ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

上の世代との会話は学びか、苦痛か

~効果的な世代間交流のあり方とは~

福澤 涼子

目次

1.今年は 4年ぶりの忘年会で、世代間交流が増えるか

新型コロナウィルスが5類に移行して、初めての年末を迎えようとしている。感染拡大前は、およそ半数(45.1%)の人が「会社・仕事関係」の忘年会・新年会を予定していたが、感染拡大以降は20~25%の低水準にとどまってきた(注1)。ただ今年は、新型コロナウィルスが5類に移行したことで、4年ぶりに会社や仕事関係の忘年会・新年会に参加するという人や、中には初めて参加するという若手社員もいるかもしれない。そのような忘年会の場では、中高年と若年者など世代をまたいでの会話が交わされることとなるだろう。

世代間交流に関して特に中高年者は、次世代に貢献したいという意識(注2)が高まりやすく、地域社会や職場の次世代のために、これまでの経験や知識を伝えていこうといった利他的な行動をとる傾向がある。こうした利他行動に対して、若者から笑顔や感謝の言葉などポジティブな反応が返ってくるならば、次世代への貢献意識や行動は増え、中高年自身の心理的な幸福感にも効果があるとされる。

一方で、こうした利他行動すべてが若者にとって受け入れられるわけではなく、若者が感謝しなかったり、交流を拒絶したりすれば、中高年の次世代への貢献意識は低下し、支援行動も減ることがわかっている(注3)。そのため、いかに双方がポジティブなコミュニケーションができるかが重要だといえる。

当研究所では、2023年3月に「第12回ライフデザインに関する調査」を実施した。本稿では、その中での「世代間交流」に関する調査結果をもとに、現代の若年世代の世代間交流の実態や意識を踏まえて、双方の適切なコミュニケーション方法について考えていきたい。

2.およそ4割の若者は、家族以外の上の世代との交流をしていない

図表1は、若齢層(18~34歳)が上の世代と会話をする頻度のグラフである。半数以上の若者が、親や祖父母などの親族と週1回程度以上の会話をしている。対して、家族以外の上の世代の人との会話(ここには、接客や業務上の報告は含まれない)は、「ほとんどない」と回答する人が39.2%と最も多かった。もちろん、職場や地域には、色々な世代の人がいるだろうが、世代をまたいでのコミュニケーションは日常的にあまり行われていないようだ。

図表 1
図表 1

家族以外の上の世代との交流が少ない理由として、職場の親睦を図る飲み会やランチといったコミュニケーションの場が減少傾向にあり、特にコロナ禍を経て大幅に減ったことがある(注4)。また就業時間中であっても、昨今は効率性を求められることが増え、雑談をする余裕がないという若者もいるだろう。年功序列の色が強かった時代には、若者が望んでいたか否かは別にして、長い就業時間に加えて終業後・休日などのプライベートの時間にも、上司や先輩である中高年社員と若手社員が共に過ごすことが多かった。近年そうした機会が少なくなり、世代間の交流が極端に減っているように思われる。

また、世代間交流のもう1つの場である地域についても、町内会などの地域活動に積極的に関わる若者は少ない。先述の「第12回ライフデザインに関する調査」では、地域住民とのコミュニケーション頻度が「全くない」若者が6割近くに上るという結果が出ている。これも、家族以外の上の世代との交流が少ないことにつながっているだろう(注5)。

3.上の世代との交流は学びでもあるが、苦痛でもある

図表2は、若者に「自分より上の世代との交流」に対する意識をたずねた結果である。半数以上の若者が、「上の世代の人との会話によって学ぶことがある」と回答しており、中でも、日常的に交流をしている人(交流頻度高:「ほぼ毎日」「週3~4回程度」の合計)では7割におよぶ。一方で、「上の世代の人との会話は苦痛である」と回答する割合も、交流頻度の高い人のほうが高く(44.9%)なっている。日常的に上の世代と接している若者の実感として、その会話は、学びがある反面、苦痛も伴うという二面性があることがうかがえる。

