シニア世代は生きがいによる健康マネジメントを

~生きがいを通じて心身の健康を自律的に整える~

北村 安樹子

目次

1.生きがいを感じている人はシニア世代の7~8割

60代から70代のシニア世代は、自身や家族の働き方が変化したり、仕事からリタイアするなど、人生の転機を迎える人が多い。親の介護や死を経験したり、公的年金の受給開始年齢になることもあり、家計の見通しや健康づくりについてあらためて考える人も多いだろう。

このようなライフステージにあるシニア世代には、ふだん、生きがい(喜びや楽しみ)を感じている人がどの程度みられるのか。内閣府の調査によると、60・70代で生きがいを感じている人(「十分感じている」「多少感じている」の合計、以下同じ)は、2021年12月時点で7割超であった(図表1)。対象者は異なるが、65歳以上の男女を対象に行われた翌2022年の調査(注1)でも60・70代で生きがいを感じている人は8割近くを占めた(図表省略)。コロナ禍や物価高の影響もあったなかで、「十分感じている」とした人は限られたものの、シニア世代の多くが何らかの喜びや楽しみを見出していたようだ。

一般に、高齢期の生きがいとして、家族の存在や家族と過ごす時間を挙げる人は多いが、価値観の多様化を背景に生きがいも多様化している。以下では、シニア世代の生きがいの現状とともに、それらを活かして心身の健康を自律的に整えることの重要性について提言したい。

図表1
図表1

2.シニア世代の生きがいを通じた健康増進

内閣府の調査で60・70代のシニア世代が生きがいを感じる時をみると、「趣味やスポーツに熱中している時」「孫など家族との団らんの時」「友人や知人と食事、雑談している時」「おいしい物を食べている時」などが上位となっている(図表2)。配偶者や子・孫など家族と過ごす時間だけでなく、熱中できる活動や友人・知人とのつながり、食事の楽しみなど、家族と過ごす時間以外の多様な生きがいを挙げる人も多い。

これらの時間や活動に生きがいを感じるライフスタイルを、自然体で実践しているシニア世代の人もいるだろう。だが筆者は、心身の健康を自律的に整えるという観点から、生きがいを意識的にもつことに意義があると考えている。

図表2
図表2

3.心身の健康を自律的に整えるために生きがいをもつことが大事

もちろん、いま生きがいを感じていないからといって、現状の生活や行動を直ちに変える必要はない。60・70代のライフステージでは、仕事や働き方の変化、親など家族の介護、配偶者をはじめ、家族や親しい友人・知人、同世代の早すぎる死など、多様なライフイベントを経験する。個人差もあるが、様々なストレスで一時的に生きがいを感じられなくなることは誰にでもあると考えられるからだ。

しかし、シニア世代が余暇の時間を主体的に楽しんで、外出や他者とのコミュニケーション機会をもつことは、先々の生活に向けて心身の機能低下を防ぐことにつながる。

今のシニア世代には、趣味をもつことや外出などに対し、心身の健康づくりの観点からそれらを選択・検討したり、健康的な生活に活かすことを意識している人はあまり多くないようだ(注2)。シニア世代が、自身の心身の健康状態に関心をもち、生きがいをもつことで心身のコンディションをマネジメントしていくことは、健康づくりへの自律的な対処という点で重要なことといえる。家族しか生きがいを感じない、あるいは生きがい自体をもたないシニア世代は、生きがいとなるような余暇等の過ごし方を意識的に見つけて、心身の健康づくりに役立ててみてはいかがだろうか。

【注釈】

  1. 令和4年高齢者の健康に関する調査」。調査対象は全国の65歳以上の男女4,000人(施設入所者は除く)。調査時期は2022年10~11月。
  2. 60歳以上の男女を対象に内閣府が行った別の調査には、睡眠や食生活など生活習慣の改善や、運動などを通じた身体的な健康づくりを心がけている人に比べ、気持ちを明るく保つなど心の健康づくりを心がけている人の割合が低く、他国と比べても少ないことを示唆するデータもある(内閣府「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」2021年3月)。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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