ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

働く世代にも大切な「ヘルスリテラシー」とは

~「楽しさ」から見つける自分にあった健康法~

福澤 涼子

目次

1.今後は健康を重視したい人が7割

新型コロナウィルスの感染拡大等もあり、人びとの健康への関心が高まっている。最新の内閣府「国民生活に関する世論調査」によると、およそ7割の人が今後は「健康」に力点をおいた生活をしていきたいと考えている。だがその一方で、内閣府「男女の健康意識に関する調査報告書」によると、20~50代の7割が、肩こりや身体がだるい、いらいらしやすいなど何かしらの心身の不調をかかえている(注1)。

近年では、こうした働く世代の不調が企業経営上の課題であるという認識も広がりつつある。メンタルヘルスや片頭痛、肩こりなどの不調を抱えながら業務能率の落ちた状態で就業することによる間接コストは、欠勤によるコストや、直接的な医療費を大幅に上回るということがわかってきたからだ(注2)。欠勤を伴う体調不良であれば周囲も対策を講じやすいが、就業をしている場合は気づきにくく通院や休養を促すなどのフォローをしにくくなる。さらに職場によっては在宅勤務が増えたことで、互いの様子が見えにくくなっていることもあるだろう。

こうした企業の認識や職場環境の変化によって、これまで以上に一人ひとりが健康を自己管理していく必要性が増している。そのために重要なスキルが「ヘルスリテラシー」である。

2.ヘルスリテラシーという能力の重要性

個人の健康維持に役立つ能力である「ヘルスリテラシー」は、「健康や医療に関する情報を入手し、正しく理解して活用する能力」である。この能力は、単に健康情報を正しく理解することにとどまらず、その情報をもとに健康的な行動を取ることがポイントである。たとえば、運動が健康に与える効果を理解し、日常生活に取り入れる、適切な飲酒量を理解し、控えるようにする、病気になった際は適切な医師を見つけ、得られた指示に基づいて行動を起こす、などが該当する。

ヘルスリテラシーがもたらす健康への良い影響は多く報告されており、たとえばヘルスリテラシーが高い人は糖尿病などの慢性疾患の自己管理ができたり(注3)、高齢者の認知機能(注4)や死亡率(注5)にも良い影響を与えるということが明らかになっている。また、日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査」では、PMSや月経随伴症状でパフォーマンスの低下を感じる女性が多い中、ヘルスリテラシーが高いとその影響が少ないことが報告されている。経済産業省「健康経営優良法人認定制度」でも、「ヘルスリテラシーの向上」が認定基準の1つとされており、社員のヘルスリテラシーの向上を支援していくことが企業に求められている。

3.主観的健康感とヘルスリテラシー

また、ヘルスリテラシーが主観的健康感に影響するという関係性も明らかになっている。主観的健康感とは、持病の有無や寿命など客観的な健康指標と異なり、自身の健康状態を自分自身で評価する指標である。自己の主観にもかかわらず、生命予後の予測などにも有用であるとされ、健康に関する指標の1つとして関心が高まっている。

図表1は、月に1度以上通院している人たちを対象に、ヘルスリテラシーの高さに応じた主観的健康感の比較である(注6、7)。これによると、「情報をもとに健康改善のための計画や行動を決めることができる」という項目のヘルスリテラシーが高い人は、定期的に通院しているにもかかわらず、34.9%が自分の健康状態を良好(現在の健康状態を「よい」「まあよい」と回答した人の合計)と認識している(図表赤枠)。一方、ヘルスリテラシーが低い人では、その比率は12.2%にとどまる。他の4つの項目でも同様の傾向が確認され、ヘルスリテラシーが主観的健康感に影響を及ぼしていることが示唆されている。

さらに、主観的健康感は生活満足度や幸福感とも関連があると言われている。内閣府「満足度・生活の質に関する調査」によると、自身の健康状態が良いと感じている人ほど生活満足度が高いことが報告されている。もちろん、誰でも心身の不調を抱えるリスクはあるが、ヘルスリテラシーを高め、不調はあっても自己管理ができれば、主観的健康感を維持しやすく、結果として幸福度や生活満足度にもつながるのではないだろうか。

図表1 ヘルスリテラシーの高さ別、主観的健康感が高い人の割合(月に1回以上通院する人)
図表1 ヘルスリテラシーの高さ別、主観的健康感が高い人の割合(月に1回以上通院する人)

4.楽しさで探す自分にあった健康法

しかし、国別のヘルスリテラシーを比較した研究(注8)では、日本人のヘルスリテラシーはアジアやヨーロッパの国々と比べて相対的に低く、全体の85.4%がヘルスリテラシーが不足していると報告されている。日本人の場合、健康情報の収集は比較的できるものの、その活用が課題の1つとなっており、たとえば「運動、健康食品、栄養などの健康的な活動に関する情報を見つけるのは難しい」と感じる割合は約3割にとどまる一方で、約6割が「参加したいときにスポーツクラブや運動の教室に参加するのは難しい」「健康と充実感に影響を与えている生活環境(飲酒、食生活、運動など)を変えるのは難しい」と感じている。

また厚生労働省の「国民健康・栄養調査(2019年)」によると、運動習慣のある人は男性で33.4%、女性で25.1%にとどまり、過去10年間でみても男性は増加せず、女性はむしろ減少傾向にある。多くの人は運動が病気の予防に有効であることや、ストレスの軽減など生活の質を向上させるという知識をもっているはずだが、それを習慣化するのはハードルが高いことがうかがえる。