図表 2
図表 2

4.学びを与える会話体験が、世代間交流の鍵

図表3は、「上の世代との会話によって学ぶことがある」の問いに、肯定的に回答した人と否定的に回答した人の別にみた、上の世代との会話の意向の比較である。

図表 3
図表 3

「上の世代との会話によって学ぶことがある」と肯定的に回答した人の60.3%が「もっと会話したい」と思っている一方、「学びがない」と感じている人では9.7%に止まる。他方、図表は省略するが「上の世代との会話が苦痛である」の設問と会話意向には相関はなかった(注6)。つまり、若者が「もっと会話したい」と世代間交流を前向きに捉えるためには、苦痛を減らすことよりも「学びがある」と感じる会話体験がより重要になるのではないか。そして、こうした次世代に学びを与える会話の機会は、経験を伝えて貢献していきたいとする中高年の意識とも合致している。

5.双方にとって効果的なコミュニケーションの工夫

それでは、どのようなアドバイスであれば、若者が学びになると感じやすいのだろうか。若齢者はどのようなアドバイスをくれる高齢者に感謝を抱くのかに関する研究結果(注7)によると、成功体験をもとにした「成功するための教え」よりも、失敗経験をもとにした「失敗しないための教え」に、より感謝を抱くという結果であった。成功談では「自分の成功談を言いたいだけのように感じた」という感想があったのに対し、失敗談のほうには「人生楽しいだけではないというアドバイスに、人生経験の重みを感じた」といった内容の感想が挙げられた。同年代同士の会話ではこのような結果にはならなかったことからも、上の年代が下の年代へ助言をする際に心がけたいポイントだろう。

加えて中高年者は、現在の若者が多様な価値観をもっていることを改めて認識すべきだ。たとえば、1990年代初頭まで日本には「定番のライフコース」があった。学校卒業後に就職、結婚をして子どもをもうけ、妻は専業主婦として家庭を守り、夫が稼ぎ頭として出世を目指すというものだ。しかし、価値観の多様化、未婚率の上昇、女性の社会進出などで標準モデルが消失し、個人単位でのライフコースの形成も進んでいる。特に、今の若年層の多くは1990年以降の生まれで、多様な価値観が当たり前の社会で育ち、一人ひとりが様々な志向をもっている。だからこそ、交流をする相手に対して「男性だから出世をしたいはず」「女性だから子どもが欲しいはず」といった先入観をもたないよう注意すべきだ。相手のニーズと異なることを助言しても、学びにならない可能性が高い。

一方、先述したとおり世代間交流には若者からのポジティブな反応も重要な意味をもっている。日常的に上の世代と交流している若者の7割以上が、「上の世代との会話によって学ぶことがある」と肯定的に捉えていることからもわかるように(図表2)、上の年代との会話は、同世代とは異なる視点が得られたり、豊富な人生経験の話を若者自身の現在や未来に生かすことができるなど、若者にとって貴重な学びの機会となる可能性も高い。その際は、若者から学びに対する感謝の気持ちや、もっと話したいというリアクションを意識的に返してみると良いだろう。そうしたリアクションが、中高年の次世代への利他行動を増やすことにつながり、良い循環が生まれるはずだ。

世代間の交流が増えるだろうこの年末、コミュニケーションを工夫して、双方にとってポジティブな時間としてほしい。

【注釈】

  1. 株式会社リクルートホットペッパーグルメ外食総研の忘年会・新年会に関する消費者アンケート調査によると、2019年12月~2020年1月の「会社・仕事関係」の忘年会・新年会の実施予定は45.1%だった。それに対し、2020年12月~2021年1月は20.9%、2021年12月~2022年1月は 22.4%、2022年12月~2023年1月は25.0%に止まり、大きくは回復していない。

  2. ジェネラティビティとも言う。ジェネラティビティはアメリカの発達心理学者のEriksonにより提唱された概念で、日本では「世代性」「世代継承性」などと訳される。中高年者が次世代に対して、自分自身が身に着けてきた技術や文化を伝えるなど、利他的な行動をとること、あるいはその感覚を持つことによって、人生の後半、終わりが見えてきた絶望感を乗り越えていき、幸福感などにつながるとされている。

