体外受精への保険適用の内容

~今後の焦点は着床前検査と患者サポート~

重原 正明

要旨
  • 不妊治療については体外受精についても保険適用とする方針が政府から示されていたが、2022年1月26日の中医協総会で費用(保険点数)を除いた具体的な案が示された。
  • 原因不明の不妊に対する治療は、体外受精のほか、子宮内で行う人工授精やタイミング法も含め保険適用となる。また男性に対する治療も保険適用となる。
  • ただし保険適用となる治療の内容は、学会のガイドラインで4段階のうち上位2 つ、A・Bクラスとして一定の効能があると認められた治療に限られる。その他の治療法の一部は、先進医療として実績を積み重ね保険適用を目指すこととなる。
  • 従来の不妊治療に対する助成金にあった年齢と回数の制限は、その合理性が認められ、ほぼ従来のまま残される見込みである。
  • 受精胚の着床前検査は、体外受精後の妊娠率向上に必要な面もあるが、一方で医学的に必要のない選択をもたらす可能性も指摘されている。中医協では慎重な意見が多く出されており、今回は保険適用されず継続検討となる見込みである。
  • 対象は戸籍上の夫婦のみならず事実婚の夫婦も含まれる。一方、第三者の卵子又は精子を用いた生殖補助医療等については、国会で検討中であることを踏まえ、現時点においては保険適用外となる見込みである。
  • 体外受精を行える医療施設の要件も中医協の場で議論された。胚を取り扱える技術者の配置などが求められる。一方、治療のコーディネーターや患者へのカウンセラーを要件とするか意見が対立していたが、今回改定では要件とはせず、カウンセラー等を備えた施設について報酬面で優遇する扱いとなる見込みである。
  • 4月からは現在50万円程度の体外受精が保険適用となれば3割負担で済む。保険対象の不妊治療者には朗報であるが、肉体的・精神的負担の大きさは変わらず、引き続きの支援が必要である。また保険適用の年齢制限等は科学的根拠に拠るが、日本では不妊治療を行う人の年齢が高い傾向にあり、本人や家族等の知識不足も一因と考えられる。保険適用を機に、妊娠に関する知識が様々な人に広まることも望みたい。
目次

1.はじめに

原因不明の不妊に対する体外受精などの治療への公的健康保険適用(以下「保険適用」)については、2020年12月に全世代型社会保障推進会議の「全世代型社会保障改革の方針」に明記されて形となり、その後各種審議会・学会等で具体的な検討が進められてきた。

そしてそれと並行する形で、保険適用基準の議論の場である中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、3回にわたって審議が行われ、2021年12月15日の総会において本年(2022年)4月からの保険適用の内容について合意がなされた。その後公聴会等を経て、2022年1月26日の総会において診療報酬の改定内容という形でより詳細な適用案が示された。診療の価格(保険点数)については決まっておらず、また細部は関連する適用指針等により規定される部分はあるが、適用内容の概略についてはほぼ決まったと言ってよい状態にある。

そこで今回のレポートでは、2021年12月15日および2022年1月26日の中医協総会資料に主に基づき、現時点で想定される不妊治療への保険適用の内容について解説する。併せて中医協での議論を踏まえ今後の論点となる事項についても検討を行う。

2.学会推奨範囲の人工授精などが保険適用の対象となる

不妊治療のうち、検査および原因が判明した場合の治療については、従来も保険適用がされていた。一方で、原因がわからない場合や原因の治療を行っても効果がなかった場合の不妊治療のうち、費用負担が大きい体外受精(顕微授精を含む、以下同じ)(注1)については、公的健康保険とは別に、2004年より公費による支援制度が行われている(図表1)。

図表 1 不妊治療の概略の流れと保険適用範囲
図表 1 不妊治療の概略の流れと保険適用範囲

今回は(図表1)の2番目の枠、つまり原因がわからない場合等の不妊治療が保険適用の対象となる。保険適用の対象には、これまで公費による支援制度の対象となっていた体外受精(付随する処置を含む)のほか、費用が比較的安いため公費助成の対象となっていなかった、女性の体内に精子を注入する人工授精やタイミング法といった「一般不妊治療」と呼ばれる治療も保険対象となる(注2)。体外受精等のために必要となる男性側への治療等も保険適用の対象となる。一方で、保険適用に伴い公費による支援制度は廃止の予定である(注3)。

