ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

老後にシェアハウスで暮らすという選択

~北欧を中心に広がるシニア向けコ・ハウジングとは~

福澤 涼子

目次

1.ひとり暮らしの高齢者の増加と、希薄な近所付き合い

ひとり暮らしの高齢者が増える中で「高齢者の孤立」が問題視されている。家族や隣人・友人との交流は、生きがいや張り合い、心身の健康や認知症予防に効果があるが、今や前期高齢者の多くが心身ともに健康で、社会活動への参加が可能とされるなか(注1)、定年後に趣味のサークルやボランティアなどに参加し、孤立しないように努めるひとり暮らしの高齢者も少なくない。

一方で、老後の長い時間を過ごすのは、やはり自宅である。高齢者の事故の多くが居室や階段など自宅内で起こることからも、何かあった際にすぐに助けを求められる人が近くにいることは大切だ。加えて、普段から顔を合わせやすい近隣同士で、挨拶だけではなく雑談を楽しむことができれば、生活の張り合いにもつながるだろう。

しかしながら、実際にこうした近隣関係をもてているひとり暮らしの高齢者は多くない。内閣府「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」によると、ひとり暮らしの高齢者は、近隣と「会えば挨拶をする」人が全体の8割いるものの、「外でちょっと立ち話をする」人は4割で、「病気の時に助け合う」、「家事やちょっとした用事をしたり、してもらったりする」などのより深い関係性を築けている人は1割未満である。

そして、このひとり暮らしの高齢者の孤立は日本独特の問題ではなく、高齢化が進む国々の共通の課題でもある。そうした中、北欧や西欧などでは、「コ・ハウジング」という住環境が、この課題に対する1つの解決策として注目されている。

2.デンマークで人気を集める高齢者向け「コ・ハウジング」とは?

コ・ハウジングとは、プライベートな生活空間と共有スペースを組み合わせ、近隣同士の交流を奨励するものだ。個別の住戸とは別の共同のキッチンやダイニングなどで生活の一部を共同することで、一般的な住宅と比べて深い関係を築くことができる。

その環境は、高齢者の介護を主眼としているわけではない。それでもコミュニティでの暮らしは、孤独感の解消、交流を楽しむ、何かあった際に助け合うなどの効果が期待されている。それらの中には、小さな子どもや若者との異世代交流ができるものから、50歳以上のみに限定されたものまでバリエーションがあり、個人の志向によって選ぶことができる。

コ・ハウジングの先駆け的な存在であるデンマークでは、1970年代からそうしたコミュニティが生まれ始め、ここ数年で新規の設立が改めて増えている(図表1)。

図表1
図表1

こうした暮らしがシニア層から求められる背景には、日本同様に高齢化が進むなか、家族や近隣とのつながりが弱まっているということが挙げられる。特にデンマークは、高齢者と子ども世帯の同居が非常に少ないことから(注2)、ひとり暮らしによる孤立・不安感の防止のためにコ・ハウジングが選ばれる。

図表2
図表2

デンマークでコ・ハウジングを手掛ける団体(Realdania)の調査によれば、高齢者が住むことのできるコ・ハウジングが、2022年時点で少なくとも385か所(一部建設中)、およそ11,000戸の住戸が存在し、デンマーク国内で広く確認されている(図表3)。

図表3
図表3

同団体によれば、それでもなお、デンマーク国内の入居待ち人数は約8,000人いると推計されており、人気の高さがうかがえる。デンマークの高齢者問題全国連盟(Ældre Sagen)は、コ・ハウジングに住むことを検討する場合、ほとんどの場所で、入居の待機者がおり、入居まで5~7年かかることも珍しくないため、50~55歳の時点で早めに決定するよう呼び掛けている。そしてこうしたコ・ハウジングはデンマークのみならず、同じく北欧のスウェーデンや、西欧のドイツ、スペイン、オランダなど各国で見られるようになってきている。

3.日本における選択肢

日本についても、コ・ハウジングのように生活の一部を共同化することで、近隣同士のつながりを生むような住宅がいくつか存在する。

たとえば、以前のレポート「シェアハウスで子どもを育てるという選択」で取り上げた「シェアハウス」にも60代以上が暮らしている事例がある。キッチンや洗面所といった水回りが共有のため、生活の中で他者と交わる頻度は必然的に高くなりやすい。住人は20~30代が中心であり、若い世代との交流が基本となる。一般社団法人日本シェアハウス連盟の調査によると、2021年時点でおよそ5,000棟ある。

