊治療の周辺技術の増加が主な要因

対象となる技術数が減っているにも関わらず、実施の件数・金額とも増加しているのはなぜか。先進医療の技術ごとの増減について、主なものを抜き出すと資料2の通りとなる。なお金額は以後特に断らない限り、先進医療部分の金額とする。

図表2
図表2

先進医療技術で、実施件数・金額を大幅に増やしているのは、主に2024年4月以降に追加された不妊治療の周辺技術(資料2の色付き部分)である。

金額で一番増加幅が大きいのは、タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養技術である。受精卵や胚の成長をコマ落としで撮影して観測するという技術である。比較的わかりやすい技術であること、患者の体や受精卵・胚に手術のような物理的な操作を加えるものでないこと、装置を導入してしまえば人手があまりかからないと考えられることなどが、普及の原因と思われる。

また子宮内の検査・処置の実施が増加している一方、受精に適した精子を選別する技術3つ(下線部分)が伸びており、男性要因による不妊への対応が進んでいることが伺われる。不妊治療への保険適用によって、男性側の不妊対策について体制が整備されてきたのであれば、好ましいことであると考える。

着床前検査についても大きく伸びているが、これについては次章で述べる。

3.着床前検査は予定実施数に達する見込みで、結果の分析へ

先進医療は比較的危険度が低い先進医療Aと、より危険な可能性がある先進医療Bがあり、先進医療Bについては、予定実施数などを含む実施計画の提出が求められる。

着床前胚異数性検査(以下「着床前検査」)は、体外受精した胚を母体に戻す前に、その染色体の数に異常がないか調べる技術であるが、不妊治療の周辺技術の中で先進医療Bに指定されている数少ない技術である。着床前検査は、先進医療指定が2023年4月で、2023年6月までの統計上の2023年度では3か月の期間しかなく、2024年度(2023年7月以降)になって本格的に行われるようになった。前年度は5件の実施だったのが332件の実施に増加、先進医療総額でも1億円に迫る金額となっている。

実施計画では、2028年3月末までに、383人に着床前検査(PGT-A)を実施するとなっていたが、その目標は予定より早く達成されたものと思われる。見込み数に見合う患者の受付が行われたとのことで、すでに先進医療としての新規の受付は2024年3月時点で停止されている(注2)。今後は保険適用に向けて、着床前検査実施者が妊娠・出産に至ったか等の観察と、観察結果の分析が行われることになる。

予定より早く症例が集積されたことは、「妊活」の時間的・経済的負担への悩みの深さを物語るものと言えよう。費用対効果といった要素のほかにも、結果についての医師とのコミュニケーション(例えば正常数染色体細胞と異数染色体細胞の両方が存在する「モザイク胚」についての理解)など、考えなければならない課題は多いが、しっかりした議論の下に、着床前検査の保険適用に関する見解が示されることを期待したい。

以 上

【注釈】

  1. この段落に記した先進医療技術の増減は、厚生労働省(2024)による。

  2. 自費診療に関してはこの限りではないので注意されたい。

【参考文献】

重原 正明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

重原 正明

しげはら まさあき

総合調査部 政策調査G 研究理事
専⾨分野: 社会保障、リスク管理・保険数理

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