ただし、例えば体外受精に関して行われている治療のすべてが保険適用となるわけではない。

保険適用にあたっては、日本生殖医学会の作成した不妊治療に関するガイドラインが参照された。ガイドラインでは、個別の治療法に対し効果をA,B,C,Dの4段階で判定しているが、そのうちAおよびBのもの、言い換えるとガイドラインで実施を推奨されているもののみが保険適用となる見込みである(図表2)(注4)。

図表 2 生殖保護医療(体外受精)の全体像(イメージ)
図表 2 生殖保護医療(体外受精)の全体像(イメージ)

また保険適用にならない治療法を行う場合でも、治療の一部について保険適用になる場合が生じる見込みである。

保険適用とならない、主にランクCの治療法の一部については、先進医療としての申請がなされる模様である。先進医療とは、保険の対象となっていない治療法・医薬品等について、保険の対象とすべきかどうかの判断のための実例を積み重ねる制度で、その治療自体は保険適用とならないが、それに付随する入院費などの保険適用対象の治療については保険の対象として認めるというものである。保険適用対象外の不妊治療手法の一部については、この4月から先進医療の扱いとなり、実績を積み重ねて保険診療の対象に加えられることを目指すと思われる。

3.年齢・回数の制限は現行の公的支援制度のものを踏襲

現行の公的支援制度で設けられている患者の年齢上限や施術回数に関する制限については、保険適用においても踏襲される見込みである。

現行の体外受精(顕微授精含む)に関する公的支援制度(「不妊に悩む方への特定治療支援事業」)では、支援の対象を「治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満の夫婦(事実婚含む)」としている。さらに支援の回数について、1子あたり6回まで(治療期間の初日における妻の年齢が40歳以上の場合は3回まで)という制限を設けている。

これは妻の年齢が高くなるほど体外受精から出産に至る成功率が低くなること、また累積して行った場合の成功までの回数といった統計データを勘案して決められたものであり、支援制度の効果、あるいは母体の負担などを考慮して判断されたものである。中医協の議論でも少子化対策の観点から反対する意見も出たが、多くの委員は賛成で、2022年1月26日の案でも診療報酬(生殖補助医療管理料)の算定要件として治療開始時の女性の年齢が43歳未満の場合を対象とすることが明記された。さらに同じ案の、体外受精後に行う胚移植に関する診療報酬の算定要件には、現行の公的支援制度と同じ回数制限が記されている。

また対象となる「夫婦」については、2021年1月以降、社会保険制度における取扱いを参考に、事実婚の場合も助成の対象に含むこととしている。具体的には、治療当事者両人の戸籍謄本(入籍状況の確認)、住民票(同一世帯であるかの確認)、事実婚関係に関する申立書の提出を求めるとともに、 治療の結果、出生した子について認知を行う意向があることを確認して、夫婦関係の存否を確認している 。保険適用においても、事実婚も含めた夫婦の不妊について保険適用が認められる見込みである。

ただし、保険適用となる体外受精は、夫婦自身から採取した精子・卵子の受精に限られることとなろう。第三者の精子または卵子を用いた不妊治療は実際に行われているが、法律的な親子関係の取扱いや、精子(卵子)提供者の情報を公開するかどうかといった問題がある(注5)。親子関係については議員立法により2020年12月に成立・交付された「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」(令和2年法律第76号)により一旦規定がされているが、同法律付則第3条で、精子等の第三者提供者に関する情報提供等を含め2年をめどに検討を行うことと定めており、国会で議論が継続中である。このことを踏まえ、第三者の精子または卵子提供による不妊治療は当面保険適用外となる方向である。

また2022年1月26日の案では「治療計画を作成し、当該患者及びそのパートナーに説明して同意を得る」「少なくとも6月に1回以上、当該患者及びそのパートナーに対して治療内容等に係る同意について確認する」などの要件が記されており、夫婦(事実婚含む)両者の合意に基づき、両者に対する治療を行うという考え方となっている。一面では男性側の理解がこれまで以上に必要となると考えられるが、男性が不妊治療に対して理解を深める機会が増えると考えることもできよう。

4.着床前検査は継続検討

体外受精の保険適用に関して問題になったこととして、受精した胚の遺伝子をあらかじめ検査して、その後の成長の上で問題のないものだけを子宮に戻して着床させるという「着床前検査」(注6)を認めるかどうかということがあった。