また、以前のレポート「コレクティブハウスにみる家事育児のシェア」で取り上げた「コレクティブハウス」にも高齢者が住んでいるケースがある。スウェーデンで女性の社会進出にあたり家事を共同化することで、その負担を軽減する目的で誕生したコレクティブハウスは、居住者による暮らしの共同運営をしており、その中に毎日ではないが「コモンミール」という炊事当番の仕組みがある。規模にもよるが、ひと月に 1 回炊事を担当すれば、2日に1回は、他の人が担当した夕食を食べることができる。子育て世帯が住んでいるハウスであれば、子どもを含めた多世代交流の機会が日常的にあるほか、コモンミールを通じて共食機会も増える。定義が様々のため施設数の把握は難しいものの、少なくともNPOコレクティブハウジング社が関与したコレクティブハウスが関東で6棟存在する。

また、高齢者のみを対象にした「グループリビング」と呼ばれる暮らし方がある。比較的元気な高齢者10人ほどが各自の住戸とは別の共同空間において、食事や清掃など必要な生活サービスを共同で購入・利用しながら生活する。その成り立ちから、住人間の助け合いを生むことを大切にし、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などと比較して規模が小さく、より家庭的なコミュニティを形成しやすいという特徴がある(注3)。「グループリビング」をネット検索すると、その名称のついた老人ホームなども多数出てくるため、その数の把握は困難であるものの、「グループリビング運営協議会」が紹介しているものは現在国内に16か所ある。

4.高齢者がこうした暮らしを選ぶ価値

日本でこうした住居に住む60代以上の人々に実際に話を聞いてみると、高齢者にもたらす様々なメリットが見受けられた。その1つは、日常生活の中で他者との交流機会が豊富にあることである。共用スペースでの食事や団らん、すれ違いざまのちょっとした日常会話は、生活の張り合い、孤独感の解消などにつながる。ひとりだとおざなりにしてしまう食事も、共食であれば結果として栄養素の高い食事をとることとなり、健康維持に寄与するほか、会話の頻度が増えることで、認知症などの予防にも効果があると考えられる。また、わざわざ外出して参加するサークルなどとも異なり、生活の延長線で顔を合わせるからこそ、不調が見過ごされることも少ない。だからこそ、相手の体調の変化や異変に気づいて互いを見守ることができることは、こうした住居特有の関係性だといえるだろう。

加えて、非常時のセーフティネットになる点も、ひとり暮らしの高齢者にとって大きな意味をもつ。居住者からは、「夜中、身体に不調が出た際に、住人に救急車を呼んでもらい、病院まで付き添ってもらった」「大雨警報が出た際に、食料の確保など住人間で助け合った」などのエピソードが聞かれ、一人暮らしと比較して大きな安心感を得ているとのことである。こうしたセーフティネットが身近にあるという意識は、日々の生活の不安感も軽減する効果があるだろう。

5.高齢者がこうした暮らしを選ぶ際の留意点

もっとも人間関係は良い側面ばかりではなく、他者と生活の一部を共有する際に、価値観の相違によってストレスを感じることもあり、日本だけではなく海外でもそうしたデメリットは報告されている(注4)。その際に、自身の価値観ややり方に固執してしまうか、他者との違いを認め合い、必要に応じて柔軟に変化していけるかが、こうした暮らしの重要な鍵となる。

また、これらは介護サービスや生活支援サービスの提供を主たる目的とする住居ではない(注5)。先述の交流や助け合いはあくまで、関係性に基づき発生するもののため、そもそも住人との関係づくりに消極的な場合、その恩恵は受けづらい。

加えて、そうした住人間の助け合いの範囲に介護は含まれないことは認識しておくべきだろう。そのため、介護が必要になった場合には、個人で必要な外部サービスを手配して住み続けるか、老人ホームへの転居を検討することになる。

その中でもあるコレクティブハウスでは、住み続けたいと願う高齢の居住者に対し、隣人関係の中でできる範囲で助け合う仕組みをつくったり、そのハウスの居住者支援を行うNPO法人がケアマネ、ヘルパー、訪問看護の方などと連携しながら可能な限り高齢者の生活を支えていこう動きがある。また、主に高齢者を対象とするグループリビングでは、食事の提供など生活支援の一部をスタッフが行うケースが多いうえ、地域の医療機関や介護保険事業所とネットワークを結び、介護の支援やターミナルケアに取り組んだ実績をもつところもある(注6)。一方、シェアハウスの場合は、シニア向けでない限り若者を主なターゲットとしているところが多いうえ、定期借家契約の場合も多く、本人が住み続けることを望んでも、契約が更新されない可能性もある。入居する際には、年齢を重ねて要介護となった場合のことも見据えておく必要があるといえる。