  3. Sheung-Tak Cheng「Generativity in Later Life: Perceived Respect From Younger Generations as a Determinant of Goal Disengagement and PsychologicalWelbeing」Journal of Gerontology: Psychological Sciences, 64B(1), 45–54,2009 /Tabuchi.M.,Nakagawa.T.,Miura.A.,&Gondo Y「Generativity and Interaction between the Old and Young: The Role of Perceived Respect and Perceived Reject.」The Gerontolosist.55,537-547 ,2015

  4. 第一生命経済研究所「職場のコミュニケーションに関する調査」2010年・2014年によると、「ランチタイムは職場の人と過ごすことが多い」とする人は、全体的に減少傾向にあった。また、株式会社リクルートホットペッパーグルメ外食総研の「有職者のランチ実態調査」2022年・2023年によると、テレワークの増加や、働き方の異なる人が職場や取引先に増えたため一人でランチをすることが増えたとする若者は多い。

  5. 第一生命経済研究所「第 12 回ライフデザインに関する調査」2023 年によると、「以下の行動について、どれぐらいの頻度で行っていますか。/地域住民とのコミュニケーション」という問いに対して、若年層(18~34歳)の57.7%が「全くない」と回答し、他の年代の割合より多くなっている。

  6. 若年層の「自分より上の世代の人ともっと会話したい」と、3項目(「上の世代との会話が苦痛である」「上の世代との会話によって学ぶことがある」「自分より上の世代の家族・親族以外の人との会話の頻度」)の相関を分析したところ、「上の世代との会話によって学ぶことがある」との間には相関係数0.684の正の相関が確認された(1%水準で有意)。一方で、「会話の頻度」との間は0.361、「会話が苦痛である」との間は0.185の相関に止まっている(いずれも1%水準で有意)。

  7. 田渕恵「先行世代の経験を次世代に活かす:高齢者と若齢者の世代間相互作用」心理学評論63 巻 (2020) 1 号

【参考文献】

  • 株式会社株式会社リクルートホットペッパーグルメ外食総研「今年度(2022 年 12
  • 月~2023 年 1 月)の忘年会・新年会についての消費者アンケート」2023年
  • 株式会社リクルートホットペッパーグルメ外食総研「有職者のランチ実態調査(2023年3月実施)」2023年
  • 株式会社リクルートホットペッパーグルメ外食総研「有職者のランチ実態調査(2022年3月実施)」2022年
  • 宮木由貴子「職場のランチ・飲み会はどう評価されているか ― 「職場のコミュニケーションに関する調査」より ―」第一生命経済研究所 ,2015年
  • Sheung-Tak Cheng「Generativity in Later Life: Perceived Respect From Younger Generations as a Determinant of Goal Disengagement and PsychologicalWelbeing」Journal of Gerontology: Psychological Sciences, 64B(1), 45–54,2009
  • Tabuchi.M.,Nakagawa.T.,Miura.A.,&Gondo Y「Generativity and Interaction between the Old and Young: The Role of Perceived Respect and Perceived Reject.」The Gerontolosist.55,537-547 ,2015
  • 田渕恵「先行世代の経験を次世代に活かす:高齢者と若齢者の世代間相互作用」心理学評論63 巻 1 号,2020年
  • 田渕恵,権藤恭之「高齢世代が若年世代からポジティブなフィードバックを受け取る場面に関する研究」日本世代間交流学会誌 vol.1 No.1,81-87,2011年
  • 田仲由佳「中高齢者の次世代に対する意識についての探索的検討」清泉女学院大学人間学部研究紀要 第15号,2018年
  • Holly M. Hart a, Dan P. McAdams b, Barton J. Hirsch b, Jack J. Bauer「Generativity and Social Involvement among African Americans and White Adults」2001
  • 石田光規『「人それぞれ」がさみしい「やさしく・冷たい」人間関係を考える』筑摩書房,2022年

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 住まい(特にシェアハウス)、子育てネットワーク、居場所、ワーキングマザーの雇用

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