着床前検査は、特に遺伝的性質等から流産を繰り返すような夫婦の場合には、妊娠から出産に至る率を高め、母体の負担を軽くするというメリットがある。一方で、例えば男女の産み分けに使われるなど、医学的に必要のない選択が行われる危険もある。

中医協で議論が行われたが、日本産科婦人科学会でのガイドライン改定が作業中であったことなどを踏まえ、保険適用は当面見送られる。

日本産科婦人科学会は2022年1月9日に着床前検査に関する見解の改定版を公表しているが、条件付きで実施を認めるものとなっている。公表の記者会見で同学会の木村正理事長は着床前検査について先進医療への申請を検討中と表明したと報じられており(注7)、今後先進医療として行われることと思われる。

5.行える施設の基準も設定され、カウンセラーは必須とはしないが推奨

体外受精の保険適用に際してはそれを行える施設の基準も定められることとなる。

現在の公的支援制度では、対象医療機関は、都道府県等の長が、基準を定めて指定することとされている。そしてその指定基準設定においては、厚生労働省の指針を踏まえ、日本産科婦人科学会が定めた会告(学会の取り決め)等を参考にすることとされている。指針や会告では、施設の義務、施設・設備、人員配置、その他管理体制等について規定している。

そして、日本生殖医療学会の定める生殖医療ガイドラインでは、「採卵室・培養室」「医師およびスタッフ」「精子等の凍結保存施設」の3点について要件を示している。この指針、会告やガイドラインの要件に沿った形で、体外受精の行える医療施設の要件が、2022年1月26日の中医協総会資料で示されている。

施設要件に関して議論となったのが、指針や会告に「設置が望ましい」とされている、患者に対するカウンセラーや治療のコーディネーターの扱いである。中医協の議論では、支払側(健康保険者・被保険者等)から、患者に対するケアの重要性を強調する主張が行われた。一方、診療側(医師等)の委員からは、カウンセラー等を必須とした場合、不妊治療を保険診療として取り扱う医療施設が少なくなるのではないかとの懸念が示され、意見が対立していた。

2022年1月26日の案では、診療報酬(生殖補助医療管理料)の算定要件として「治療に当たっては、当該患者の状態に応じて、必要な心理的ケアや社会的支援について検討し、適切なケア・支援の提供又は当該支援等を提供可能な他の施設への紹介等を行うこと。」と患者へのケアを行うことを医療施設に求めている。一方でカウンセラー等の配置を施設の要件とはしなかったが、生殖補助医療管理料を2段階に分け、より高い管理料算定の要件として、ケアに関する専任の担当者の配置等を定めている(図表3)。

「必須ではないが望ましい」という形で不妊治療患者のケア制度は整備されたが、具体的なサポート体制が今後どう整えられていくのかは注目されるところである。

図表 3 生殖補助医療管理料算定のための施設要件案(抜粋)
図表 3 生殖補助医療管理料算定のための施設要件案(抜粋)

また、現在の公的支援制度の下で不妊治療実施医療施設に関する治療実績等の開示が行われていることを踏まえ、保険適用後も対象施設に関する開示が義務付けられる見込みである。

6.まとめー保険適用をきっかけに…

以上、現時点での不妊治療への保険適用について予想される内容を示してきた。

不妊治療の保険での価格(点数)は示されていないが、厚生労働省の調査によると、現状での体外受精1回にかかる費用は約50万円ということであり、現状に見合った価格が定められるものと思われる。現行全額実費の体外受精が保険適用となれば3割負担で済むことになり、対象者には朗報であろう。また2022年4月の診療報酬・薬価の改定においても、不妊治療にかかる診療報酬・薬価の増分はそれぞれ改定前の総額に対して0.20%、0.09%と、医療費全体の中では大きな増加要因とはならないと見なされている。保険適用でない治療法を行う(行っている)方には公的支援がなくなる分負担増となるが、全体としては子どもを持ちたい人への支援が広がることとなろう。

ただし費用面でのサポートは厚くなっても、患者への肉体的・精神的負担、通院時間の捻出といった治療自体の負担が減じるわけではない。社会全体で子育てを望む人を支えていく仕組みをより厚くしていく努力を続けることは、少子化対策として引き続き必要である。

