ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

ひとりで暮らす時に覚えておきたいこと(2)

~他者とのかかわりにどのように向き合うか~

稲垣 円

目次

1.単独世帯の会話の頻度

前稿(ひとりで暮らす時に覚えておきたいこと(1))では、国勢調査および当研究所で実施した調査の結果をもとに、単独世帯の実態と一人暮らしの高齢化がはらむリスクについて解説した。当研究所の調査結果から、一人暮らしの男性は、年齢を重ねるほど、周囲のさまざまな属性(家族や親族、職場や学校、職場学校以外の友人、地域)と良好な関係を構築できていない可能性が示唆された。

国立社会保障・人口問題研究所による「生活と支え合いに関する調査」(2022年7月)(注1)によると、単独世帯(一人暮らし)は毎日会話する人の割合が低い(図表1)。特に単独高齢男性の会話頻度が低く、2週間に1回以下の割合は、単独高齢女性が5.1%であるのに対し、単独高齢男性は15.0%におよぶ。一人暮らしの男性においては、年を重ねると人との交流の乏しさが女性に比べて際立ってくる。

図表1 世帯タイプ別 普段の会話頻度別 個人の割合
図表1 世帯タイプ別 普段の会話頻度別 個人の割合

一人暮らしの場合、外からはその人が何に困っているのか、どのような助けが必要なのか見え難い。表面的には支援を求めていないように見えても、実は助けを必要としているかもしれない。しかし、知り合いでもない人がそう簡単に他人の生活に介入することも難しい。一人暮らしの当事者は、相手が察してくれることを期待して待つのではなく、自ら主張する方が必要な支援が得られる可能性があるだろうし、能動的になることがリスクマネジメントにもつながる。

2.暮らしの中の人とのつながり、支えてくれる人-ソーシャルサポート

悩みを聞いてくれたり、アドバイスをしてくれたり、何らかの手助けをしてくれたりといった周囲の人からの有形無形の援助を「ソーシャルサポート」という。そのようなサポートをしてくれる人が身近にいることは、心身の健康に良い影響があるとされ、心理的な側面や身体的健康など、さまざまな領域で研究が行われている。普段から自分には困ったときに話せる、助けてくれると思える人間関係をもっていると自覚できていれば、日々の行動を多少なりとも前向きなものにするのではないだろうか。

当研究所では、ハウス(J.S.House)による分類を参考に、日常生活の様々な場面において、情緒的サポート(悩みを聞いたり、気づかうこと)や物理的サポート(具体的な事柄に対して手助けすること)、評価的サポート(認めてくれる、高く評価してくれることなど)について項目を設定し、その実態をたずねた(注2)。サポートしてくれる人は、「家族や親族」、「職場の同僚や学校の友人」、「(職場や学校以外の)友人」、「近所(町内・集落)の人」である。本稿では、特に一人暮らしの男性に着目して考察する。

まず、男性を年齢別にみると、情緒的サポート(「心配や悩みごとを聞いてくれる」「健康を気づかってくれる」)、物理的サポート(「身辺のトラブルを一緒に解決してくれる」「日頃のちょっとしたことの手助けをしてくれる」)、評価的サポート(「能力や努力を評価してくれる」)共に、サポートしてくれる人は多い順に、家族や親族、職場の同僚や学校の友人、(職場や学校以外の)友人、近所(町内・集落)の人となっている(図表2)。20代から50代にかけては、家族や親族、職場の同僚や学校の友人、(職場や学校以外の)友人はおおむね平坦に推移し、60代になると上昇する。物理的サポートについては、(職場や学校以外の)友人が60代になると下降し、近所(町内・集落)についても、年齢が上がるとともに下降している。

図表2 ソーシャルサポートの実態(男性・年代別)
図表2 ソーシャルサポートの実態(男性・年代別)

次に、「一人暮らしの男性」に絞ると、男性全体とは異なる様相となる(図表3)。図表2と比較して、全体的に20代から右肩下がりの傾向を示している。50代から60代にかけて若干上向くが、上昇したとしてもその割合は40代と同等程度である。

