ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

高齢者の共同居住は終の棲家になるのか

~グループリビングにおける互助の価値~

福澤 涼子

目次

1. 高齢期に家族ではない人と住むという選択肢

前稿「高齢期に最適な住まいとは(2024年3月)」では、高齢期に適した住まい方は暮らし方や価値観によって人それぞれであり、元気なうちから自身の価値観を見つめ直し、住まいの視点でもライフデザインしていくことが重要であると述べた。

本稿では、そうした選択肢の1つとして高齢者が家族ではない人と住まいの一部を共有しながら暮らす共同居住の事例を取り上げる。この住まい方は、拙稿「老後にシェアハウスで暮らすという選択~北欧を中心に広がるシニア向けコ・ハウジングとは~(2023年10月)」で紹介したように、特に、高齢者の独居率が高いデンマークなどで普及しており、単身の高齢者が急増する日本でも一定のニーズがある暮らし方だと考えられる。

こうした共同居住を選択するのは、日本でも海外でも比較的元気な高齢者であることが多い。元気な時には、住人同士で旅行を計画したり、地域活動にも頻繁に参加したりすることができる。しかしながら、徐々に身体機能が低下したり病気を患うことで、行動に制限が出て自立は困難になっていく。介護などのサービスがついておらず、住人同士の助け合いというインフォーマルな支援(互助)を前提とする住まいにおいて、住人の加齢がその暮らしをどう変えるのか、終の棲家として住み続けることは可能なのか、そのような見通しも住まいの選択においては重要である。

本稿では、共同居住の1つである「グループリビング」を実例に考える。グループリビングとは、10人程度の高齢者が独立した居室に住みながら、共有のダイニングで食事を共にしたり、家事を分担したりするなど生活の一部を協同する住まい方である。食事の提供や共有部分の清掃などは外部の事業者が行うことが多いが、介護サービスはついていない。運営については、住民が主体となる方法のほか、介護事業者が担うケースなどバリエーションがある。グループリビングは制度上のものではないため具体的な数は把握しきれないが、少なくとも全国に16棟以上あるとされている(注1)。

2.ひとり暮らしの高齢者がグループリビングに暮らすメリット

介護の必要がない段階でも、高齢者のひとり暮らしには、高齢者を狙った犯罪、転倒や急病、孤独死などさまざまなリスクや不安がつきまとう。グループリビングを検討するきっかけとして、こうした不安感の解消をあげる人も多い。

実際にグループリビングでは、物音で隣の住人の転倒に気づいて救助したり、詐欺目的と思われる郵便物が届いた際などに、住人同士で情報を共有して被害を防ぐことができる。万が一、急病などで食事に顔を出さないとなれば、誰かが様子を見に来てくれるため、単身でも安心感がある。

また、住人同士の日常的な交流を通じて孤独感が緩和されたり、住人同士が声を掛け合ってする散歩は運動機会を増やすことにもつながる。花見や小旅行など外出イベントもあり、生きがいや刺激にもなる。さらにグループリビングの一角を趣味の教室など地域に開放しているところも多く、その場合は外出が難しい高齢者でも同じ建物内で地域との交流ができる。

このようにグループリビングに暮らすことで、孤独感の解消、健康増進、生きがいの獲得などで生活の質が向上する可能性がある。もちろん、他者との共同生活は人によって向き不向きはあるものの、ひとり暮らしの高齢者やつながりの少ない高齢者にはメリットのある住まい方だといえる。

3.グループリビングの根幹である『自立と共生』という考え方

さらに、グループリビングには「居住者自身が生活の運営に関わる」という特徴がある。たとえば、居住者間でミーティングを開催して、家事の役割分担や旅行の行き先について話し合う。また、食事を提供する事業者と打ち合わせを行い、「味が薄いので濃くしてほしい」とか「冬なので鍋が食べたい」など味付けやメニューの改善を要求することもある。特に、住民が運営主体のグループリビングでは、主体的に意見を述べないと生活が改善されにくいため、話し合いでの意思決定が重要となる。また、介護事業者など別法人が運営を担っている場合、住民のニーズを運営者が拾い上げるような形でのミーティングとなる(注2)。いずれにせよ、介護施設などのように、与えられるサービスを受けるだけではなく、自己選択を通じて自分たちらしい暮らしを実現しようというのが、グループリビングの根幹の考え方である。

