ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

孤独・孤立問題の解決のために

~生活の変化に応じたライフデザイン見直しのすすめ~

後藤 博

目次

1.孤独・孤立対策推進法の施行

2024年4月1日から孤独・孤立対策推進法が施行された。この法律は、「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会」、「相互に支え合い、人と人の「つながり」が生まれる社会」を目指すべく、感染症の拡大や単身世帯の増加などによって深刻化する孤独・孤立問題への対応を定めたものである(注1)。

その基本理念は、①社会のあらゆる分野において対策の推進を図ること、②当事者や家族の立場に立った支援が継続的に行われること、③当事者等の意向に沿って社会や他者との関わりをもつことで孤独・孤立の状態から脱却して生活を円滑に営むことができるよう支援が行われることの3点であり、同法にはそのための国の責務、基本的施策、推進体制等が規定されている。

同法において、孤独・孤立の状態は「日常生活若しくは社会生活において孤独を覚えることにより、又は社会から孤立していることにより心身に有害な影響を受けている状態」(第1条)と定義されている。孤独はひとりぼっちと感じる主観的な概念、孤立は社会とのつながりがない・少ないという客観的な概念と整理されるが、現実に当事者がおかれた状況や感じ方は多様である。その意味でも「望まない孤独」と「孤立」を一体で捉え、多様なアプローチや手法で対応するとともに、孤独・孤立に至らないようにする「予防」の観点も重要だと指摘されている(注2)。

2.孤独・孤立の実態と孤独・孤立対策の現状

内閣府「人々のつながりに関する基礎調査」によると、現在孤独を感じる人(孤独であると感じることが「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」の合計)は約4割におよんでいる。

年代別にみると、20~50代の働き盛りでやや高くなっている(図表1)。また、経済的な暮らし向きが苦しいほど、心身の健康状態がよくないほど、社会活動に参加していないほど孤独感が高い(図表2、3、4)。経済的な暮らし向きが「大変苦しい」人の57.3%が、心身の健康状態が「よくない」人の68.4%が、町内会やボランティア、趣味の活動といった社会活動に「特に参加はしていない」人の44.4%が孤独を感じている。

図表1 年齢階級別孤独感(直接質問)
図表1 年齢階級別孤独感(直接質問)

表2 経済的な暮らし向き別孤独感(直接質問)
表2 経済的な暮らし向き別孤独感(直接質問)

図表3 心身の健康状態別孤独感(直接質問)
図表3 心身の健康状態別孤独感(直接質問)

図表4 社会活動への参加状況別孤独感
図表4 社会活動への参加状況別孤独感

このような実態を踏まえ、現在の孤独・孤立対策の指針の1つとして、「孤独や孤立に至っても支援を求める声をあげやすい社会とする」ということが掲げられている(注3)。「助けを求める情報を出すこと」が「困難やストレスをうまく対処し、復元する力」を獲得する手段となる文化の醸成につながると期待されている。

その指針のもと、政府によるこれまでの主な取組みとして、①政府一体となった政策の推進、②NPO等との連携、③情報発信の充実等が図られている。①政府一体となった政策の推進については、内閣府に孤独・孤立対策推進本部を置き、全省庁の副大臣で構成される孤独・孤立推進会議を開催している。また、孤独・孤立対策に取り組むNPO等に予算を付け、2024年度予算では、都道府県等を支援するための交付金が設けられた。

②NPO等との連携については、多様な官民の団体が協議する基盤として「官民連携プラットフォーム」を設立し、さらに「地方版孤独孤立対策官民連携プラットフォーム」も整備したうえで、関係団体と連携して統一的に24時間相談を受ける窓口体制を構築している。

③情報発信の充実については、各種の相談先を一元化し、情報発信をするホームページを公開している。

3.生活者個人が対応できること

現代社会では、血縁・地縁・社縁など人とのつながりが希薄になり、誰もが孤独や孤立に陥りやすい状況にある。孤独や孤立は、心と体の健康に悪影響を及ぼすことが知られており、個人による解決だけに委ねず、社会全体で取り組むべき課題といえる。