サポートしてくれる人をみると、男性・年齢別(図表2)では、どのサポートも全年代において「家族や親族」の割合が最も高い。しかし、一人暮らし男性・年代別(図表3)をみると、年代によってサポートしてくれる相手として必ずしも「家族や親族」が高いわけではなく、特に50代では「職場の同僚や学校の友人」「(職場や学校以外の)友人」と拮抗している。

図表3 ソーシャルサポートの実態(一人暮らし男性・年代別)
図表3 ソーシャルサポートの実態(一人暮らし男性・年代別)

3.恥を恐れるより、少しの勇気をもって「試してみる」

自分に最も近い家族や親族は、一般的に長期に安定した関係とされ、いざという時のサポートも受けやすいといわれる。しかし、一人暮らしの場合、親の死亡などにより、親族との関係が疎遠になったり、先のレポートで言及したように、年齢を重ねるほど周囲と良好な関係を構築できていない傾向があるため、「家族や親族」を支援してくれる相手と認識していないのではないかと思われる。

50代はまだ働き盛りの年代であるため、日常的なかかわりが仕事関係に集中し、それ以外の人びととかかわる時間の確保や場に参加することが難しいことは容易に想像できる。加えて「一人暮らし」という居住環境により、他者とかかわらないことが常態化し、リスク(注3)と隣り合わせであるという意識につながらないのではないだろうか。

現実を受け止め、自分事として捉えるには勇気がいるかもしれない。しかし、自身が抱える潜在リスクを自覚し、50代・60代になってライフステージが変わってからつながりをつくろうとするのではなく、早い時期から緩やかにでも意識的に人と関わっていくことが必要であろう。断られるリスクや恥を恐れず、話したり相談したりすること、たまにいつもとは違う場に参加してみること、などから始めるとよいのではないだろうか。

ただし、他者とのかかわりが大切とはいえ、リスクを回避するためだけに楽しくもないのに交流の場に参加し、無理してそこに居続ける必要はない。「一緒にいること、つながりを多くもつことが正しい、安全である」のではなく、自分がその場にいて居心地よく過ごせること、そうした中で気持ちの良いやり取りを続けられること、その先に助け合える関係がつくられていくことが理想だ。

もちろん、そうした居心地のよい関係を見つけるためには、「試しに他者とかかわってみる」というチャレンジもまた、必要であることはいうまでもない。

【注釈】

1)当該調査は、全国標本調査であり、2022年(令和4年)7月1日現在の事実について調べたものである。調査対象地区は、令和4年国民生活基礎調査(厚生労働省実施)の調査地区5,530地区(令和2年国勢調査区から層化無作為抽出)の中から選ばれた300 地区である。この地区内の全ての世帯の世帯主及び18歳以上の世帯員(世帯主を含む)が客体である。当該調査は世帯票と個人票から構成されるが、世帯票は世帯主を対象とし、個人票は18 歳以上の世帯員(世帯主を含む)を対象としている。

2)図表2および3は、当研究所が実施してきた生活定点調査の一部を活用している。調査概要は以下の通り。調査名:「第12回ライフデザインに関する調査」、実施日:2023年3月3日~5日、調査対象:全国の20~69歳の男女個人10,000人、調査方法:インターネット調査。

3)年齢を重ね、身体機能が衰えて物理的な移動が困難になれば、心身の健康にも影響を及ぼすことになる。認知症を発症しても気づかれずに進行し、最悪体調不良に気づかれないまま孤独死するなど、大きな問題へと発展するおそれもある。

【参考文献】

  • 稲垣円「ひとりで暮らす時に覚えておきたいこと(1)~単独世帯の身近な人との関係~」第一生命経済研究所、2023年12月

  • 国立社会保障・人口問題研究所「生活と支え合いに関する調査」2022年8月

  • 第一生命経済研究所「ウェルビーイングを実現するライフデザイン(ライフデザイン白書2024)」東洋経済新報社、2023年10月

  • House.J.S :Work stress social support and social support. Reading, Mass.: Adison-Wesley, 1981

稲垣 円


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。