そのため、メディアや書籍でも『自立と共生』という言葉がグループリビングの理念として語られる。この言葉に惹かれて入居したという住人もおり、自分の生き方を選んでいこうという意識や行動力のある高齢者が住む傾向にあるといえる。

4.いつまでグループリビングに住むことができるのか

しかし、加齢とともに身体機能や認知機能が低下することは避けられない。他者と話し合いで物事を決めていくことは徐々に困難になってくるし、助け合いの変化もあるだろう。以下では、住人の加齢による変化のなかで、いつまで住むことができるのかについて考えていく。

(1)介護が必要になっても住み続けられるのか

入居時には要支援・要介護の認定を受けていない人が多いが、時間が経つにつれてそうした認定者は増えてくる。介護保険上、グループリビングは「自宅」の扱いとなるため、認定を受けると外部の介護サービスを受けて生活することになる。

複数のグループリビングの話によれば、過去の入居者の半数以上は、外部の介護サービスを受けながら生活し、最終的に病院に移り亡くなるまでグループリビングで居住し続けていた。ただ、認知症の場合は共同生活に必要な他者との協調性が低下するため、人間関係などのリスクを抱えやすく、住み続ける難易度は高まりやすい。一方で、認知症でも他者の生活を脅かさないようであれば、入居が継続できることも多い。積極的に話しかけたり、他の居住者が一緒に散歩に行くなど、認知症の住人への配慮も見られている。

認知症にかかわらず、生活に不自由が出てきた住人のために、地域の人が有償のボランティアで支援するという仕組みを導入しているところもある。また、元気な住人が玄関先まで車いすを押して外出をサポートしたり、連休等で事務所にスタッフがいないときに怪我をした住人を他の住人が病院に連れて行くなど、住人同士の助け合いも見られている。一方で、そうした助け合いが負担となり退去したという人もおり、転倒などトラブルが発生した際には、基本的には住人だけで解決しようとせず運営事業者や事務局のスタッフに連絡するよう促している。

もちろん、こうした住人同士の助け合いがあるからといって、誰もが住み続けられるわけではない。適切な訪問介護事業者が見つからなかったり、介護保険の上限に達して自己負担が大きくなったケースでは、介護サービス付きの施設に移る選択をせざるを得なかったこともある。一方、脳梗塞などの病気を繰り返しながらもグループリビングに住み続けたいと本人が強く希望したケースでは、家族が泊まり込んで介護したり、ショートステイを活用しながら住み続けた。このように、サポートしてくれる家族の有無や収入・資産の程度、近隣の介護事業者の状況によっても、グループリビングでの生活を継続できるか否かは大きく変わってくるといえる。

また、系列の事業者で認知症向けのグループホームを運営しているグループリビングもある。認知症を発症してそちらに移ったとしても、建物が隣接しているため、グループリビングでの人間関係も維持できる。これは状況に応じた住まいの選択であるとともに、暮らしの見通しを立てられるという点でもグループリビングの住人に安心感を与えている。

(2)看取りは可能か

現在の日本では、死亡場所が自宅のケースは2割弱にとどまるが、グループリビングでも看取りを経験したところがある。胃がんを患った住人が、「手術はせずに住み慣れた我が家で終わりたい」と希望して実際にグループリビングで亡くなった。その時には、訪問看護を依頼し、コーディネーター役だった居住者や共に住んでいた姉が看病した。他の居住者には、助ける義務を感じて不安になることのないよう「いつも通りの生活を」と指示されたが、当時を知る元住人は、亡くなる間際の人が近くにいることでの緊張感があったという。確かに、身体機能が衰えて、徐々に食事やコミュニケーションが困難になる過程を身近に感じて生活することは、本人のみならず住人の不安も大きいと考えられる。ただ当時の資料(注3)によれば、この経験を通じて、かえって自分の終末に対する不安が解消されたと述べている住人もいる。

また、別のグループリビングで、ある住人が亡くなる間際に、本人がここに住み続けたいと希望したことがあるが、スタッフが不在となる夜間をいかに対応するかという問題が発生した。その時には、居住者の友人が夜間だけ滞在すると名乗り出たため看取りを行う方向で動いたが、訪問診療などを整えている最中に病状が急変して病院で亡くなった。また別の運営者は「看取りは可能」と話す一方で、「夜は誰もいないので、それでもいいなら」と住人に念を押している。