国や地方自治体に孤独・孤立対策の策定と実施の責任がある一方で、国民一人ひとりにも、孤独・孤立の状態にある者に対する関心と理解を深め、国や自治体の施策に協力するよう求められている。これには、孤独・孤立対策のウェブサイト等を通じて理解を深めることや、啓発活動に参加することなどが含まれる。知識を得て、それを他人と共有することは、孤独や孤立を避け、レジリエンス(困難に対する適応力)を高める助けとなる。

政府は、24時間対応の相談窓口の設置に向けて準備を進めている。政府(内閣府孤独・孤立対策推進室)が運営する「孤独・孤立対策ウェブサイト」では、孤独や孤立に悩む人々を支援するための情報を提供している(図表5)。これには、支援制度や相談窓口の情報を一元化し、探しやすくするという機能がある。

このサイトは、150以上の支援制度や窓口から、自分の状況に合った支援を探す手助けをしてくれる。自動応答システム(チャットボット)により、利用者を適切な支援制度や相談先へ案内する。また全国調査の結果や専門家からのアドバイス、よくある質問への回答なども掲載している(注4)。これらの情報を通じて、相談の方法や窓口について理解を深めることができ、孤独や孤立に悩む人々が声を上げやすくなる。

利用者は対面することなく専門家の意見を無料で聞けるうえ、必要な知識を確認し蓄積することができる。心理的負担も少なくプライバシーも守られ、必要に応じて対面相談につなげることもできる。

自覚が余りない場合でも孤独・孤立対策に関する情報を収集し、必要な人々と共有することは自身や身近で孤独・孤立の問題を抱える人のためにも大切である。自身や知人が孤独・孤立している場合、その事実を伝えることで、相談に踏み切る契機にすることもできるだろう。また、現在、孤独・孤立している人に声をかけ、次のステップへの後押しをすることも可能になろう。

これらの情報活用が普及・浸透すると、孤独・孤立問題の専門窓口につなぐという作業が円滑になり、課題軽減の素地が構築されていくのではないだろうか。

図表5 孤独・孤立対策ウェブサイト
図表5 孤独・孤立対策ウェブサイト

4.生活の変化に応じたライフデザイン見直しが孤独・孤立問題の解決にも資する

政府は、孤独・孤立問題対策の1つとして、孤立する人を支援するボランティアを養成する取組みを始めた。鳥取市では、市民ボランティアの「つながりサポーター」が、地域で生きづらさを感じる人の悩みに耳を傾け、状況に応じて専門機関につなげる取組みを2022年から展開している(注5)。このように、適切な支援を必要とするときに、ためらわず助けを求めることができる環境が整備されていることが重要だ。

また、国や自治体の取組みだけでなく、私たち一人ひとりが日々の生活でどう気づき、どう行動するかも大切である。家でも、学校でも、職場でも、ちょっとした気づきや声かけが、大きな変化を生むきっかけになることがあるだろう。

そして、孤独や孤立は健康や経済、人とのつながりと相互に影響し合うため、生活環境や状況が変わったときには、それらの要素にどう対応するか改めて見直すこと、つまりライフデザインの見直しが重要になる。一人ひとりが変化を捉え、その変化に応じて考え方を変え、さらに行動を新たにすることで、孤独・孤立の問題を解決し、ウェルビーイングを維持・向上できる方向に個人も社会も向かうことが望ましいといえる。

【注釈】

  1. 世界的にも孤独・孤立対策は社会課題となっており、英国は2018年に世界初の孤独担当大臣を設置し、WHOは2023年11月に「社会的つながりに関する委員会」を設立している。これらは、新型コロナによるパンデミックが貧富の差を拡大し、孤独・孤立の問題をさらに深刻化させていることを背景にしている。

  2. 内閣官房「孤独・孤立対策の重点計画 概要

  3. 注2に同じ。

  4. いくつかの質問に答えることにより、約150の支援制度や窓口の中から、自身の状況に合った支援を、チャットボットで探すことができる。最初に住まい地域の郵便番号・都道府県・市区町村名を入力し、ガイダンスにしたがって検索する。

  5. 鳥取市「とっとり市報 令和5年4月号

【参考文献】

  • 内閣官房「人々のつながりに関する基礎調査(令和5年) 調査結果の概要」2024年3月

  • 内閣府「孤独・孤立対策重点計画の策定に向けて」2024年4月

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー

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