以上、近隣との交流や助け合いを生みやすくする住環境の国内外の事例を見てきた。特に国内は、高齢者の数に比較して実践例が少ないが、これは、日本独特の家族観や高齢者の持ち家比率の高さなどが関連していると考えられる。必ずしも主流となる暮らし方ではないかもしれないが、ひとり暮らしの高齢者がますます増える社会において、老後の選択肢として広がっていけば、高齢者の孤立の問題への有効な対策になるだろう。


【注釈】
1.日本老年学会・日本老年医学会の報告書によれば、現在の高齢者は「若返り」しており、「従来、高齢者とされてきた 65 歳以上の人でも、特に 65~74 歳の前期高齢者においては、心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めています」とある。/「高齢者の定義と区分に関する、日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループからの提言(概要)」2017年

2.上野勝代ほか編『シニアによる協働住宅とコミュニティづくり 日本とデンマークにおけるコ・ハウジングの実践』によれば、「デンマーク統計局によると、デンマークの高齢者の(筆者注:自分の子どもとの)同居率は全国統計がとられていないため、正確な数値は不明である。しかし、複数の小規模の社会調査によると1~3%程度である。」である。一方、日本は「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果」によれば60歳以上の36.3%が子どもと同居している。

3.参考文献:星野友里「「集住」による高齢期の住まい方の研究―JKA 補助グループリビングにおける住人の「参加」に焦点を当てて―」2016年

4.Katja Rusinovic, Marianne van Bochove and Jolien van de Sande「Senior Co-Housing in the Netherlands: Benefits and Drawbacks for Its Residents」『International Journal of Environmental Research and Public Health 』2019年

5.グループリビングの場合には、生活支援サービスが付随しているケースもあるが、そのサービス購入・利用は住人合意に基づき、不適合と判断した時には変更の余地がある。居住施設側が一方的にサービスを提供する仕組みとは異なり、あくまで相互扶助による支援を主たる目的としているという特徴がある/参考文献:星野友里「「集住」による高齢期の住まい方の研究―JKA 補助グループリビングにおける住人の「参加」に焦点を当てて―」2016年

6.土井原奈津江「高齢者グループリビングの持続的運営に関する研究-先駆的事例COCO湘南台の15年の経験にもとづく考察」2015年

【参考文献】

  • 日本老年学会・日本老年医学会「高齢者の定義と区分に関する、日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループからの提言(概要)」2017年

  • 内閣府「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」

  • 内閣府「令和5年版 高齢者白書」2023年

  • Katja Rusinovic, Marianne van Bochove and Jolien van de Sande「Senior Co-Housing in the Netherlands: Benefits and Drawbacks for Its Residents」『International Journal of Environmental Research and Public Health 』2019年

  • 上野勝代,石黒暢,佐々木伸子編著『シニアによる協働住宅とコミュニティづくり 日本とデンマークにおけるコ・ハウジングの実践』ミネルヴァ書房 2011年

  • Pernilla Hagbert, Henrik Gutzon Larsen, Hakan Thoern and Carthrin Wasshede 『Contemporary Co-housing in Europe: Towards Sustainable Cities?』Taylor & Francis Ltd 2021年

  • 土井原奈津江,大江守之『高齢者グループリビングの持続的運営に関する研究-先駆的事例 COCO湘南台の15年の経験にもとづく考察-』日本建築学会計画系論文集80 巻 715 号 2015年

  • 土井原奈津江「高齢者グループリビングの持続的運営に関する研究」2015年

  • 近兼 路子「高齢者シェア居住の社会学―生活の共同と家族の再編―」2019年

  • 星野友里「「集住」による高齢期の住まい方の研究―JKA 補助グループリビングにおける住人の「参加」に焦点を当てて―」2016年

  • Realdania「Kortlægning af seniorbofællesskaber」2022年

  • Realdaniaホームページ「Rum og fællesskaber for ældre」参照(閲覧月:2023年9月)

  • Ældre Sagenホームページ「5 tips hvis du overvejer bofællesskab」参照(閲覧月:2023年9月)

  • NPO法人コレクティブハウジング社ホームページ「プロジェクト一覧」参照(閲覧:2023年9月)

  • グループリビング運営協議会ホームページ「グループリビング一覧」参照(閲覧月:2023年9月)

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福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 住まい(特にシェアハウス)、子育てネットワーク、居場所、ワーキングマザーの雇用

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