また、保険適用には年齢制限・回数制限が設けられる見込みである。これは治療の成功率などといった、一定の科学的事実に基づくものである。

一方で、日本の体外受精受療者の年齢分布は、諸外国と比べて高い(図表4)(注8)。この理由としては、収入面やキャリア形成等を理由とした晩婚化、子どもを持ちたいと思うかどうかといった家族に関する意識の変化、自然妊娠志向などに加え、妊娠・不妊に対するカップル自身や周囲の人の知識不足が考えられる(注9)。

図表 4 不妊治療の患者の年齢の国際比較(2011 年)
図表 4 不妊治療の患者の年齢の国際比較(2011 年)

保険適用による不妊治療の標準化は、妊娠・不妊に対する知識を普及させるきっかけとなり得る。子どもを持ちたい人が持てるようにするために、若いときから子育てができるような収入面・就労面等の制度整備も重要であるが、知識を得る場の整備や知識の普及もまた重要であろう。

今回の不妊治療の保険適用を機に、妊娠・出産に関して男性・女性ともに知る・学ぶ場が増え、知識が大きく普及することを期待したい。

以 上

  【注釈】

1) 体外受精とは卵子を母体から取り出し体外で受精させた後、必要期間培養し、体内に戻す治療法。通常体外受精という場合には、精子と卵子を一緒に置き自然に受精させる方法を指す。これに対し、精子を卵子に人工的に注入して受精させる方法を顕微授精という。

2) タイミング法とは、排卵のタイミングを測ってそれに合わせて精子が注入されるようにすることで受精の確率を高める方法である。なお一般不妊治療の一部については、現在でも保険適用となっている。

3) 2022年3月以前に不妊治療を開始している人に対しては、公的支援制度からの移行措置として、4月以降に治療が続いた場合でも1回に限って支援制度が適用される。また地方自治体独自の支援制度もあるが、2022年4月以降の取扱いは各自治体の判断による。

4) 不妊治療の診療に関する保険適用に合わせて、治療で使用する薬剤に関しても、保険適用とすべく現在認証作業が進められているところである。

5) 第三者提供の精子・卵子による体外受精については、厚生労働省厚生科学審議会生殖補助医療部会で議論され、2003年5月に「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」が出された。当該報告書公表に際し、国では第三者提供の精子・卵子による体外受精について、法や制度の整備がされるまで当面自粛するよう関係学会に求めた。しかし法的な規制はなく、法的整備も進まないことから、そのような体外受精は実際には行われている。

6) 医学的目的からの着床前検査は、大きく①受精卵が子宮で発育しないこと(不妊症・不育症)への対策 ②親の遺伝子の特徴により重篤な遺伝性疾患を持った児が生まれる可能性のある場合の対策 の2つの場合で行われる。前者を「着床前検査」、後者を「着床前診断」と呼び分けることもある。このレポートでは両者とも「着床前検査」と呼ぶこととする。

7) 時事通信社JIJI.COM 「着床前検査、4月に開始 流産2回以上などに限定-日産婦が内規改定」2022年1月10日等参照。

8) 図表3の出所に挙げた”World Report: ART 2011” ICMARTは生殖補助医療に関する国際組織によるレポートであるが、以下の通り学術雑誌に掲載されている。 G. David Adamson et al. International Committee for Monitoring Assisted Reproductive Technology: world report on assisted reproductive technology, 2011 Fertility and Sterility VOLUME 110, ISSUE 6, P1067-1080, NOVEMBER 01, 2018

9) 不妊治療に対する心理的抵抗感も理由の一つであろうが、この多くは知識の充実によって解消されるものと考えられる。

【参考文献】

  • 重原正明「ここが知りたい-不妊治療への保険適用の持つ意味」『第一生命経済研レポート』(2021年4月号)第一生命経済研究所
  • 的場康子「働き方改革の視点-不妊治療と仕事との両立に向けて」『第一生命経済研レポート』(2021年2月号)第一生命経済研究所
  • 中央社会保険医療協議会総会(2021年12月15日)資料総-1「個別事項(その10) 不妊治療の保険適用(その3)」
  • 中央社会保険医療協議会総会(2022年1月14日)資料総-3「令和4年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(案)」
  • 中央社会保険医療協議会総会(2022年1月26日)資料総-2「個別改定項目について」
  • その他中央社会保障医療協議会総会他各審議会資料

重原 正明

重原 正明

しげはら まさあき

総合調査部 政策調査G 研究理事
専⾨分野: 社会保障、リスク管理・保険数理

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