ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

介護サービス相談の柔軟性を高めるために

~遠距離別居家族の相談にも対応する体制整備の必要性〜

後藤 博

目次

1.求められる家族介護への支援

核家族化・長寿化による家族介護の限界を見据え、社会全体で要介護者を支える公的介護保険が導入されてから20年以上が経過した。現在、団塊の世代(1947~1949年生まれ)全員が75歳以上の後期高齢者になる2025年を控え、介護保険制度の維持や介護の担い手の確保が大きな社会問題となっている。そのため国は、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築を推進しており、これまで主に要介護者への支援の充実が図られてきた。

一方で、公的介護保険ではカバーしきれないところについては、依然として家族介護に依存するところも多く、近年ではビジネスケアラー(仕事をしながら家族などの介護に従事する人)の問題も注目されている。介護と仕事の両立など家族介護者の負担を軽減するには、さらなる支援制度の整備・拡充に加え、負担軽減策の活用を促す情報提供や啓発が重要といえる。また、遠距離で別居しているなど直接自身で介護できる状況にはないものの、要介護の親の介護サービス選択等を支援しなければならない家族も多い。

そこで本稿では、地域包括支援センターやケアマネジャー(介護専門支援員)への相談など介護サービスの検討・選択について、家族介護者や遠距離別居家族の観点から考察する。

2.簡単ではない介護サービス選択

高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして創設された介護保険には、利用者本位という基本的な考え方がある。これは、多様な実施主体から利用者自身がサービスを選択できるということにつながっている。現在、医療・福祉等の分野をまたぐものをはじめ、介護保険で利用できるサービスは多岐にわたり、様々なサービスをきめ細かく受けることができる。だがその一方で、利用者にとってその選択は簡単でなくなっている(注1)。

たとえば、医療・福祉にも類似のサービスがある「訪問リハビリ」や「訪問看護」については、要介護認定を受けている人は原則として介護保険が優先される。しかしながら利用者の状況はそれぞれ異なるため、介護保険サービスを利用するかどうかは、個別の事情に基づいて決定されることになっている。

そのため、要介護者の状況やニーズに応じた適切なサービスを選択するには、医療・介護・福祉各分野の専門職による相談支援が不可欠である。専門職への相談は、サービスの具体的な内容や状況を知り、サービス選択の適格性を判断するうえで、要介護者はもとより、家族の負担軽減にもなる。中でもケアマネジャー(介護支援専門員)は、利用者と家族の身近で主要な相談相手として位置づけられる(注2)。

3.ケアプランへのセカンドオピニオンも視野に

介護保険サービスの利用に向けては、サービス選択や専門家への相談を円滑に進めるために、あらかじめ情報収集先を把握しておくことが望ましい。ネットや書籍から入手できるが、地域包括支援センター等の相談窓口も活用できる(図表1)(注3)。

図表1 介護等に関する相談窓口
図表1 介護等に関する相談窓口

公的介護保険で介護サービスを利用するには、ケアプランを策定する必要がある。ケアプランはサービス利用者自身やその家族が作成することもできるが、介護関連制度、サービス事業者等についての知識はもちろん、関係者との連絡・調整、諸手続きが必要になるためハードルが高く、実際にはケアマネジャーに委託するケースがほとんどである。ケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所は、居住地の市区町村の介護担当窓口や地域包括支援センターで紹介してもらうことができる。

ケアプランで設定された介護サービスについて、担当以外のケアマネジャーからも意見を聞きたい場合は、市区町村の介護担当窓口、地域包括支援センター等が窓口となる。医療でセカンドオピニオンがあるように、介護においても第三者に相談することは、サービスの選択に重要な意味をもつ。より良い選択をするために異なる意見を聞くことが、利用者や家族にとって必要な場合もあるだろう。

4.遠距離の別居家族も相談できる体制へ

要介護者の子の観点から考えると、親の介護については、原則として親の居住地の地域包括支援センターに相談することになるが、高齢の親と遠距離で別居する人も多いため、円滑な相談やサービス検討が難しいことがある(注4)。

