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共生社会への一歩「改正障害者差別解消法」

~今年4月から施行 多様性を認め合う時代の幕開けに〜

後藤 博

目次

1.改正障害者差別解消法の施行が近づく

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)の改正法が2024年4月から施行される。これにより、行政機関に加え、民間企業や飲食店などの事業者も障害者に合理的配慮を提供することが義務付けられる(注1)。

この法律の目的は、障害者差別を解消し、障害の有無にかかわらず、すべての国民が人格と個性を尊重し合い、共生する社会を実現することである。今回の改正により、障害者に対する社会全体の理解が深まり、障害者が仕事やサービス利用時に直面する不利益の軽減につながることが期待される。

一方で、内閣府の調査によると、障害者に対する差別や偏見が「存在すると思う」人は2022年でも9割近くにおよぶ。これは、障害者のインクルージョン(社会的包摂)がまだ進んでいないことを示している(図表1)。

今回の改正法は、障害者への対応に今後どのような変化をもたらすのだろうか。本稿では、これまでの事例等を参考に、障害者に対する合理的配慮の向上と社会における制約・障害(社会的障壁)の解消に向けた対応について考察する。

図表1 障害者に対する差別や偏見が存在すると思うか
図表1 障害者に対する差別や偏見が存在すると思うか

2.改正障害者差別解消法の改正点

障害者差別解消法では、差別解消のための措置として、障害者への「不当な差別的取り扱い禁止」「合理的配慮の提供」「環境の整備」が挙げられている(図表2)(注2)。

「不当な差別的取扱いの禁止」は、事業者や行政機関が障害を理由に正当な理由なく差別することを禁じる措置である(注3)。「合理的配慮の提供」は、社会的障壁(バリア)を取り除く対応を必要とする場合、事業者や行政機関が過重な負担のない範囲で対応することである。「環境の整備」については、障害者に対する合理的配慮が効果的に行えるよう、事業者や行政機関に施設のバリアフリー化などの改善措置が求められている。

今回の最大の改正点は、これまで民間の事業者に「努力義務」とされていた「合理的配慮の提供」が、国や地方公共団体などと同様に「義務」となった点だ。これにより、差別を解消するための合理的な配慮を提供することが事業者に義務付けられる。

図表2
図表2

3.事例等の活用で理解を深める

従来民間事業者における「合理的配慮の提供」が努力義務であったこともあり、障害者差別解消法の社会全体に対する認知・対応はまだ十分とはいえない。そのため内閣府は、差別解消の措置について具体例を示すなどして啓発している(図表3)。

「不当な差別的取扱いの禁止」とは、障害者の権利利益を侵害する行為の禁止で、たとえば車いす・補助犬等の利用制限は不当な差別的取扱いに該当する。障害があるためコミュニケーションが難しいことを理由に受付の対応を拒否したり、本人を無視して、介助者等の付き添いの人にのみ話かけたり、同伴者や介助者がいない障害者を1人で入店させないなどの行為等も含まれる。これらについては、タブレットの利用や筆談などでの対応を試みる、障害者本人の意思を付き添いの人に確認してもらう、店員が他の客に了解をとり車いすのまま利用可能なテーブルに案内するなどの対応が望ましい。

また「合理的な配慮の提供」とは、障害のある人から、社会的障壁(バリア)に対して何らかの対応を求められた時に、可能な限り対応することである。具体的には、コミュニケーションの場面において絵や写真のカードやタブレット端末を使う、段差にスロープなどを使って補助する、代筆を頼まれた場合、障害者の意思を十分確認しながら代筆することなどの対応である。「合理的な配慮」の不提供も差別に該当し、禁止されていることに留意したい。

図表3 「不当な差別的取扱い」および「合理的配慮の提供」の具体例
図表3 「不当な差別的取扱い」および「合理的配慮の提供」の具体例

さらに「環境の整備」は、不特定の障害者に対して事前の改善措置を行うものである。それを基礎として、過重な負担のない範囲で個々の障害者に行う対応が「合理的配慮」となる(図表4)。「環境の整備」は、行政機関等・事業者の努力義務であり、「合理的配慮の提供」と併せて対応することが大切である。