グループリビングはあくまで自宅であり、夜間や休日は住人だけの生活になる。そこで最期を遂げるには家族や友人の支援が必要になるだろうし、そうした支援なく居住者同士で看取るというのは、他の住人が高齢化してくるとその難易度は高いと考えられる。

5.人と人がつながることで生まれる価値とその限界

グループリビングで暮らす価値の1つは、つながりの中で生きるという点にある。つながりによって孤独感の解消、健康増進、生きがいの獲得など生活の質の向上が期待される。一方で、介護の支援まで居住者同士で行うのは限界があり、介護ニーズが高まっても住み続けられるかどうかは、本人の状況(家族の支援、資産・収入など)やその地域の状況にもよる。

グループリビングでの助け合いは、外部の介護サービスや家族介護に代わる性質のものではない。介護が必要な状態になり、介護サービス付き施設などに移らざるを得ないケースも想定されるため、最初から施設に入居したほうが効率的だという考え方もあるだろう。だが、前稿「高齢期に最適な住まいとは(2024年3月)」で論じたように、長期化する高齢期において、自身の価値観にもとづき、自立できる期間にグループリビングのような共同居住を選択するライフデザインもありうるのではないか。いずれにせよ、これからの人生で大事にしたい価値観とグループリビングが合致するのか、自分自身でしっかり考えることが大切である。そのうえで、グループリビングを選択する際には、将来の介護や看取りについても想定しておく必要があるだろう。

現在、医療・介護を一体的に受けながら住みなれた地域で最期まで生活できるよう地域包括ケアシステムが構築されつつある。その中核である在宅介護を支える仕組みやサービスが発展していけば、グループリビングを自宅にして仲間と共に人生の終末期を過ごす生き方が、さらに現実的になるはずだ。地域包括ケアシステムでは、「自助・互助・共助・公助」の役割分担を踏まえながら、多様なサービスを有機的に連動して提供する仕組みが想定されている。グループリビングのような互助には自助や共助とは異なる価値がある。それぞれの価値を自分なりに組み合わせて活用することが、高齢期の生活の質を高めることにつながるのではないだろうか。

【注釈】

  1. グループリビング運営協議会のホームページに掲載されているグループリビングが16棟。この他にも、独自に運営しているグループリビングはいくつか存在している。

  2. グループリビングで重要な位置づけであるミーティングだが、コロナ禍で中止したグループリビングもあり、現在は不定期開催になっているところも多い。なお本文に掲載している運営に関する内容は、土井原奈津江,大江守之2015年「高齢者グループリビングの成立構造と社会的普及に関する-プロトタイプCOCO湘南台モデルの比較を通して-」 他、複数のグループリビング運営者からのヒアリングを参考にしている。

  3. 当時の看取りをサポートした医者や、訪問看護師、ヘルパー、そして住人らがその経験について綴ったコメントは、西條節子『地域に生きて住みなれた家で終わりたい』(2004年)にまとめられている。

【参考文献】

  • 上野 勝代/石黒 暢/佐々木 伸子『シニアによる協同住宅とコミュニティづくり 日本とデンマークにおけるコ・ハウジングの実践』ミネルヴァ書房 2011年

  • 小川志津子『グループハウスさくらの春夏秋冬』東峰書房 1997年

  • 小島美里『あなたはどこで死にたいですか?認知症でも自分らしく生きられる社会へ』岩波書店 2022年

  • 西條節子『10人10色の虹のマーチ 高齢者グループリビング〔COCO湘南台〕』生活思想社 2000年

  • 村田裕子『注目‼介護も安心の高齢者グループリビングをつくろう グループリビングさくら&COCO湘南台に学ぶ』筒井書房 2005年

  • NPO法人てのひら グループリビング運営協議会「(2019年度・2020年度)高齢者グループリビングと地域ケア資源の連携に関する調査研究」2020年9月,2021年9月

  • 土井原奈津江,大江守之「高齢者グループリビングの成立構造と社会的普及に関する研究-プロトタイプCOCO湘南台と普及モデルの比較を通して-」『日本建築学会計画系論文集』第80巻,2015年

  • 佐々木淳「在宅における看取り」『医療と社会』2023年

  • 宮野順子,髙田光雄「高齢者グループリビングにおける居住者間関係と生活の質-『グループハウスさくら』の運営履歴を通して」『日本建築学会計画系論文集』第81巻,2016年

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福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 住まい(特にシェアハウス)、子育てネットワーク、居場所、ワーキングマザーの雇用

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