現在、地域包括支援センターの介護相談の対象は、住民票がある65歳以上の高齢者とその家族に限られている。さらに公的介護保険のサービスは、利用者の住民票がある市町村で受け付けることが前提となっている。

そこで、もし遠距離で別居する子が、自分の居住地の地域包括支援センターに親の介護について相談できるようになれば、対面による相談を通じ専門用語や制度内容の説明を受けたり、サービスの仕組みを確認できるようになるのではないか。また、サービス利用上の確認すべきポイントなどについても助言を得られるかもしれない。

したがって、家族介護者が自身の居住地でも相談できるよう、地域包括支援センター間の連携を容易にするなどの体制整備が求められる(図表2)。具体的には、既存の支援機能を連携強化し、地域横断、分野横断を促進することが考えられる。身近な地域包括支援センターを経由することで、相談先の選択肢も増え、医療・福祉分野に及ぶ幅広い情報の収集、サービスへの理解促進にもつながるだろう。

図表2 別居・遠距離居住の家族介護者への支援体制(イメージ)
図表2 別居・遠距離居住の家族介護者への支援体制(イメージ)

5.今後の展望〜状況変化を踏まえた支援へ〜

現状、要介護者の居住地の地域包括支援センターしか利用できず、具体的なサービスやケアプランに関する相談先は担当のケアマネジャーに限られる場合が多い。だが、遠距離別居の親等の介護が問題になる中、介護サービスの相談体制において、特定のケアマネジャーや特定地域の地域包括支援センターに限られないように、相談先の選択肢を拡大した方が良いのではないか。そうすることで、遠距離別居の親の介護サービスの相談・選択の柔軟性を高めることにつながるだろう。

利用者本位という介護保険の理念に基づくという意味でも、要介護者の家族の負担を軽減するために、遠距離の家族も含め包括的に対応できるようなワンストップ体制の構築を目指すべきではないだろうか。

介護保険サービスは専門化・複雑化し、要介護者や家族が細部まで正確に理解するのは難しくなっている。そのような現状を踏まえ、利用者の適切なサービス選択を支援するためにも、相談体制の調整・整備が急がれる。

【注釈】

1)介護保険で利用できるサービスは26種54サービスに分類され、1つのサービスの中の選択肢は1つとは限らない。https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/

2)介護支援専門員は、「介護保険法」に規定された専門職で、一般にケアマネジャーとも呼ばれている。居宅介護支援事業所や介護保険施設に配置されている。
介護支援専門員は、介護保険法において『要介護者又は要支援者(以下、要介護者等)からの相談に応じ、及び要介護者等がその心身の状況等に応じ各種サービス事業を行う者等との連絡調整等を行う者であって、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術を有するものとして介護支援専門員証の交付を受けたもの。』と位置づけられている。
介護サービスの分野においても紛らわしい専門用語・類似語があり、支援者との間で齟齬が生じやすい。たとえば「グループホーム」は、介護分野では認知症の人が共同生活をおくる施設「認知症対応型共同生活介護施設」とされる。同じ言葉でも、障害福祉分野では「身体・精神に障害のある方が援助を受けながら共同生活を送れる障害福祉サービス、共同生活援助」とされる。また、医療分野の「在宅支援診療所(地域で主たる責任をもって診療にあたる診療所)」と介護分野の「在宅介護支援センター」「居宅介護支援事業所」など類似の専門用語もある。

3)地域包括支援センターの設置と運営は、「介護保険法第115条の46」に基づいている。この法律により、地域包括支援センターは「地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設」と定義されている。

4)要介護者の家族の居住地が要介護者とは異なる人が増えていると思われる。2022年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、65歳以上の高齢者がいる世帯のうち、単独世帯が31.8%、夫婦のみ世帯が32.1%となっている。

【参考文献】

  • 経済産業省 第13回産業構造審議会 資料3(2023年3月)

  • 社会保障審議会 介護保険部会(第107回)「介護保険制度の見直しに関する参考資料」2023年7月

  • 厚生労働省老健局 「介護保険最新情報」vol.959 2021年3月

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー

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