就業者に対する運動継続理由の調査(注9)では、運動を続けている人と続かない人の両方が「健康や病気の予防に良い効果があるから」という健康上の影響を運動を続ける理由としてあげていた。だが、運動を続けている人たちは、それに加えて、運動そのものを楽しんだり、運動を通じて仲間や家族との時間を楽しんだり、感動などの高揚感を得ている傾向にあった。

つまり、必要性から運動を強いるのではなく、自分が楽しめる運動を選択することが、運動を継続する鍵となるのではないか。もちろん、運動自体に苦手意識があり楽しむことができない人もいるが、現在では何百種類ものスポーツが存在するし、登山やヨガのように誰かと競い合うことなく身体を動かす方法もある。さらに最近では「ゆるスポーツ」と呼ばれる、運動が苦手な人でも楽しむことができる競技ジャンルも生まれている。そうした中から、まずは自分が楽しいと思える運動法を探してみてはどうだろうか。

5.肉体だけではなく、精神的・社会的な要素も意識することがより良い健康法になる

心と身体は密接につながっているといわれるが、楽しんでする運動は、身体だけでなく精神の健全性向上にも寄与すると考えられる。精神が健やかであれば、身体を動かす意欲も高まり、良い循環となっていくだろう。この考え方は、運動だけでなく、健康に重要とされる食事や休息などにも当てはまる。知識をもつことはもちろん重要だが、その知識をもとに「楽しい」「美味しい」「気持ちがいい」といったポジティブな感情をもてる方法を探すことも大切だ。

私たちは健康を「病気のないこと」と捉え、「健康法=身体の改善」に焦点を当てがちだが、世界保健機関(WHO)は健康を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態」と定義し、この良好な状態を「well-being」と表現している。これを踏まえると、健康のための行動は、楽しみという精神的な要素や、仲間と一緒に行う社会性を意識することで、よりウェルビーイングな状態に近づくことが可能となるだろう。健康に良いとされるものや行為は数多く存在するが、その中から自分が楽しめるもの、家族や仲間と共有できるものを見つけていくことも、重要なヘルスリテラシーなのではないだろうか。

【注釈】

  1. 調査では現在抱えている病気やけが等の不調について、28個の選択肢(「肩こり、腰痛、手足が冷える、体がだるい、いらいらしやすい、目のかすみ・物が見えずらい、頭痛、眠れない、便秘、もの忘れをする、手足の関節が痛む・手足の動きが悪い・手足のしびれ、胃腸の不調、足のむくみやだるさ、めまい、月経不調・月経痛、耳鳴りがする・聞こえにくい、発疹・かゆみ、動悸・息切れ、口腔内の不調、排尿の不調、熱がある、胸部に痛みがある、骨折・捻挫・脱臼、妊娠にともなう体調不良、その他、あてはまるものはない」)について尋ねている。20~50代の男女で「あてはまるものはない」と回答した人は27%だったため、7割は不調を抱えていると推測される/男女の健康意識に関する調査報告書「第4章 男女の健康意識に関する調査結果」

  2. 健康問題に起因するパフォーマンスの損失を指す言葉として、病気や体調不良によって従業員が就業できない状態をアブセンティーズム、就業はしているが、病気や体調不良で仕事に集中できず、業務能率が落ちた状態をプレゼンティーズムと言う。

  3. Stacy Cooper Baileyほか「Update on health literacy and diabetes」Diabetes Educ.2014

  4. Vishal K Gupta「Disparities in Age-Associated Cognitive Decline Between African-American and Caucasian Populations:The Roles of Health Literacy and Education」J Am Geriatr Soc.2016

  5. David W. Baker ほか「Health Literacy and Mortality Among Elderly Persons.」Arch Intern Med. 2007

  6. 調査概要は以下の通り。調査名:「第12回ライフデザインに関する調査」、実施日:2023年3月3日~5日、調査対象:全国の20~69歳の男女個人10,000人、調査方法:インターネット調査。

  7. ヘルスリテラシーの尺度は、Ishikawa H,Nomura K,Sato M,Yano E「Developinga measure of communicative and critical health literacy:a pilot study of Japanese office workers」(2008)を参考にした。

  8. 中山和弘『これからのヘルスリテラシー 健康を決める力』講談社 2022年

  9. 江口泰正,井上彰臣,太田雅規,大和浩「運動継続者に見られる継続理由の特色―労働者における運動継続への行動変容アプローチに関する研究―」『日本健康教育学会誌』2019年

【その他参考文献】

  • 内閣府「国民生活に関する世論調査」2023年11月調査

  • 内閣府「満足度・生活の質に関する調査」2019年~2023年

  • 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査結果の概要」2019年

  • Goetzel RZ, Long SR, Ozminkowski RJ, et al. 「Health, absence, disability, and presenteeism cost estimates of certain physical and mental health conditions affecting U.S. employers」2004年

  • 厚生労働省保険局『コラボヘルスガイドライン健康経営』2017年

  • 特定非営利活動法人日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査」2018年

  • 村田伸,津田彰「高齢者の主観的健康感の充実に関する研究」久留米大学心理学研究2008年

  • 三徳和子,高橋俊彦,星旦二「主観的健康感と死亡率の関連に関するレビュー」川崎医療福祉学会誌 2006年

  • 世界ゆるスポーツ協会ホームページ

  • 笹川スポーツ財団ホームページ「スポーツ辞典-約200種類のスポーツ一覧-

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 住まい(特にシェアハウス)、子育てネットワーク、居場所、ワーキングマザーの雇用

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