図表4 「環境の整備」と「合理的配慮の提供」の関係
図表4 「環境の整備」と「合理的配慮の提供」の関係

なお政府は、企業や事業者が障害者に対して行う「合理的配慮の提供」と「不当な差別的取扱いの禁止」に関する理解を促進するため、関連するウェブサイトや資料、教材を提供している(注4)。

4.一人ひとりが障害者に対する意識・気づきをもって行動する

障害者差別解消法をみると、政府、自治体、民間事業者が主に対応するものと思われがちである。だが真の障害者のインクルージョン(社会的包摂)を目指すうえでは、一人ひとりが差別解消に向けた行動を取ることが求められる。

たとえば、日常生活のさまざまな場面で行える合理的配慮である。乗り物の乗り降りを手助けしたり、荷物を運ぶのを手伝ったりするなど、障害者が社会的障壁(バリア)への対応を望む意思を示した際には適切な対応が求められる。ただ、障害者が声を上げることが困難な場合もある(注5)。障害をもたない人は、障害者が何に困っているのか、何がバリアになっているのか日常生活の中で関心をもつことが望ましい。そのうえで、生活者一人ひとりがどれだけ行動変容できるかが問われているのではないだろうか。

さらに筆者は、障害の有無にかかわらず、同じ目線での対話を通じてこそ、新たな可能性が広がるのではないかと考えている。障害者差別の解消を目指すなかで、相談しやすい環境の整備も重要である。2023年10月からは、政府による障害者差別に関する相談窓口の試行事業が始まっている(注6)。一部の地方公共団体では、民間事業者による合理的配慮の提供を義務化する条例を制定して取組みを推進している。

障害者差別の解消を推進するには、障害の有無によって分け隔てられることなく、人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するという基本的な考え方と、それにもとづくインクルージョン(社会的包摂)が求められる。一人ひとりの意識改革・行動変容を通じて、障害の有無にかかわらず、すべての人が自分らしく生きる共生社会が実現することを心から願う。

【注釈】

1)「事業者」とは、商業その他の事業を行う企業や団体、店舗であり、目的の営利・ 非営利、個人・法人の別を問わず、同じサービス等を反復継続する意思をもって行う者。 個人事業主やボランティア活動をするグループなども「事業者」に含まれる。

2)障害者差別解消法には障害の「社会モデル」の考え方が反映されている。このモデルは、「障害」は社会(モノ、環境、人的環境等)と個人の心身機能の障がいが重なりつくりだされているものであり、障壁を取り除くのは社会全体の問題と捉える考え方。

3)障害の「社会モデル」に対して、障害は個人の心身の働きの障害によるものであるという考えを「医療モデル」という。障害のある人に対する障害を理由とした異なる取扱いに「正当な理由がある」場合、すなわち当該行為が①客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、②その目的に照らしてやむを得ないといえる場合は「不当な差別的取扱い」にはならない。
「正当な理由」に相当するか否かについては、個別の事案ごとに、「障害者、事業者、第三者の権利利益 」や「行政機関等の事務・事業の目的・内容・機能の維持等」の観点から、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断する必要がある。

4)差別を解消するための措置のポイント 内閣府 障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト (shougaisha-sabetukaishou.go.jp

5)水野映子「日本は世界で最も助け合わない国?〜手助けが必要な人はいるのだが〜

6)内閣府は障害者差別の解消に向けた相談に応じる「つなぐ窓口」を開設している。障害のある人や企業から電話やメールで相談を受付け、関係省庁や自治体に取り次ぐ。「差別的な取り扱いを受けたが、どこに相談して良いかわからない」「求められた合理的配慮の提供についての相談」等に対応する。
問い合わせ先:障害を理由とする差別に関する試行相談窓口(2025年3月下旬迄)
対象:障害者手帳を持つ人に限らず、社会的障壁により多くの制限を受けているすべての人、個人・法人に限らず、商業その他の事業を行う企業や団体、店舗等
電 話:0120-262-701(10:00〜17:00)祝日を除く
メール:info@mail.sabekai-tsunagu.go.jp

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー

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